3:転移特典
「…前置き、結構長いね」
「そうか?で、続きだが…それから俺たちは神を名乗る存在に一ヶ所へ集められた」
「何人ぐらいの人がいたの?」
「そうだなぁ…全校集会みたいな感じだったし、先生もいたからな。多分、あの日学校にいた面々は全員この世界に飛ばされたと思う」
「そんなに…」
「それと、俺は天使に会う前、別の高校の奴に遭遇している。うちの高校だけじゃないみたいだぞ、この現象」
「嘘でしょ…」
学校規模でも大概だと思うのに、他の地域でも起こっていたとは
この事情は一体なぜ、何のために引き起こされたのだろうか
「話を戻すと、俺たちは神共に「お前らが好きそうな力を貸してやるから、この世界に害を与えている化物を殺してくれないか?」って一方的に頼んで、流れで了承させられた」
「流れで!?」
「俺たちに拒否権というものはないし、拒否した奴は見せしめで爆散させられていたな」
「爆散!?」
「まあなんだ。色々と気分が悪くなる光景だったから…気絶していてよかったな」
「そこまで言われるようなことなの!?」
なんか、もう理解が追いつかないというか…そんなことがあっていいのだろうか
呆然と話を聞く僕を「起きてるか〜?」と揺さぶる土神君はなぜ平気そうにしているのだろうか
わからない。なにもかも、わからない…
「呆然としているところ申し訳ないが、話はまだ終わっていないぞ」
「そ、そうだよね。特典とやらの話がまだ残っているよね」
「ああ。とりあえず、神からはジョブとスキルという存在を与えられた。「流石に手札がない状態で放り出すことはしないわ〜」とかふざけたことを言いながらな」
ジョブにスキル…さっきも聞いたけれど、ゲームみたいな感じだな
そんな力が、今の僕にもあるだなんて。信じられない
一体どんな力が備わっているのだろうか
「俺のジョブは「狩人」。その影響か銃とかナイフとか日常的に使わないのに、最大限?に使えるようになっている。まあランダムで選ばれる中でなら「あたり」の部類だな」
「あたり?」
「…こんなところに飛ばされたんだ。戦闘系のスキルであった方が何かとやりやすい」
確かに、こんな森の中に武器も持たず放り出されるよりは幾分かマシだし、今後の事を考えると、この世界の化物とやり合える力を持てるジョブが最適解だろう
しかしランダム。土神君が「あたり」というのも頷ける
「ところで、戦闘系って?」
「ああ。どうやらこのジョブ。戦闘系と便利系で分かれているらしい。一般人なんて適当なジョブもあるっぽいぞ」
なにそれ酷くない?
一般人がジョブとして通じていいの?こんな化物がいる世界で?
「い、一般人になっちゃった人は、今、どこに」
「わからない。ジョブを与えられた時点でそれぞれこの世界に飛ばされたからな。どうなったかなんて、わからないし」
————わかりたくない。
震える声でそう告げた彼は、初めて表情を崩した
そうだ。こんな化物だらけの空間で一般人が生き残れるわけがない
言わなくてもわかることだ
僕は本当に運がよかったのだろう
何も知らない中、最悪何も持たない中…彼に出会えたのだから
「とりあえず、天使のジョブとスキルの確認をしよう」
「うん。どうしたらいいのかな」
「こう、左手を下に」
「ゲームかな」
「?」
「あ、ごめん。なんでもない。左手をこう、下に下げれば…」
左手を土神君の言うとおりに下へ下げてみると、半透明のウィンドウが現れる
…僕、これ知ってる
「ゲームかな!?」
「どうした急に」
「いや土神君も反応薄いね!?これ、完全にゲームじゃん!ステータスだよこれ!」
「天使がいうならそうなんだろう。伊吹も「ゲームじゃん!」っと叫びながらこの世界に飛ばされていたし…最近のゲームは全部こんな感じなのか?」
「まあ、そんな感じだよ。ところで、この後はどこを見たらいいのかな?」
「名前の横にジョブが書かれていないか?」
言われるがまま、ステータスを眺めてジョブを探す
名前は…あった。次にその横
できれば、土神君のような戦闘系ジョブであって欲しいのだが…果たして
「あば」
「…どうした、天使。その呆けた顔は。まさか」
「……」
「いっ、一般人を引いたのか!?大丈夫だ。正直に言ってくれ!俺は一般人であろうとも絶対に見捨てないから!約束する!」
「だ、大丈夫だよ。一般人じゃない。ただ、一般人に近いかも?」
「ふむ?」
「料理人」
「料理人?お料理する人か?」
「らしいです」
無事に一般人は回避できたが料理人
…いい感じに記載されているけれど、これはほぼ一般人だよね?
