ともに
そう願った瞬間、あの日と何の変わりもない、りっちゃんが現れる──
──なんてことはなく、空には満天の星空。後ろを振り返れば学校が見下ろせるだけの、いつもの、変わらぬ景色がそこには……
「
……なかった。ナイフを持ち、りっちゃんの事を聞いてくる同級生がいるのはいつもの景色ではないだろう。
怖い。その感情が脳を一瞬で支配した。
この子の目はまるで、僕の母さんのような
……狂気的な目をしている。
「…そ〜んな物騒なもの持って?無い足がすくむからやめてほしいなぁ…」
──逃げてもこの
……しかし、そう上手くはいかないらしい。ナイフを持つその子は、段々とこちらへ近づいてくる。
「遠野先輩が、行方不明と聞いたあの日からずっと、ずっと待ち望んでいました。あなたが1人で帰る日を。
ナイフの先を僕へと向けながら、そう言った。街灯に照らされたナイフは、鈍く光る。
──確かに軟禁事件が終わってから、
体はすくんで動かない。一か八か……
「りっちゃん…遠野先輩の失踪には僕も関わってた。」
「やっぱr「もし!」
なにか言おうとしたその子を遮り、続ける。
「…もし君が、
……取引だ。きょーちゃんは軟禁のことをよくネタにしてたけど、その間に何が起こったか1度も話そうとはしなかった。
それを知れれば、どうにかしてこの子を説得出来るかもしれないし、説得に失敗したとしても時間稼ぎができる──
──ナイフを持つ同級生は足を止めた。
「……あの日の朝。『登校してきた先輩方が、遠野先輩の家にパトカーが来ていると次々に言っている』と誰かが言っていました。」
どうやら上手くいったらしい。これで少しは時間を稼げるはず。
「そこから先輩が行方不明だと分かるまで、そう時間はかかりませんでした。…そして、先輩の隣の家に住んでいるあなたが、学校に来ていないことも皆心配していたんですよ。」
……みんな心配してたってのは、きょーちゃんも言ってたっけ。
「でも、しばらく経つとこんな噂が流れ始めたんです。『遠野先輩の事件は、一叶が起こした』って。」
「それは初耳なんだけど…」
なんだそれ。僕がりっちゃんにそんなことする訳ないだろ。
困惑が恐怖を上塗りしてしまった僕を尻目に、彼女は話し続ける。
「…あの日の前日。先輩とあなたが言い争っているのを見た人がいたんです。だから、『痴情のもつれで一叶がキレて、この事件を起こしたんじゃないか?』って。」
……何も言い返すことはない。流石に痴情のもつれではないけれど、りっちゃんと言い争っていたのは紛れもない事実だ。
「響さんは『いっちゃんは、そんなことする奴じゃない!』なんて言っていましたが、信じる人なんてほとんど居ませんでした。」
……きょーちゃんは、そんな事を言ってくれていたのか。
「それでも響さんは、あなたのことを庇い続けました。
そして、あなたが登校して来た時、私達が寄って来ないようにしていたのも、
その日の昼休み、あなたを疑っていた人達を説得してかかったのも、
私がこうやってあなたとお話ししようとするのを、何回も何回も邪魔してきたのも、
全部全部、響さんでした。」
……どんだけお人好しなんだ、アイツは。
「あなたは1ヶ月警察のお世話になっていた間、響さんが何をしていたか知りたかったんでしょう?…私の知っている事は全て話しました。あなたの知っていることも教えてくれないと、刺しますよ。」
どうやらお見通しだったらしい。彼女はそう告げたあと、一呼吸置いてから歩き始める。
その手には、しっかりとナイフを持って。
「警察のお世話にはなってないんだけどな〜。」
……僕は死ぬ訳には行かない。アイツに言わなきゃいけないことがあるから。
りっちゃんの失踪前夜。
奇しくもその日と同じ、冷たい夜風に吹かれる街灯の下で僕は、真相を語る。
──生きて帰って、優しい親友に感謝を伝えるために。
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