第4話 SS4 麻薬組織撲滅

 SSJからまたもや指令がやってきた。

「神戸を本拠とする組織が麻薬売買の組織を作っている。それが全国に蔓延しつつあり、今や日本は麻薬大国になりかけている。この組織をぶち壊してほしい」

「それは警察の仕事では?」

「警察が手を出しても、証拠がなければ逮捕もできない。逮捕できたとしても弁護士がやってきて、なんだかんだと妨害される。その上、弁護人が指令を伝える役を受け持っている。拘置所から指令をだしていると言っても過言ではない」

「ということはボスだけを殺せばいいというわけではないですね」

「そうだ。麻薬の処分、それに密輸ルートの解明がポイントだ。ボスを殺しても代役はいくらでもいる」

 雄一は早速神戸に向かった。神戸は華やかな街である。三ノ宮周辺は高級感あふれるショップが立ち並び、神戸牛を使った高級レストランが並ぶ。あの大阪の女性たちが神戸に住みたいというのはわかるような気がする。

 ところが、光の影には闇がある。周辺地域には風俗店が集まっているところがあり、暴力団の資金源になっているという。そこで、雄一はF地区で聞きこみ調査を行った。職をさがしている風来坊という感じのいでたちである。

 たむろしている日雇い労働者に声をかける。仕事をもってくるワゴン車を待っているとのこと。30分ほどで、黒いワゴン車がやってきた。そこに10数人の男たちが群がる。その中から5人ほどが選ばれてクルマに乗せられていった。乗れなかった男に声をかけた。

「あいつら、どこに連れて行かれるんですかね」

「おそらく、解体場所かマンション工事の資材運びだな」

「1日働いていくらぐらいになるんですかね?」

「おめえ、新人か?」

「はぁ、関東から流れてきました。向こうは寒くて」

「そうだよな。春とはいえ、ホームレスにはきついからな」

「まだホームレスではないんですが・・」

「いずれそうなるよ」

「ところで、1日働いていくらぐらいになるんですか?」

「その日によるな。1万になる時もあるが、1000円にしかならない時もある」

「なんでそんなに差があるんですか?」

「手数料だよ。それに昼飯代や交通費なんかも引かれる」

「交通費なんて、業者負担ですよね」

「そんなこと通じないよ。どうせやつらはヤクザの下っ端だ。文句を言ったらボコボコにされちまう」

「すごい世界ですね」

「まぁな。でも、世の中からこぼれたオレたちには天国さ。周りからみたら地獄だけどな」


 その後、その場所で観察を続けた。先ほどの男もワゴン車に乗せられていった。残った数人はあきらめて帰っていった。決まった時間帯があるようだ。夕刻、またもやその場に来た。労働者たちが帰ってくるところを見たかったからである。

 夜8時ごろ、黒いワゴン車が帰ってきた。疲れた男たちが重い足取りで降りてくる。多くの男は近くの飲み屋に入っていくが、一人の男が物陰にいる男に近寄っていった。そこで何か包みを受け取っている。そのままドヤ街と言われる安宿の方に足を向けた。その包みを奪うべく、雄一は通行人をよそおい、その男にぶつかった。

「何しやがるんだ!」

 男は倒れたので、手をさしのべて抱き起こした。

「悪い、悪い、ごめんな」

 と言って、ポケットに入れておいた札をその男に差し出した。すると、

「そうか、まぁいいや。気をつけろよ」

 と言い残して去っていった。雄一の手には先ほどの包みが入っていた。一目見ただけで麻薬ということがわかった。協力者の薬剤師に見てもらったら、純度の低い雑な麻薬だった。

 翌日は、F地区にたむろしているタチンボに声をかけた。援助交際を求めている女の子だ。その中でも麻薬をやってそうな女の子に声をかけ、いっしょにラブホに入った。共に裸になり、シャワーを浴びる。女の子の左腕には防水絆創膏が巻いてある。「それ、どうしたの?」

 と聞くと、

「ケガをしたの」

 と応える。左手に傷をつけるのはカッターで自傷したか、注射跡があるかだ。

 ベッドにいって、油断したところでその防水絆創膏を破った。その女の子は怒り狂ったが、注射跡だった。そこで

「落ち着いて聞いてくれ。オレは麻薬調査官だ。神戸で麻薬が蔓延しているという話を聞いて、調査をしている。キミの知っていることを教えてほしい。もちろん、捕まえることはしないし、警察に通報もしない。オレの仕事は組織の解明だ」

「でも・・」

「キミがこれからも麻薬を続けたいと思っているなら、何もしゃべらなくていい。でも、少しでもやめたいと思っているなら話してくれないか」

「やめたいとは思っているけど・・・」

「売人とのつながりか?」

 と聞くと、コクンと首をたれた。恋人をよそおった売人と縁がきれない女の子は相当数いる。ナンパをして親しくなった女の子をヤク漬けにして、麻薬を売りつけるのが組織のやり口だ。この女の子もその被害者の一人なのだ。

「なんなら関東の更生施設を紹介するぞ。個室で病気と闘うことができる。治ったら関東で働く道も紹介することはできる。どうか話してくれないか」

 すると、ぼつりぼつりと話を始めてくれた。雄一は服を着るようにすすめ、じっくりと話を聞くことにした。

 売人との出会いから、売人との会う回数、会う場所、それに他の女の子の話まで教えてくれた。話を聞き終えて、二人はラブホを後にし、新幹線で東京へ向かった。そしてSSの協力者である麻薬更生施設に女の子を預け、また神戸に戻った。女の子には、携帯電話のナンバーを教えておき、連絡を一日1回ずつするように伝えておいた。うまく立ち直ってくれればいいと願う雄一であった。


