SS

飛鳥 竜二

第1話 SS1 ソウル暗殺計画阻止

 SSとはSecret Serviceの略である。本部はスイスにある。雄一は日本支部に属しているが、知っているのは直属上司といえるSSJだけである。単独行動なので、組織的な動きはしない。時には協力者とつなぎをとることはあるが、基本一人で任務を遂行している。

 任務とは、非合法な警察活動といった方がいいかもしれない。SS本部が「悪」と判断した場合、その悪を排除するのが仕事である。多くは依頼者がいて、SSに寄付がされることが多いが、時には依頼者がいない場合もある。今回の任務は依頼者がいたようであるが、その存在は雄一たち実行メンバーには知らされていない。


 SSJから雄一に連絡がきた。専用のスマホが送られてきて、それを受け取ると指定の時刻に電話がかかってきた。ちなみに雄一のコードはJ7である。

「J7、今度の任務は日韓首脳会談の暗殺計画阻止である」

「場所は日本ですか?」

「いや、ソウルだ」

「ということは韓国支部も動いているのですか?」

「それはわからん。でも、そう考えていいと思う」

「ねらわれているのは日韓の首脳ですか?」

「それもわからん。ただ、日韓首脳会談を阻止しようとしていることだけは確かだ」

「ということは、その悪の組織を暴きだし、たたきつぶせばいいわけですね」

「そういうことだ。成功を祈る」

 ということで、SSJとの連絡は終わった。雄一はスマホからSIMを取り出し、シュレッダーにかけた。スマホ本体も粉砕した。証拠は残さない。これが鉄則だ。


 早速、日本の新聞社の知り合いにあたりをつけた。日韓首脳会談は1週間後にソウルで行われる。

「雄一、どうかしたのか?」

「さしたることではないが、日韓首脳会談の日程、特に総理の行動を知りたい」

「総理がねらわれているのか?」

 彼は雄一がSSの一員と知っている。いわばSSの協力者である。

「いや、わからん。だれがねらわれているかは不明だ。万が一のためだ」

「わかった。調べて後でメールで送る」

「うむ、たのむ」

 どうやら日本国内でそういう動きはないようだと雄一は思った。そういう動きがあれば、新聞社の彼になんらかの情報が入っていただろう。

 そこで、雄一は羽田に行き、その日のうちにソウルへ旅立った。そして、その夜、東大門近くの古物商に足を踏み入れていた。

「お客人、何かご用か?」

 と主人が尋ねる。

「何もない。だが、命をさがしている」

 と雄一が応えると、主人は顔色を変え、席をたち

「それではこちらへ」

 と奥の部屋に引き入れる。主人もSSの協力者である。そこには、あらゆる武器が隠されていた。雄一はそこから狙撃銃と拳銃を選択し、狙撃銃をバイオリンケースに入れてホテルにもどった。

 ホテルは日本の総理が止まるHホテルの隣にある。市庁舎が見える見晴らしのいい部屋である。

 翌日、雄一はかつて大会で対戦して、親しくなった韓国人の剣道場に行った。名目は剣道の稽古であるが、稽古の後に師範と話をかわす。師範もSSの協力者である。そこで、ある情報を得た。

「外国のある勢力が、日韓首脳会談をよく思っていないようだ」

「外国とは? 北の国ですか?」

「いや、C国のようでござる」

「C国?」

 大国のC国がなぜ? と思ったが、それよりもどういう動きをするかを知りたかった。師範もそこまでは知らないようだった。

 それで、SS本部に連絡をし、C国の動向を調べてもらった。すると、C国政府ではなく、C国の裏の組織が動いていることがわかった。

 となると、向こうも非合法でくることが予想される。韓国支部がある程度の情報を仕入れているだろうが、直接聞くわけにはいかない。雄一の知る範囲内で情報を入手する必要があった。