スキルは残念ながら便利系のカテゴリー。残念だが、これと今後は付き合う必要がある
…包丁でも戦えるのかな、これ
「…スキル一覧ってタブがあるはずだ。中にジョブの詳細と今持っているスキルの確認ができる」
「う、うん」
そのままスキル一覧へ向かい、詳細を確認しておく
「ええっと・・・「料理人」調理器具であれば何でも問題なく使用できる。ただし、料理人の命である調理道具を戦闘に使用することはできない」
「包丁を使った戦闘、駄目っぽいな」
「…料理の為に、対象を生きた状態で捌くって言うのはアリなのかな」
「その発想が初手で出てくるとは…恐れ入った。抜け道は沢山ありそうだな」
なんだろう。少しだけ、ほんの少しだけ土神君から距離をとられた気がする
とにかく、なんだ。戦闘系ジョブであれば一人でやっていく選択肢も考えられたのだが、この料理人というジョブでは一人でどうにかやっていくことは現状不可能だ
今後も彼の力を借りないとやっていけない
…彼との関係性は良好なものであるべきだと考える
今後の発言には、気をつけよう…
「だね。それから料理の味は訓練次第。願った調味料を指先から出せる」
「なんだその面白能力」
「使い方次第ではそれなりにやれると思う!」
「胡椒を周囲にばらまいて目くらまし!とか?」
「そうそうそれ。そんな感じ」
胡椒がここで出てきたと言うことは、彼の中には「七味を撒いて鼻や目の機能を奪う」という回答は存在しないらしい
酷すぎる回答をしたら、彼からドン引かれることは間違いないようだ
今後も気をつけていこう
「最後に、鑑定スキル」
「!」
「僕のはどうやら能力限定版みたいなんだけどね。草とか動物を見たら、情報が出てくるらしい。食べられるか食べられないかの判別用かも」
「それ、結構あたりじゃないか?」
「そうかな?」
「ああ。食べることは生きることに必要な事。この未知だらけの世界で安全に食事ができるっていうのはかなり大きい。いいものを貰ったな」
そっか。最悪、毒にあたったりして、最悪ここで死ぬかもしれないから…
この世界で安全に食事を行えるというのは彼の言うとおり、かなり大きなメリットと言えるだろう
「でも、何にせよ…僕は今後一人でやっていけそうにないね。土神君、僕から一つお願いが…」
「天使、一緒に来てくれないか?」
「…え?」
「嫌か?」
「いや。それ、僕が頼む方じゃない?むしろ今頼もうとしていたんだけども」
「それは願ったり叶ったりだ。同じ考えでいてくれて助かるよ。俺としては君に来てくれないと凄く困るからな」
「そ、それはどういう」
「ちょうど、探していたんだ」
森の中に大きな音が響く
この場にはふさわしくないけれど、馴染みがある音
「…もう七日も食べていなくて。何食べたらいいかわからないから。マジで助けて…」
「た、助ける!絶対に助けるから!寝ないで!起きて!もうひと頑張りして!」
「あー…そうだな。俺が狩らなきゃだからな。うん、頑張る」
「それは頑張る人の声じゃないよ!?」
彼が一番悩んでいたらしい「食事」に関する懸念が僕の登場で解消された影響か、安心しきった土神君は脱力してその場に伏せてしまう
七日間、水だけで過ごしてきたのだろう
色々とやり遂げることをやり遂げた彼に、僕は早速恩を返さなければいけない
手始めに、食べられるものを探そう
「とりあえず、もう少しだけ頑張ってくれるかな?」
「うん」
ふらふらの体を支えながら、僕らは早速食事の準備へ取りかかる
…この世界、一体何が食材になるのだろうか
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