Menu1:スライム丸かじり

とりあえず、日が暮れる前に何か食べられるものを探さなければ

できれば、生で食べられるもの。焼いて問題ないもの

土神君の銃…その弾に使われている火薬があるから火には困らない

けれど、茹でたり、蒸したりとかそういう調理は現状不可能だ

選択肢はたったの二つだけ。その条件を満たしてくれる食材はあるのだろうか


「あ、キノコがあるよ」

「…そのキノコ、食べた瞬間に吐けるぞ」

「食べたの!?」


鑑定スキルでキノコの詳細を出してみると、案の定毒キノコ


『オグスタキノコ。オグスター村周辺の森で確認されている猛毒のキノコ』

『囓るだけで全身に痺れが発生します。最悪、嘔吐が止まらなくなります』

『絶対に食べないでください』


しかもただの毒キノコじゃないらしい。滅茶苦茶ヤバい毒キノコだった

…見た目からしておどろおどろしいのに、よく囓ろうと思ったなこの人

七日間、本当に何も食べずに…ではなく、正確には手当たり次第囓っていたら毒キノコで苦しむことになったり等、知らないところでやらかしているらしい


「と、とりあえずさ…今日は食べられるキノコとか探して…ひゅっ!」


周囲の草むらが動く音がする

まさか、まさかまたあの化物がやってきたのだろうか


「…」


僕が恐怖に震える中、土神君は意識を集中させ、銃を構える

しかし若干重心がブレているように思えた


「立てる?」

「これぐらいは。俺の背後にいてくれ、天使」

「わかった」


彼を支えるように背後へ立ち、草むらから何が出てくるのか…息を呑んで待つ

草むらの動きが激しくなる

満を持して飛び出てきた化物に、土神君は弾を一発放って反応を見てみる


「…やったか?」

「土神君、そういうのはフラグだから…あ」

「なんだこのぷるぷるした生物は」

「スライムだね。この世界にいるんだ…」


弾が命中したのか、スライムは痙攣を起こして地面をゆっくりと這っていた

それをひょいっと持ち上げた後、僕はそれを鑑定してみる


『スライム。魔物。ファルアグランドの全土でその存在が確認されている』

『生存環境にもよるが、無色かつ、無味無臭であれば食用として問題なく扱える』

『この個体は食べられるスライムです』


化物…一応、魔物っていう種族名があるらしい

それにこの世界の名前はファルアグランドというそうだ。こんなところで世界の情報を手に入れることにできるとは。予想外だったな

しかしそれ以上に…


「土神君、あれ…食べられる」

「マジで?どうする?殺る?殺る?」


そわそわしているところ申し訳ないが、土神君の銃で撃ち抜いたりしたらスライムがそれこそ破裂して食べようがない状態になってしまうかもしれない

鑑定スキルの結果内に捕まえ方とか書いてないかな…


「…ええっと、ちょっと待っていてね。もう少しだけ読み込んでみるから」

『スライムは中心の核を破壊すると溶解してしまい、水へと変化します』

『食用として利用する場合、生きて捕獲するのが望ましい』


一応、食べ方について補足事項も書かれている

条件も満たしているし、捕まえるのも彼なら簡単そうだ

…僕も捕獲、挑戦してみよう


「土神君、生きたまま捕獲!」

「任された!」


その姿は飢えた狼のように

スライムを見つけてはスライムを捕獲し…しばらくすると彼は十匹程度のスライムを抱きかかえて戻ってきた

ちなみに僕は、0匹だ。全員から逃げられた


「ただいま」

「多くない?一応、全部食べられそうだけど…」

「夕飯と朝飯。二人分。できれば昼飯」

「あ、なるほど」


彼は彼なりにご飯の配分を決めているようだ

おそらく、夕食に二体、朝食に一体、昼食に二体といったところだろう


「でも、なんで二人分?」

「俺と天使の分」

「僕の分まで…いいの?」

「ん。天使もお腹空いてるだろ?それに、スライムは案外すばしっこい。天使は運動苦手っぽいし、こういうのは俺に頼ればいい。俺は天使の知識に頼るから。協力し合っているんだから、こういうのは得意なことで支え合おう」

