05 旧友との再会
友神の居る神殿へ向かう為、アカシアとメトルマは共に歩いていた。
王都は改築に改築を重ね、入り組んだ道となっている。しかも魔道士などが勝手に空間魔法を施した道もあり地図には記載されていない場所もある。
とはいえ神殿までの道のりは整備されており、案内看板に従えば問題ない。
「最後に会ったのは2千年前って言ってたか? 人魔大戦の時代だな」
「ああ。終戦と同時に分かれてそれっきりだよ」
「あの時は常に海が大荒れで、おれも島から出られなかったんだよなァ」
人魔大戦とはかつて勃発した魔族と人間による生存圏をかけた戦争。
強大な力を持つ魔族に襲われる人間へほぼ全ての神が力を貸した。そんな戦争の時代を経験している古い神は武闘派がわりと多かったりする。
メトルマは島国の神であるが故に直接参戦が叶わず、酒などの物資を製造する後方支援だった。
「うちで作った物資は海神とか龍神に届けて貰ってたなァ。前線はそりゃもう大変だったって聞いちゃいるが」
ニアミスしていた可能性もあったな、と笑い合う。交通網があまり発達していなかった時代は神といえど気軽に出歩けなかったのだ。
人間が築き上げた道によって神も恩恵を受けていた。
「そうでもないぞ。その場にいる奴らみんな、必死に死に物狂いで足掻いて、あれはいい戦だった」
「あんた星神じゃなかったのか? 言ってることが軍神のそれじゃねェか」
「ヒトが星にいろんな解釈持たせまくったせいで、オレ自身困る程度には性質が増えたんだよ」
星は世界の様々な人間が観測する。その結果、ひとつの星を指しても美を司っているだとか戦を司っているだとか属性が盛られてしまったのだ。
今はアカシアという名になっているので多少は血の気が抑えられている。
「にしても、ここは普通に神が歩き回ってやがる」
「これだけ大っぴらに神が居るのもこの街ぐらいってもんだ」
人間よりその数は少ない。が、それでもぽつぽつと神の気配を感じ取る。
道の端、ひっそりと営業している易者がふとこちらを見た。にっこりと笑う易者は目元が隠れているものの気配を隠しもしていない。彼、あるいは彼女も神格の一柱だ。
「ここは神の往来も人間と同じく平等だからなァ。信者を増やす為に、わざわざ神が営業に来ているんだ」
「神も人間も平等か……サンテラリアの主神はあいつだもんな。らしいっちゃらしいか」
都市神ルーセントは街の概念が神格を得たものだ。
だが、中には元から居た神を祀り国教とする場合がある。サンテラリア王国はまさに後者だ。首都であるサンテラスともなればその影響力は最も強い。
「太陽は全てのものに等しく降り注ぐ、だったか」
「流石に貴族や平民とかの区別はあるがな。太陽の加護を持つ王族は偶像ってところだ」
「王族ってどうせ全員金髪とかだろ。あいつ好きだもんな」
「正解! 性癖を知ってるってことはアカシアってソルと仲良かったんだな」
二人が話すは太陽神――ソルスティス
サンテラス王国の主神である。信者が聞いたら卒倒しそうな話をずけずけとしていた。
「人魔大戦の時だって、金髪の人間は心なしかあいつの加護が厚かったぞ」
「いくら平等だって言っても好みばっかりは仕方ねェよな」
「だよなぁ。好みのやつには自然と肩入れしちゃうからな」
お互いに頷きあう。自分たちにも心当たりがあるのだ。
「貴様ら、何を好き勝手に言ってくれている……!」
地から響くような声。怒りを抑えているのかその声は震えている。
赤みがかった髪と黄金に輝く瞳の美丈夫。彼の話をしていると本人が来た。話ながら歩くと早いもので、神殿はすぐ目の前だった。
「久しぶりだなァ! 酒盛りでもしようぜ」
酒のボトルを顕現させるとメトルマは駆け寄る。
「だから! 我がいつ金髪好きだと言った!」
「でも実際好きじゃねェか」
「うぐ……だが、加護に関しては適したものにに渡している。そこを間違ってくれるな」
「まぁ落ち着けよ兄弟。酒でも呑んでさ。つーわけでその酒オレにもくれ」
軽く肩をたたきながらアカシアは太陽神を宥める。
「は!?」
すぐさま振り払われ、距離をとられた。
「いや、貴様どの面下げて我の元に来た! それに兄弟となった覚えはないぞ!」
「だから落ち着け落ち着け。同じ天体系神格だろ、オレたち」
兄弟みたいなもんだ、とアカシアは付け足す。が、ますますソルスティスの機嫌が下がっていく。
周囲の温度も上昇しているのかじりじりと熱い。
「あんたら、人魔大戦以来の再会なんだろ。ここはおれの酒の肴に思い出話でもして貰おうじゃねェか」
「そも、何故に此奴を連れて来たのだ」
「偶然知り合ってなァ。どうせだからアカシアと一緒に顔を出しに来たんだ」
「……アカシア? 此奴は人魔大戦において唯一魔族に付いた神だぞ」
何を言っているのだと言外に言う。
怒りも少しづつ治まってきたソルスティスがアカシアへと目を向けた。驚愕に目を見開いたのはメトルマだ。
かつての大戦。
強大な力を持つ魔族といえど、その数は人間より少ない。戦とは数だ。
人間たちと神々の団結により、早々に終戦を迎えるはずだったのだ。しかれども一柱の神が途中で離脱し魔族に組した。
魔族に加護を与え本人も最前線で暴れ回った。
結果として魔族は滅ぼされたのだが、すぐに終わるはずの戦を泥沼化させ各地に甚大な被害を齎した神がいたのだ。
「名を剥奪されちまった上に自身の神域を追放されたって聞いたが。あんたが例の……アカシアというのは?」
「あいつらがつけてくれた新しい
彼を信仰していたものたちは滅ぼされた。そして自らの土地を追放されたが為に土地の力すら引き出せない。
見ず知らずの土地を名無し神として放浪することが罰として与えられたのだ。
もっとも、本人は自由気ままなひとり旅をそれはもう楽しんでいた。
そんな当時は邪神とも言われた存在が隣にいるなんて、と考え込んだメトルマだったが。
早々にニカっと人好きのする笑みを浮かべた。そもそも考えるなんて行為、南国の酒神には向いていない。
「とりあえずアカシアも一緒に酒呑もうぜ!」
「今の話を聞いていなかったのか!?」
「楽しみだ! さっきから気になってたんだよな」
「今年のは20年に1度の出来だからなァ。期待してくれ」
酒盛りに使うグラスでも買いに行くか? と盛り上がる二柱にソルスティスは頭を抱えた。
「グラスも場も此方でが提供する。だから口を噤め」
「そうそう、乗る汽車を間違えてイズモ会議に参加出来なかったんだ。会議内容も教えてくれ!」
「オレも内容は気になるな。そもそも招待状すら渡されてねぇし」
「貴様に渡されるわけがなかろう!」
叫んだところで、ソルスティスはハッとする。周囲の人間がざわついていた。常に冷静で公平な太陽神が声を荒らげるなど珍しいと。
後ろではおろおろとする神官も見えた。ソルスティスは深呼吸をして自身を落ち着かせると神殿へ入るよう促した。
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