魁星
遅刻してしまった5限目終わりの休み時間。いつもとなんら変わりないけれど、隣の席から鋭い視線が突き刺さっていた。
「
「おもんな」
「はぁ?!」
苦笑しつつ「ごめん」と謝り、
小3の頃から同じようなやり取りを何百回と繰り返しているのに未だに煽り耐性がない。まるで叩けば音の出るおもちゃだ。
「で、今日はなんで遅刻したの?またおばさんに軟禁された?」
「流石にされてないわ!ていうか、あの後から口聞いてないし…」
「はぁ?!そんなん聞いてないんだけど!」
「きょーちゃんマジでうるさい…鼓膜破れそう…」
僕は
……半年前、幼なじみが行方をくらませたあの日。母さんに言われた言葉が、塞いだ耳の中でこだまする。
──なんであんな危ない子と遊んでたの!!!!!
僕の部屋に来るなり、母さんはそう言った。
……ちがう。りっちゃんは良い人だ!母さんは、何も分かってない…!
あの日の僕がそう反論するのを、まるでゲームの3人称視点のように、後ろから見る。
──呪われかけたのにまだそんなこと言うの…?!とにかく、当分学校には行かせないから!!!
母さんはそんなことを言いながら、
違う…!違う…!人のことも、僕のことも、なんにも知らないくせに…!!知ろうともしないくせに…!!
───ちゃん
───いっちゃん!
まるで夢から覚めたかのように、目の前の景色が教室へと戻る。僕は白昼夢でも見ていたのだろうか。
「急にどしたの、ぼーっとして」
「…なんでもない。きょーちゃんバカだしうるさいなぁって思っただけ」
「なんだとこの!馬鹿って言った方がb「早くしないと6限始まるから、行くよ」
うるさい親友の言葉を遮って、席を立つ。
「ちょっ…まだ話終わってな〜い!」
……この時僕に向けられていた憎悪の視線に、気づくことは出来なかった。
──6限の化学基礎は、きょーちゃんが試験管を割ったこと以外特に面白いことも無く、終わりのチャイムがなった。
そして放課後……
5限の遅刻の罰として渡された大量の課題を、職員室前に持っていく。
──バスケの練習があるからついでにお願い!と、渡されたきょーちゃんの分の課題も持って。
「な〜んで僕がきょーちゃんの分まで…」
あいつ僕が足悪いってこと忘れてるだろ…
心の中でそんな悪態をつきながら、職員室前──でかでかと課題提出と書かれた箱に、課題をぶち込む。
「ようやく帰れる…」
そう呟いて、自分のスクールバッグを肩にかけ校舎を出る。
外はすでに日が沈み、田舎特有の満天の星空が広がっていた。
……久しぶりにこの時間に帰る気がする。りっちゃんと一緒に、帰っていた時以来かな。
──あの
……りっちゃんと最後に会った日も、こんな星空だった。
──そうそう、それであってるよ。それの水を汲む部分の1番先っぽの星、見える?
……あった。半年前と逆、北極星の下。その星は…
──その星は
……魁星。願いを叶えてくれる星。多分りっちゃんは、僕の悩みを分かってて言ってくれた。だから…
──だから、一叶ちゃん。どうしても叶えたい願いがあるんなら、その星に願ってみて。
……だからきっと、こんな事を願って欲しくはないと思う。それでも…
──きっと叶うから。
……それでも僕は、
「りっちゃんに、もう1度会いたい」
お願いだ。どうか、どうか叶えてくれ。
……魁星、満天の星空の下で僕は、願いの叶うその星に賭ける。
────行方知れずの幼なじみ……りっちゃんともう1度、会うために。
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