 ソウルでの3日目。雄一はまたもや東大門の古物商に顔を出した。

「最近、銃器を手に入れた奴はいるか?」

「いくら旦那でも、それに応えるわけにはいかない。だがC国人は来ていない」

 C国人ならば本国から武器を持ち込むことも可能だ。なにせ北の国とは陸続きだ。国境を越えるトンネルはいくつあるか分からない。だが、主人はある情報を教えてくれた。

「金はかかるが、裏の話を教えてくれる奴を知ってるぞ」

 ということで、指定のバーに行った。そのカウンターでチョンというバーテンダーに会う。そこで、メモを渡され、そのビルの上の事務所に行く。もしかすると悪の巣窟かもしれない。拳銃をいつでも抜けるようにしておく。

 事務所には、うさん臭い奴が一人背を向けて座っている。

「お客人、何が知りたい?」

「C国人が日韓首脳会談を妨害しようとしている。その情報を知りたい」

「そうか、明日また来い。それまでに調べておく。で、報酬はいくら出せる?」

「1000万Wならすぐに出せる」

「2000万Wだな」

「わかった。用意しよう」

「では、明日同じ時間に」

 ということで、東大門を去った。一人、尾行がついているのを雄一は感じ取った。おそらく東大門の事務所の手下であることが予想されたので、雄一は相手にしなかった。

 ソウルでの4日目。雄一は銀行で2000万Wを降ろした。日本円に直すと200万円ほどである。一度に下ろせないので、数軒の銀行に行かざるをえなかった。任務が成功すればSS本部に請求できるが、失敗すれば持ち出しである。報酬はいくらでるかわからない。任務の達成しだいである。

 夜、東大門のバーの事務所にやってきた。そこに、また背を向けて座っている男が一人。脇に、昨日、尾行していた男が立っている。

「時間どおりだな。まずは金をもらおうか」

 それで2000万Wを立っている男に渡した。男は間違いないことを伝えた。

「まず、韓日首脳はねらわれていない。だが、韓日首脳会談は妨害される」

「それはどういうことだ?」

「会談の場か、その前の段階で狙撃される可能性が大だ」

「それはどういうことだ?」

「首脳を殺すと、犯人さがしがきつくなる。だが、会談の妨害となればTVで全世界に放映され、韓日の関係は緊張関係にあることがさらされる。すると、韓日への投資をためらう資本家が増える。おのずとC国への投資が確保される。という構図だ」

「金がらみか、となると日韓首脳が出会う場か会談の最中だな」

「そこまではオレは知らん。だが、2000万Wの価値はある情報だと思うが」

 と、それ以上のことは聞き出せなかったので、その場を後にした。


 5日目、雄一は狙撃手の立場に立って、狙撃する場所を確認にいった。日韓首脳会談は新しい大統領府で開催される。今までの青瓦台ではなく、龍山区(ヨンサンク)の国防部の建物の中に入った。青瓦台は今では市民広場として開放されている。建物の中に入れば、警備が強固なので、問題は日本の飯田総理がその建物に入る瞬間だ。もしかしたらソン大統領が出迎えにくるかもしれない。その瞬間を狙える建物は3つ。だが、いずれも100m以上の距離がある。超優秀なスナイパーでなければ成し遂げられない距離だが、命中させなくてもいいとしたら、可能性は大きくなる。

 そこで、ひとつ目のビルの屋上に足を踏み入れた。すると、そこには先客がいた。韓国警備部の隊員である。屋上からの狙撃をしないさせないために、2日前から見張っているのだ。他のふたつのビルも同様だった。これでは屋上からの狙撃は困難である。すると、ビル内の部屋から狙撃するしかない。大統領府の入り口をねらえるビルはひとつしかない。Kビルだけだ。あとの二つは窓が別の方を向いている。となると、Kビルの全ての部屋をロックしたら狙撃ができないのではないかと思ったが、C国の組織はロックを解除するぐらいはたやすいであろう。

 となると、狙撃の瞬間を妨害するしかないかと雄一は思った。


 6日目、雄一はKビルの1室に入ってみた。ビルの管理人には日本大使館の職員と言ってある。もちろん偽造の身分証明書である。やはり明日は全室、利用不可になるということだった。窓から見ると、大統領府の入り口はまる見えだ。狙撃手だったら絶好の場所だ。

