第2話 SS2 元総理暗殺

 SSJから新たな指令がきた。暗殺依頼である。それもN元総理である。政界の黒幕と言われて久しい人物である。最近、政界のある派閥の裏金問題でまたもや表に出てきてしまった。

 依頼者はおそらく政界の大物だ。裏金問題が明らかになると都合が悪いのだろう。政界にはそういう輩がうようよいる。それとは別にSS本部はN元総理を悪として判断したようだ。ただし、殺害方法には注文がついた。武器の使用を認めないというのだ。あからさまな殺害ではなく、病死もしくは事故死をよそおうことというSSJからの指令だった。メディアを騒がすことはSS本部も避けたいのだろう。

 雄一はまずN元総理の動きをさぐることにした。ふだんは東京の屋敷にいる。クルマ椅子生活だが、まったく歩けないわけではないようだ。ふだんはボディガードらしき秘書が交代でクルマ椅子をおしている。自宅内には常時5人ほどのボディガードがついている。中には、雄一が知った人間もいた。道場で何度か稽古をした相手で、雄一と同等のレベルをもっている。ちなみに雄一は剣道4段、柔道3段、空手と合気道はともに2段の実力である。それと逮捕術のプロである。SSに入る前は防衛隊に所属していた。特殊作戦を行うレンジャー部隊にいたのをSSJに見込まれて、J-7になったのである。

 N元総理の観察をしていると毎週金曜日にかかりつけの医師が往診にくる。何か病気をかかえているのかもしれない。診察が終わると1時間ほどで白衣の男がやってきて薬の調合を始めた。薬剤師が出張で来ているのだ。雄一はその薬剤師を尾行し、行動を観察し続けた。そして金曜日に薬剤師と何気なく接触し、着衣に小型盗聴器を取り付けた。それで、N元総理と薬剤師の会話を聞きとり、N元総理が心臓病を患っていることがわかった。85才の高齢では無理もない。

 そこで、薬物による殺害を計画しようとしたが、そこは向こうも想定しているらしく、薬剤師は調合をすると薬剤師本人とボディガードの一人が毒見をする。これでは薬物による殺害は難しいと思った。N元総理は相当用心深い。


 雄一はある有力な情報を得た。N元総理の地元であるL県に新幹線が開通するので、開通式に新幹線に乗って出向くというのである。要塞みたいな自宅から出て、その日は地元の老舗旅館に泊まるとのこと。一般客もいっしょだから、忍び込むのは容易だ。雄一は早速、その老舗旅館の予約をとった。雄一は前日から入ることにした。

 当日、N元総理は新幹線のグランクラスを貸切ってやってきた。グランクラスはアルコール飲み放題で専用のアテンダントがいる。N元総理のにやけた顔が想像できた。

 L駅での開通式を終えると、N元総理は老舗旅館に向かった。離れに部屋をとっている。お相手は若女将である。女将の娘で23才の未婚者である。いずれは婿をとって女将になる存在である。

 本館から離れに行く通路には2人のボディガードがはりついている。離れの庭には3人のボディガード。だが、中の警備は薄い。雄一は前日に下見を終えて侵入口を確認しておいた。屋根伝いに行くことができたのである。夕刻、まるで忍者のごとく、屋根伝いに入り、露店風呂の上に陣取った。温泉は白く濁っている、そこにジャグジー用の機械がついている。雄一はその機械の脇に、小型のスタンガンを取り付けておいた。リモコンスイッチを入れるだけで電流が通じる。

 だが、なかなか露店風呂にやってはこない。じっと待つしかない雄一であった。夕食の時間が過ぎ、やっとN元総理が姿を現した。若女将といっしょである。二人でいちゃいちゃしながら風呂にやってきた。もちろん二人とも裸だ。

(スケベ親父め)

 と雄一は思いながら、スタンガンのスイッチを入れるタイミングをさぐっていた。体を洗ってから二人いっしょに露店風呂に入る。N元総理が風呂の脇についている機械に目をやる。

「なんだ、この機械は?」

「それはジャグジーですわ。露店風呂にあるのは珍しいでしょ。スイッチをいれますね」

 と若女将はジャグジーのスイッチを入れると、ブグブグっと泡が立ち始めた。

「ほほーこれはいいな。いっしょに入ろう」

 と、にやけた顔で若女将を誘う。そして露店風呂内でいちゃいちゃし始めた。若女将は適当にあしらいながらもN元総理の機嫌を損なわないように体を触らせている。10分ほど入っていると、のぼせたのか

「シャワーをあびて、少し体をさましてきます。先生はゆったりしていてくださいね」

 と若女将は湯舟から出た。

(ここだ!)

 と雄一は、スタンガンのスイッチを入れた。N元総理の表情がこわばり、ゆっくりと湯舟に沈んでいく。1分ほどして若女将がもどってきて、湯舟に沈んでいる元総理を見つけた。一瞬顔がこわばり、口を手でおおっている。悲鳴はださなかった。若女将は冷静だ。悲鳴をだして知らない人がきたら大変なことになることをわかっている。そしてすぐに、バスタオルを巻いて人を呼びに行く。ここで雄一はスタンガンを引き揚げる。そして屋根伝いに本館へと戻った。

 露店風呂にボディガードとかかりつけの医師がやってきた。風呂から引き揚げられた元総理を診察する。

「心臓麻痺ですね」

 と医師は診断をくだした。そこでボディガードは救急車を呼ぶことなく、どこか別のところへ連絡している。やがて黒いワゴン車がやってきて、クルマ椅子に乗せられた元総理が市内の実家に向かう。

 翌日、メディアに

「N元総理、地元で急死。持病の心臓病が悪化か」

 というタイトルが躍った。亡くなった場所は実家となっている。温泉旅館の露店風呂で亡くなったとなれば、あらぬ憶測がとび、若女将といっしょだったことがばれるのを避けたからだろう。

 以上で任務完了。だが、これでまた別の悪がのさばるかと思うと、雄一は怒りを隠せなかった。だが、その怒りはいったんおさめて、また次の任務をまつことにした。

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