Chapter 9 VSグリムフォード 1st
魔族との戦いの音は、随分と修道院の方へと移動し、広場の周りには村人も部下の魔族もいなくなったことが分かる。3対1。数でいえばアルマたちが有利だが、人智を超えるその巨体と邪悪さに威圧されていた。
戦端の火蓋はアルマによって切られた。
「"ファイア"!」
飛翔する火球。巨腕を振り、軽く掻き消すグリムフォード。その死角から叩き込まれるディーアの一振り。次いで流れるような連撃。しかしそれら全ても防がれてしまう。
「"メガブリザード"」
ディーアの背後から魔法球をスピナーが放つ。阿吽の呼吸で宙返り回避するディーア。死角からの飛翔物に直撃を許すグリムフォード。その全身を氷晶に閉じ込めた。
あの巨体を閉じ込める大氷塊にアルマは目を丸くしていた。そんなアルマを他所に、スピナーは自身の前に魔法陣を展開している。
「すぐ出てくる。出てきた瞬間に消し炭にしてやる」
数秒も経たずに氷塊は不自然に揺れ、ヒビがいくつも入った。これを見たディーアが声をかける。
「こりゃアイツの魔法、間に合いそうにないな。時間を稼ぐぜ、アルマ。見たところ"ファイア"の効きが薄いから、それ以外の魔法で援護してくれよな!」
すがすがしい笑顔とは裏腹に、残酷なお願いである。アルマは"ファイア"以外使えないのだから。あの時あの魔族から見て覚えた"ファイア"しか。
その時、頭に閃きが走った。『見て』覚えたんだ。ここに来て今に至るまでたくさんの魔法を『見て』いる。後はあの時と同じようにイメージするだけなんだ。試す魔法は"ブリザード"、相手を凍らせる魔法。少なくとも相手の足止め程度は期待できる。さっき自分も受けたからイメージは充分。後は集中するのみ。
深呼吸するアルマ。遂にその時が来た。窓ガラスを思い切り叩き割ったかのような爆音と共にグリムフォードが解放された。
刹那の間にディーアが斬りかかる。
「行くぜ! オレが合わせるから好きに魔法ブッ放せ!」
始まる剣と拳の競り合い。ディーアは細か動いているが、狙うべき敵の動きは最小限だったため、魔法の標準を定めるのに苦労はしなかった。
指輪の赤光と共にそれは放たれた。
「"ブリザード"!」
宙を駆ける魔法球。それは、明らかに見当違いな方向に進んでいった。
「あ、あれ?」
端から見ていたスピナーは零す。
「何やってんだお前」
「わ、分からない。ファイアと同じように狙ったのに」
再度、狙いをつけた。さっきのは何かの間違い。次は当たる。最悪たくさん打てば当たるはず。
「"ブリザード"、"ブリザード"、"ブリザード"――」
とにかく連発した。屋根の上、木々、家の壁、地面……。あちらこちら至る所を凍結させている。しかし、その努力虚しく肝心のグリムフォードには当たる気配すらない。ディーアにも当たる気配がないのは不幸中の幸いだ。
それを見たグリムフォードは嘲笑する。
「まともに当てられるのは"ファイア"だけでしたか。あれに倒された私の部下には後で叱責が必要ですね」
接近戦の最中、何かを閃いたディーアが叫んだ。
「アルマ、"サンダー"を撃て! 今みたいに乱れ撃ちで!」
「わ、分かった!」
"サンダー"。スピナーがよく使っていた雷を落とす魔法だ。今もスピナーが展開している魔法に雷がほとばしっている。
散々見てきた。イメージは十分。何より返事をした以上やるしかない。天に指を立てた。
「"サンダー"!」
掲げた手を振り下ろすと同時に閃光と雷鳴が走る。しかし、その雷は見当違いの地を焦がしていた。
当たってはない、けど、出た。ディーアの指示は『連発』だ。理由はよく分からないが何か作戦があるに違いない。
「"サンダー"、"サンダー"、"サンダー"――」
何度も轟く雷鳴。まるで嵐の中で闘っているよう。二人は当たりもしない雷には気にも留めずに戦い続ける。
「この"サンダー"と先ほどの"ブリザード"、どちらも一般的な魔法より威力がありますね。彼、高い魔力をお持ちのようですが、如何せん練度がお足りでないようです。止めさせてはいかがですか?」
剣技を軽々と捌きながらグリムフォードはディーアに告げる。その言葉はアルマにも聞こえていた。確かに当たりもしない魔法を続けるのは無駄としか考えられない。アルマは魔法を唱えるその手を下げようとした。
その時、ディーアが目配せをした。オレを信じろ! そう聞こえた気がした。
下げようとした手に力をこめる。降り注ぐ"サンダー"は一層激しくなった。
「所詮ムシケラはムシケラですね」
ため息をつくグリムフォード。鋭い眼光、全力で剣を振りかぶるディーア。その口元は少し緩んでいた気がした。
「貴公も貴公です。その剣は私を傷つけるに値しないことをご理解願いたい!」
構えられた剣に合わせて、ガッチリ防御の構えを取った。
ディーアが振るっているのは間違いなく刃のついた鉄製の剣だ。それをグリムフォードは今までずっと前腕で受け止めている。金属が打ち合う音はしない。つまり鎧や籠手を仕込んでいるのではなく素の肉体で受けているのだ。次に繰り出される全力の一撃も防がれるのは明白だ。
その瞬間、振りかぶった剣に"サンダー"が直撃した。デタラメで予測不能の雷が当たったのだ。
「どこぞの狂暴魔法使いのせいで"サンダー"がどこに落ちるかは肌感で分かるんだよ!」
その剣は雷光を纏って輝いている。これを狙っていたのだ。グリムフォードは勿論、"サンダー"を撃っていたアルマ本人も驚いていた。
「
偶然か必然かの合体技。叩きつけられたその一撃は、防御の上から体勢を破壊し、その巨体を動かした。
「ブチかませ、スピナー!」
「とっくに準備はできている」
その一瞬の隙を逃すはずがなかった。
「消えろ、
爆音と共に雷速で放たれたそれは、もはや極太のレーザー。家々を何軒も貫通し、瓦礫の山にグリムフォードを沈めた。
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