 ここからは売人を見つけ、大元をさぐる仕事だ。女の子の情報を元にF地区で張っていると、その男はやってきた。そこにタチンボの女の子が寄ってきて、金と引き換えに袋を受け取っている。麻薬の売買の現場を確認した。その場所で3人の女の子が買いにきた。蔓延といってもおかしくない。

 男が場所を変えて、路地裏に入ったところで後ろから眠り薬をかがせ、クルマに乗せた。そして空き倉庫に連れ込み、眠りから覚めるのを待つ。もちろん体は拘束している。昼になって、男は眠りから覚めた。

「おはよう。ぐっすり眠れましたか?」

「お前はだれだ! 警察ではないな。別の組織か?」

「まぁな。警察ではないことは確かだ」

「すると〇〇組か?」

 男は新興ヤクザの組織の名前を出した。

「うーん、そこでもない。となるとお前は××組か?」

 男はだまってしまった。

「まぁ、いいや。オレが知りたいのはお前がどこからヤクを仕入れているかだ。それさえわかれば解放してやる。おとなしく話すか、それとも拷問を受けるか、どっちにする?」

「話すわけないだろ。話したら兄貴に殺される」

「その兄貴をオレが殺してやると言ったら」

「そんなことできるわけがない」

「それができるんだな」

「お前、もしかして裏の警察か?」

「裏の警察? なんだそれ?」

「非合法なことも平気でする警察組織があると聞いたことがある」

「まぁな、ここにお前を監禁しているのも非合法だわな」

「すると抵抗をしても無駄ということか」

「そういうことだ。話す気になったか」

「わかったよ。知っていることを話すよ」

 と言って、××組の手下から入手していることを話し始めた。手渡しの場所は決まってなくて、携帯電話に知らせがくるということであった。これでは手渡しの現場をおさえることはできない。そこで、その兄貴のことを詳しく聞いた。すると、堀田という名前でBという酒場によく飲みにくるということがわかった。これ以上の情報は聞けないという判断をし、またもや男に眠り薬をかがせた。

「明日には警察に電話してやるよ。しばらく牢屋に入っていれば組織にねらわれることもないだろう」

 と言い残して、倉庫を去った。


 翌日から、酒場のBで田口を待った。2日後、その男が現れた。手下2人を連れて、奥のボックス席に陣取る。女の子3人がはべる。だいぶ金回りがよさそうだ。その男がトイレに行った時に雄一は行動を起こした。トイレから出てきた男に自白剤をかがせ、トイレの個室に連れ込んだ。時間はあまりない。手下の男たちが怪しんでくるまでに済ませなければならない。

「ヤクはどこにある?」

「う~、う~」

 まだ自白剤が効いていない。

「もう一度聞く。ヤクはどこだ」

「ヤクか、今は第3倉庫だ」

 自白剤が効き始めた。

「ヤクはどこからくる?」

「ヤクはF国からくる。月1で来る貨物船で運ばれる」

 雄一はここまでだと思い、何気なくトイレを出た。そこに男の手下2人がやってくるところだった。その後、男が追いかけてきたが雄一はすでに街に消え去っていた。


 その日のうちに、雄一は第3倉庫に向かった。倉庫に忍び込むと、いくつかのコンテナが置いてある。コンテナにはロックがあり、容易には開けられない。どうしようかと迷っていると。倉庫のシャッターが開き1台のトレーラーが入ってきた。助手席には田口の手下が乗っている。そしてひとつのコンテナを連結して出ようとしている。

(あやしい。田口が意識を取り戻し、ヤクを移動させる指令をだしたのではないか)

 と思い、そのトレーラーの下部に潜り込んだ。神戸から姫路の方に向かっている。交通量が少ないバイパスに出たところで、雄一は後輪の一つをめがけて拳銃を発砲した。ブシューっという音ともに、すぐにパンクする。トレーラーは道の脇に止まる。運転手は携帯電話で修理業者に連絡をいれている。田口の手下は、荷が気になったのだろう。コンテナのロックをはずして、扉を開けた。チャンスだ! 雄一はコンテナ内に飛び込み、男ともみ合う。マッチョな男で腕力は強いが、動きは鈍い。足げりをしたら崩れ落ち、雄一は後ろに回り込み、首を絞めた。と、そこにバーンという銃声。運転手が騒ぎを聞きつけ、銃を発砲したのだ。いたしかたなく、雄一も銃で反撃。運転手はもんどりうって倒れた。

 荷を見るとセメント袋が20袋。穴をあけると中はセメントではなく、白い粉だった。麻薬であることに間違いない。総量400kg。末端価格は200億円にもなる。雄一は燃料を抜き取り、袋に軽油をばらまき、そして火をつけた。またたく間にコンテナ内は炎上する。雄一はすぐさまその場を立ち去った。通り過ぎるクルマが停止し、119番に通報している。顔を見られぬようにトレーラーの反対側から逃走したのである。

 翌日の新聞には

「路上でトレーラーが火災。二人死亡」

 とだけ出ていた。麻薬のことや銃で殺害されたことは出ていない。おそらくSSJが手をまわして報道管制をしいたのだろう。

 F国の貨物船には麻薬取締局が査察を行った。やはりセメント袋の一部に麻薬が隠されていたとのこと。これにて麻薬組織は崩れた。だが、また新たな組織が産まれてくるのであろう。それでも悪の組織をたたきつぶすのが、SSの使命なのである。

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