04 到着

『終点、サンテラス駅に到着いたしました。急がず、ゆっくりとお降り下さい』


 4時間と少しにも及ぶ汽車の旅も終わった。


 車内は騒がしくなっている。

 みんな支度はそれぞれで、長い尻尾の神は自身の尾をぐるぐると巻きながら荷物と共に持ち上げていた。鼠獣人の大家族は長い列を成して汽車の出口へと向かう。

 ホームでは冒険者が下車した仲間を迎え、熱い抱擁まで交わしている。


「クリアヒルズも人が多かったけど、やっぱりサンテラスも多いんですね」

「サンテラスは毎日こんな感じだ。大陸列車が開通して800年、テペトール諸島からここまで来るのも楽になったってもんだ」


 航海術すら発達していなかった時代は島から出られなかったのだとメトルマは語る。

 人混みを避ける為に少しだけ時間を置いて出てこうとシズリたちはコンパートメント席で談笑していた。

 暇を持て余していたメトルマもシズリたちの席に押し入ってからそのまま居付いていた。


「メトルマ様はどうして王都に来たんですか?」

「まァちっとばかしやらかしちまって」

「やらかし?」


 赤い顔が更に赤くなった。メトルマは虚空から甘い匂いのする酒を顕現させるとぐびりと流し込む。


「イズモ会議に参加するはずだったんだが……乗る汽車を間違えちまってな! それも買ったチケットから間違ってたんだ」


 イズモ会議とは神々による神々の規律を制定する為の会議である。人間の価値観や倫理観のアップデートに合わせて数十年に一度集まり、情報交換なども行われるのだ。

 そんな会議に参加する予定のメトルマであったが、乗っていた汽車は全くの逆方向。しかも各駅停車。


「神官ぐらい居んだろ? そいつらに任せればよかっただろうに」

「偶にはのんびりひとりで旅ってもんがしたかったんだよ。それに間に合わねェもんはしょうがねェ」


 あの時はまいったなァとメトルマは朗らかに笑っている。

 夢枕に立って迷ったと伝えた際、メトルマの神官は飛び起きる勢いで慌てふためいていた。そんな彼らの様子を見て(おれって想われてるァ)とほっこりしたものだ。


故郷くにを出たついで、王都の旧友に会おうと思ったんだ」

「いいな。オレも久々に顔なじみんとこ行くか。2千年ぶりぐらいか?」

「2千年前はみんな忙しかったもんなァ。おれも70年ぶりぐらいに会うよ」


 スケールの大きな会話をしていた。懐かしそうに二人で頷きあっている。


「兄さん、神様って友達いたんだね」

「今までそのような話を聞かなかったからな。正直俺も驚いている」


 ジャノメを被り、村に居た数百年とそれ以前。古い神であるとは聞いていたもののアカシアの過去を聞いたことはなかった。

 友人の話も今初めて聞いたぐらいだ。


「おいそこ! 誰がぼっちだ。聞こえてんぞ」

「ぼっちとは言っていないだろう。被害妄想、いや被害幻聴だ」


 恨めしそうなアカシアの視線をクオンは涼し気に受け流す。

 

「はぁ、まぁいい。ソルスティスの奴もイズモ会議から帰ってんだろ」

「奇遇だな! なんだ、あんたもソルスティスの友神だったのか。おれもあいつに会おうとしてたんだ」

「マジで? あー、こんなこともあるか。あいつ顔だけは広いもんなぁ」


 ソルスティスなる共通の友人を懐かしむ二人。盛り上がる神々に兄妹は取り残されていた。

 いつも隣に居る存在がどこか遠くに感じるような。うまく言葉に出来ないが、なんとなく入れない雰囲気にシズリはキュっとした顔になる。


「皺になるぞ」

「ならない」


 こねこねとシズリの眉間の皺をクオンが伸ばす。

 なんて、やりとりをしていると。


「お客さん、そろそろ車内清掃の時間なので下車をお願いします」


 辺りを見渡すと既に他の乗客は居なかった。他の乗客は既に降りていったのだ。窓から見えるホームも今は人が少ない。


「お忘れ物にお気をつけください」

「ありがとうございました!」

 

 シズリたちは駅員に促されホームへと降り立つ。

 目指すは神役所――の前に。


「神様は友達のところに行くの?」

「友達っていうか腐れ縁だ。ま、メトルマも居るし一緒に顔見せにな。お前たちも来るか?」

「わたしたちはラサーティドさんの所に行くから。お金も返したいし」

 

 ここで二手に分かれようという話になった。

 兄妹はラサーティドの所属する商会を訪ねて。そしてアカシアとメトルマは友人の元へと。


「待ち合わせ場所はどうしよ」

「神役所が妥当だろう。近くの宿をとっておく。アカシアなら俺たちとの縁を辿れるだろう」

「ああ。それでいい。ただ、お前ら絶対変なのに付いていくなよ。特にシズリ」

「行くわけないでしょ」


 びしりとアカシアが指を刺す。

 突然の名指しにシズリは不満気だ。アカシアの指を逆に折りたたもうとするも、すぐに払いのけられ逆にデコピンをされた。


「シズリは俺が見ておく。オマエは心置きなく友人との再会を楽しむといい」

「腐れ縁な」

「そこまで子供じゃないんだけど!」

「じゃ、アカシアの面倒はおれに任せな」




 王都サンテラス。

 この世界で最も歴史の長い王国、サンテラリアの首都である。そしてさまざまな神や人種が平等に暮らす街。

 駅から出るとそれぞれの目的地へと向かった。

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