Chapter 11  "メガファイア"

 広場の交戦。魔王軍幹部を吹き飛ばし、瓦礫の下に埋めたところである。


雷砲ブリッツストラール。初めて実戦で撃ったが、詠唱速度が課題だな」

「やった……?」

「いや。確実にダメージは入っているが、まだ動けるはずだ。警戒は解くな」


 安堵しかけるアルマをスピナーが諭す。


「おい、ディーア。あいつと交えた感想は?」

「硬すぎ。全力の雷鳴斬ブチ当ててあのダメージじゃ、正面突破はムリくせー。中に鎧とか着込んでる訳じゃねーから、不意打ちなら斬れるかもな」

「ざっこ」

「んだとコラ」


 スピナーは煽るだけ煽ると、手を顎にあてて真面目に考え込む。しばらくすると、次はアルマに声をかけた。


「アルマ、お前魔法をどうやって修得した?」

「……"ファイア"は昨日襲われた時、"ブリザード"と"サンダー"は君のやグリムフォードのを見て真似たよ」


 誤魔化そうかと考えたが、事実を伝えた。見ただけで真似るのは異常とか言われるかもしれないが、隠し事があっては奴と戦うのに支障が出るかもしれない、と思ったからだ。

 それを聞いた反応はディーアとスピナーで全く違う物だった。


「見て真似た!? つまりそれまで魔法使ったことないってコトだろ? アルマすごくね!?」

「やっぱりか。ああ、これのオーバーリアクションは無視でいい」

「無視すんじゃねー」

「うるさい。今から長話するからあっち行ってろ」


 ディーアをのけ者にするスピナー。ディーアはあっかんべーした後、適当に地べたに座った。スピナーは驚かない理由を述べ始めた。


「"サンダー"といってもいくつかあって、手から飛ばすタイプが主流だ。落とすタイプは難しい使い方。俺のを真似たから、あんなの使っていたんだろ。まさか"ファイア"まで見様見真似とは思わなかったが」

「ストップ。そもそも見ただけで魔法って使えるものなの?」

「それ自分で言うか? 相当高い魔力とセンスを持っていることは間違いないが、ありえない話じゃない」

「じゃあ"ブリザード"が碌に当たらなかったのも難しいタイプだったから?」

「いや。"ブリザード"と"サンダー"が当たらないんじゃない。"ファイア"が当たってるんだ」


 ん? どういうことだろう。アルマは首をかしげる。


「たまたま"ファイア"系統に高い適正があったんだ。ただの見様見真似なら"ファイア"も碌に当たらないはずだ」

「"ファイア"に適正……」


 魔法には適正というものがあるらしい。"ファイア"に適性があることがいいことなのかは分からないが、基本的に自分の適正を知ることはいいことのはずだ。多分。進学とか就職でもそうだし。

 あれこれ考えていると、スピナーが口を開く。


「だからアルマ、お前今から『"メガファイア"』を習得しろ。そっちの方が戦力になる」


「……ゑ?」

「ああ、真似てるだけだから魔法体系の知識なかったか。『"メガファイア"』は炎属性中級魔法。簡単に言えば強い"ファイア"だ。」

「強い"ファイア"……、こんな感じか?」


 アルマは両手を前に、火球を作り出す。今まで唱えた"ファイア"よりも魔力を込めて。しかし、"ファイア"は大きくならない。どういう訳か魔力が入っていかないように感じた。例えると空気パンパンのボールにさらに空気を入れようとする感覚に近い。

 スピナーは首を横に振る。


「違う。バケツに入れる水を増やすんじゃない。バケツそのものを大きくするイメージだ」

「なーに言ってんだオマエ」


 地面に寝そべっていたディーアが文句を付ける。


「お前ならどう説明する?」


 ディーアは飛び起きると、アルマに向かって、


「そりゃ、『バーン!』ってやって『ボーン!』って感じだろ!」


 とジェスチャーたっぷりに伝えた。当然スピナーはため息をつく。


「お前に聞いた俺が馬鹿だった」

「勢いが大事ってコトだ! オマエこそ何だバケツがなんたらかんたらって。バケツがデカくなる訳ねーだろ!」

「ノイズになるから帰っていいよ」

「あ、やるか!?」


 お互い額をくっ付けて睨み合う。アルマはあたふたすることしかできなかった。

 

 その時――、アルマが吹き飛んだ。火だるまとなって、広場の外まで――。

 ディーアとスピナーは何が起きたのか理解が一瞬遅れていた。その一瞬が命取りだった。


「これが『"メガファイア"』です。骨の髄まで味わうといいですよ」


 背筋が凍るような声。グリムフォードが二人の後ろに立っていた。振り返るより速く薙ぎ払われる剛腕。二人はまとめて民家の外壁に叩きつけられた。


「貴公らにも味合わせて差し上げましょう」


 瓦礫の中にいるディーアとスピナーにせまる火球。その直径は1mを優に超えていた。


「俺がアルマを消火する! お前何とかしろ!」


 指先から放たれる"ブリザード"。アルマに纏わりつく猛炎はその勢いを急激に緩めた。

一方、ディーアは瓦礫の山から不完全な姿勢で火球を受け止める。それを目視するグリムフォード。怪しい笑みで指を鳴らした。突然爆発する火球。二人は爆熱に晒され、黒煙に包まれた。

 自身の服を確認するグリムフォード。纏わりつく砂埃、何か所もの焼け焦げた跡、そして剣を受けた左腕に作られた服の破け跡。タキシードという礼服に似合わぬ有り様である。


「……修繕、クリーニングでどうにかなりますかね。これはお気に入りなので廃棄はしたくないのですが」


 グリムフォードは独りで呟く。


「このような無様を晒させてくださった貴公らには、確実にお礼をして差し上げねばなりませんね。まずは……貴公から」


 倒れているアルマにゆっくり掌を向け、静かに狙いを定めた。

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