「…ありがとう、土神君」

「天使がちゃんと捕獲方法を示してくれたおかげの収穫なんだ。お礼を言うのは俺の方だよ。ありがとうな、天使」

「いえいえ。こちらこそありがとう、土神君」

「じゃあ、どういたしまして。しかしなんだ。正直、お腹が空いて全員夕飯にしちゃいそうだが…天使も足りそうか?」

「大丈夫だよ。十分すぎるほどだと思う」

「そうか」


意識を失い続けていた僕とは違い、土神君は七日間ここを彷徨っていた

腹はずっと空腹状態。なんなら吐いたことで体力的にも限界が来ているのだろう


「とりあえず、この子達を食べる準備をしよう」

「そうだな。野営は…ここでいいか。火をおこすから、少し待っていてくれ」

「火、つけられるの?」

「ああ。道中で他校の人間に会ったって言ったろ?」


確かに、彼は出会った時に軽く説明をしてくれたな

他校の生徒もここにいた、と


「その人さ、虫すら殺せなさそうなレベルに優しそうな人って印象を最初は持ったんだよ。でも、その人ライターとか、たばことか持っていてさ。成り行きで一式譲って貰ったんだ」

「なぜ!?」

「わからない。でも、おかげさまで助かったというか」

「でも、その人も高校生だよね。なんでそんなもの」

「どこの高校かまではわからなかったが、彼は風紀委員長の腕章をつけていた。おそらく流れとしては俺のペットボトルと同じ」


ちょうど、その時に持っていたから

だから一緒に異世界転移をすることになった

けれど、彼に風紀委員長さんと呼ぶが、彼が土神君に持ち込む事になったたばこやライターを譲ってくれた理由まではさっぱりだ


「勿論だがたばこを吸う予定はない。ただ、その人の話だとたばこってこの世界にも当たり前に存在していているらしい」


…つまり、こういうことだろうか

たばこはこの世界で生きる金の代わり。取引材料として上手く使え

風紀委員長さんが土神君になぜそれらを与えたのか…その理由まではわからないが

おかげで今、こうして火を拝むことができるのだから感謝はしておこう


日が暮れ、真っ暗闇になる前の森に火が灯る

その揺らめきに何となく安堵を覚えながら、僕はスライムを食べる準備へと取りかかる


「とりあえず、聞いておきたいんだが…このスライム、衛生的に問題ないのか?その、洗ったりだとか」

「無色かつ無臭であれば問題はないね。そのスライム君は鑑定で「食べられる」と表示されているから問題なく」

「そうか」


安全に食べられる。その確証を得た瞬間、土神君はスライムに齧り付いた

スライムに歯を立て、にゅーっと伸びた体を噛みちぎる

食べられると表示されているし、なんなら僕が食べられると言った手前こういうのは何だが

本当に、食べてるよ…この人

いや、そのチャレンジャー精神は否定してはいけない

むしろ今、この状況では大助かりの精神だ


「もっちゃもっちゃ。ん、マジで味ないな。なんか、餅そのまま食ってる感じ」

「おもち…」


元の世界にもある食事に例えられると、この歪な食事に対する抵抗感が若干薄れてくれる

それに、実際に食べて証明してくれる存在もいるのだ

彼を利用しているようで申し訳なさも覚えてしまうのだが、とにかくそんな姿を見ることで僕からスライムに対しての抵抗感を拭い、安心感を与えてくれるのだ


「じゃあ、いただきます」


僕も彼に倣い、スライムに齧り付く

確かに味がない餅と言ったような歯ごたえだ。弾力があって、伸びがいい

噛みごたえは悪くない。しかし五回ほど噛むだけであっという間に弾力は失せ、水状になってしまう

この状態になると、ただ水を飲んでいるだけ…のような感じになってしまう

スライムはそのまま飲み込んだ方が「食事」としての役割を果たせるかもしれない


二口目はあまり噛まずに、弾力がある玉状のものをそのまま飲み込んでみた

弾力がある状態でも、つるっと喉を通ってくれる

この分であれば喉に詰まらせる心配はないかもしれないな

変な味もしないから、食べやすくはある

ただ、何度も食べている間に味に飽きが来てしまうのは難点だな


「そのままでも今はいけるけど、これをずっとはきついな」

「味欲しいね。調味料出してみようか」

「頼む。しかし、これ何をつけたらいいんだ?」

「鑑定で見てみるね」


鑑定スキルの結果を眺めてみても、流石に調味料をつけてスライムを食べた場合の情報は載っていない

ここから先は、僕ら自身で開拓するしかないらしい


「載っていないね。とりあえず、お餅をイメージして、砂糖を出してみようか」

「頼む頼む!あ、これ洗ってきた葉っぱだ。これに置いてくれ!」

「了解」


期待が籠もった目線を向けられつつ、僕は砂糖を出現させる

洗ってきてくれた葉っぱを皿にして、砂糖を盛り付ければ準備は完了だ

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