 部屋から出ようとしたら、廊下に殺気を感じた。とっさに、扉の陰に隠れる。そこに拳銃を持った男が忍びながら入ってきた。

 雄一は背後から近づき、拳銃を背後に突き付ける。

「だれだ?」

 と雄一が聞く。もしかしたら韓国警備部かもしれない。

「そっちこそ、だれだ? 日本大使館員ではないだろ。大使館員ならば単独では行動しない」

「よく気づいたな。おまえが身分を明かせば、オレも身分を明かす」

「オレか、身分を明かすことはできぬが、警備担当には違いない」

「もしかしてSSKの部下か?」

 雄一は、その男の雰囲気が自分と同じものを感じていたので、聞いてみた。すると、

「お前はSSJの部下か」

「そうだ」

 だが、拳銃は離さない。嘘かもしれないからだ。それで雄一は

「それならば、拳銃を離して足で蹴りだせ」

「わかった」

 と言って、その男は拳銃を床に落として蹴り出した。そこで、雄一は拳銃でねらいながら、その拳銃を拾い上げた。

「それではSSKの部下だという証拠を見せてもらおうか。まずコード№は?」

「K-9だ。証拠はこれだ」

 と言って、襟の裏にあるバッジを見せた。隠しバッジである。

「オレはJ-7だ」

 と雄一も言って、同じように隠しバッジを見せた。そして、拳銃の弾薬をはずし、拳銃を返した。万が一の用心である。するとその男が

「ところで、何をしに、この部屋に来た?」

「明日の警備のためだ」

「この部屋で警備するのか?」

「いや、狙撃者の立場になって考えている」

「それで、ここなら狙撃できると思ったということか」

「確かに、そのとおりだ」

「だったら、大統領府の警備車両から観察して、狙撃手を見つけたらどうだ? 私もそこから見ることにしている。一人でも多い方がいいし、狙撃はできるんだろ」

「それなりには」

 と雄一が応えると、その男は雄一を警備車両に連れていってくれた。そこにはTVカメラがいくつも用意され、異常があるとブザーが鳴る仕組みになっている。SATの隊員が控えている。それで充分な気もするが、相手はどこから撃ってくるかわからない。一人でも多い方がいい。


 会談当日、国防部のビルの周りは厳戒体制になった。Kビルをはじめ、3つのビルも立ち入り禁止である。

 雄一は、警備車両の脇にて、イヤホンをつけて狙撃銃を構えている。TVカメラが異常を発見すると瞬時にその場所が連絡される。一番上の階がAで左端が1、右端が10である。「B3」と連絡がくれば、上から2番目の階の左から3番目の部屋だということである。雄一は何度もシミュレーションを行い、1秒以内に標的を見つけられるようにしていた。

 11時。その時がやってきた。日本の飯田総理が防弾仕様の車両でやってきた。そこにソン大統領が出迎える。メディアがシャッターを切る。とその時、雄一のイヤホンに

「Cー7」

 と連絡が入った。狙っていた最上階に近かったので、すぐに照準をあて撃つことができた。だが、すぐに

「Hー8」

 と連絡が入る。上から8階目。間に合うかどうかきわどい。それでもすぐにライフルを確認し、撃つことができた。発砲されたかどうかはわからないが、日韓首脳は何事もなかったように建物の中に入っていった。まずは狙撃を阻止できた。犯人逮捕は雄一の管轄ではない。韓国警備部の仕事だ。だが、犯人逮捕はできなかった。

 狙撃の阻止はできたが、敵組織の壊滅には至らなかった。雄一にとっては不本意な任務だったが、他のSSのメンバーが打撃を与えたという情報が入った。SSJが他のメンバーにも指令を与えていたのだ。

 日本に帰ってから収支報告をしたが、プラスマイナスほぼ0であった。任務を完全達成したわけではないので、マイナスにならないだけでも救いだった。

 

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