Chapter 23 勇者パーティ結成
指輪の勇者である自分のために作られた場所。そして指輪の勇者である自分のために育てられた人々。その事実にアルマは固唾を呑んだ。
「だからお願い。あの子たちを連れて、共に戦ってほしい。私のためじゃなく、キミのために」
深々と頭を下げるプラム。熱心なその姿から本心に違いない。
ゲームでも魔王は勇者一人で倒すものではない。パーティを組んで倒すものだ。でもこれはゲームではない。人にはそれぞれ意思があるのだ。戦いたくない者も連れて行くことはできない。
「その言葉はとても嬉しいですし、願ってもない話です。でも、無理やりには連れていけません」
頭を上げるプラム。僅かに変化するその表情からは喜びが見て取れた。
「大丈夫。全て話した上で希望を取った。キミと共に戦うと名乗り出てくれた子は、ここにいるガーネットを含めて4人。他の子たちはみんな外に集まってる」
ベッドに座るアルマに手を差し出す。
「立てる? 外まで案内するよ」
手を取り、ベッドから降りようと布団を完全にはがした時、アルマは自身の異変に気付いた。トップスが変わっていたのだ。軽い戸惑いに気づいたガーネットが声をかけた。
「あまりにボロボロだったので着替えさせましたわ。ディーアの服がピッタリでしたわ」
ディーアの服。言われてみれば、彼が着ていた服に趣味が似ている気がする。アルマは他に変わったところがないか確認した。ボトムスは元穿いていたジーンズのまま。しかし、そのポケットに入っていた財布が無くなっていた。別に日本円はこの世界では使えないから問題はないが、物がなくなるというのはあまりいい気分ではない。まさか指輪もなくなっていないだろうか。
「ああ、ポケットの中にあった見たことのないコインや紙が入ってた包みは、元着ていた服と一緒に机の上の袋に入れましたわ。ちなみに指輪は外さない方がいいかと思い、そのまま包帯を巻いてますわ」
包帯越しに指を触ってみるアルマ。彼女の言葉通り、確かに指輪の感触がそこにあった。この指輪の紛失なぞ洒落にならない話だ。アルマは軽く胸に手を当て、肩をなでおろした。
その時、胸元にあるはずの物の感触がなかった。アルマが常に首にかけている錨を模したペンダント。それがなくなっていたのだ。目をぱちくりさせながら、何度も手を当てて探るアルマ。その顔はみるみる青ざめていった。
「ペンダントは!?」
脇目もふらず立ち上がると、アルマはガーネットの両肩を掴み、大きく揺らした。ガーネットは頭を揺さぶられながら、机の上を指さす。
「おおおおおお落ち着いてくださいましししししし。そそそそそそこの袋の中ですわわわわわわ」
机の上に置かれた皮の袋をまさぐるプラム。引き抜いた手には銀のペンダントが握られていた。
「えっと、これかな?」
ペンダントを見せつけるプラム。それを視界に入れると、アルマは前後に揺さぶるその腕を止めた。
「それです! ああよかった……」
「後ろ向いて。着けてあげる」
左手が包帯で固められた今の状態では、一人でペンダントを着けるのは難しいだろう。すぐに180度回転し、少ししゃがんで首裏を先生に近づけた。
プラムは丁寧にアルマの首にかけながら尋ねた。
「大切な物?」
「……母の形見です」
「なら大切にしなきゃね。……私は母も父も知らないから、家族の繋がりってよく分からないけど。はい、留まったよ」
「ありがとうございます」
ペンダントの留め具を固定したプラムはどこか悲しそうな顔をしていた。
太陽がちょうど真上にある頃、プラム、ガーネットの案内の元、修道院の外に出るアルマ。出入り口のすぐ目の前に待っていたのは、胡坐をかいて剣の手入れをしている金髪、壁に寄りかかって本を読む青髪の魔法使い、そして座ってブリンナの皮を剥いている緑髪の重装の少年だった。
「おう、相棒! 起きるの遅いぞ! 寝坊か?」
「お前も目が覚めたの今朝だろ」
待機していた三人はすぐさまアルマの元へ集まった。二人の見慣れたやり取りに安堵するアルマ。彼の包帯巻きにされた左腕にディーアが気づいた。
「あれ、アルマ? その腕は回復してもらえなかったのか?」
「傷が深すぎたみたいで……」
「もっと身体鍛えないとな! オレみたいに」
「何言ってんだ」
調子に乗るディーアの上半身をスピナーが軽く小突く。すると、ディーアは飛び上がって叫び散らした。
「痛ッてェェェええええええ!!!!」
どうやらクロニスに斬られた箇所もアルマの左腕と同様、完治していないらしい。
微笑ましく眺めていたプラムが声をかける。
「この子達が君の旅の仲間。もう知り合いかな?」
巧みな剣技と奥の手の土魔法を使い、明るい性格でたまに頭もキレるディーア。多彩な魔法を操り、格闘での戦闘も可能で、冷静さと無愛想さを併せ持つスピナー。回復魔法による治癒に長けた真面目な性格のガーネット。うん、全員分かる……。いや、知らない人がいる。鎧の少年だ。修道院にいたことは覚えている。しかし、アルマは彼と言葉を交わしたことがなかった。
「ボクだけ自己紹介してないかな。ボクはライム。魔法は大して使えないけど、防御力には結構自信がある。よろしく、アルマ」
持っていたブリンナを食べつくしたライムは、こちらが尋ねる前に名乗った。大きな盾と槍。ゲームで言えばタンク、前衛で攻撃を引き受けるポジションをやってくれそうだ。差し出された手をアルマはしっかり握り返した。
スピナーが横目で問いかける。
「本音は?」
「世界各地で食べ歩きがしたい」
「正直か」
食欲に忠実な回答にその場のみなの顔が緩んだ。
「挨拶は済んだかな。もうそろそろ出発するよ」
「え? プラム先生も来るんですか?」
確認するアルマ。修道院の子達と共に魔王と戦ってほしい。それが先生の言葉だったはず。ここまで、プラムも同行するという話は出ていないのだ。
その問いにプラムはアルマの鼻先を指先で軽く弾いて答える。
「君に教えなきゃならないことがたくさんある」
「でも、相棒戦えてたぜ? それにオレらがいるからダイジョーブじゃね?」
「確かに指輪の力もある、仲間もいる。でもそれで勝てるなら、もうとっくに魔王は倒せてる」
そうだ。力、仲間。ここまでなら過去の指輪の勇者でも持っていたはず。魔王を討ち倒すには、同じ轍を踏まないためには、過去の勇者になかったものが必要だ。
プラムはパーティメンバー全員の目を見て言い放った。
「教えること教えたら、私の役目は終わり。そのあと魔王を倒すのは君たちだよ」
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