3YEARS

愛田雅氣

プロローグ 誕生

2018年8月31日深夜2時ごろ。もうすぐ8月が終わりを告げようとしている時、陸が生まれた。

深夜にも関わらず大きく響くような産声をあげた

「雫、ほんと頑張った。ほら赤ちゃんが泣いとる」

必死に応援して汗だくの父親が小さな声で震えながら言った。

疲れ切った母親が「ありがとう。海斗」と笑顔で言いながら産まれたての赤ん坊を優しく手に取った。

まさに感無量と言える時間が過ぎていく中、他愛的な目で赤ちゃんを静かに眺めた。

病室でただ泣くだけの赤ちゃんを抱いて腕にある温かみを感じ想像した。

我が子の未来がどうなるだろうかと

初めに何を喋りいつ立って歩くのだろうかと

親になったこの二人は想像しこの先の未来に希望を持っていた。

しかしながら温まればいずれは冷めてしまう。冷めてしまうんだ。

たとえそれが温まった直後だとしても。


出産から約一年後

「残念ながら陸くんの余命は残り約三年です」

それは唐突に医者から言われた言葉だった。覚悟はできていたはずだった。一年前に無増悪性の脳腫瘍と言われ抗がん剤治療をおこなっていた。

長く生きるために。もっとこの美しい世界を見てもらうために最大限の治療を行なっていた

だがもう願い破れ現実という悪夢の中で過ごすしかない。そう思い込んだ。

そこから数日間は絶望という暗闇の中で過ごし一生この悪夜は明けないと思っていた。

私たちがもがき苦しんでいるところに一人の声がした。

   それは陸の笑い声だった

その声は私たちにより憎悪を沸かせてきた。

なんでこんな状況で笑っているんだ?

俺たちは苦しんでるのに何故なんだ。

頼むから空気を読んでくれ。

何も理解できない赤子への憎悪は狂気的な怒りへと徐々に変化し私たちを包み込んできた。

心の底から湧くどうしようもない怒りを込め鋭い目付きと憎しみの表情で陸を見た瞬間だった。

 「だいうき」

おぼつかない発音だったが陸は確かにそういった。

それは私たちが毎日投げかけていた愛の囁きだった。

行き場を失った怒りは力をなくし私たちは目に涙を浮かべていた。

二人でほんの少し見つめ合った後すぐ陸に駆け寄った。

「ごめんなさい。ごめんなさい」

何十回いや何百回も謝罪の言葉をかけただろう。

その間にも陸はずっと笑っていた。

その姿を見て私たちは立ち直り決心をした。

我が子を、陸を絶対に幸せにすると。この笑顔を守り抜くと。

この三年間で悔いが残らないように。

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3YEARS 愛田雅氣 @yukimaro2007

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