第3話 サプライズって言うけど、これ以上何がある!


「いったたぁ……」


 一騎当千の首なし騎士ワイルドハント・デュラハンが森へと走って行ってしまい、この村には本当に私一人になった。廃村というわけでもなく、栄えていたという村でもない。ついさっきまで村人たちがいたごく平凡な村。そんな村で一人だけになるという感覚はとてつもなく新鮮で、深傷を負っていることも相まって、言いようの無い不安感が本能のままに押し寄せた。


 一騎当千の首なし騎士、ワイルドハント・デュラハンということがほぼほぼ確定してしまった彼が逃げ去った後。


 一度膝を立てただけで骨や関節が鳴る前に筋肉がキシキシと音を立てた。そして次には骨がピキッと鳴って、私はもはや瓦礫の山となった家を背に崩れ落ちた。

 申し訳程度に残った壁に背を預けて息を吐いた。


〝ユリィさん、ユリィさん〟


 私が息を整え、無心になっていたら久しぶりのあの声が脳内にするりと流れ込んできた。拒否することは勿論できないため、複雑な感情のままため息をついて迎え入れる。


 こんな時にお出ましとは本当にタイミングが独特な女神さんですね、貴方は。


〝はい!〟


 褒めてませんから!


〝あはは……すみませんユリィさん、瀕死のところ申し訳ないです。いやですね? どう待ったところでユリィさんが察してくれないのでお告げネタバレしちゃおうかと〟


 ネタバレ? どういうことです、私へのサプライズはこの身体と魔眼、そして魔力糸の生成術だけでしょう。

 ただの一般転生者にこれ以上何を


〝転生者であることが、サプライズなんです〟


 ………なーに言ってらっしゃるのですこの女神様。

 そりゃ転生できたことが人生最大のサプライズですよ。でもそんなこと身に沁みて感じてるわけで


〝わー!! 勝手に話を進めないでください!

 そういうのを心に留めてくれてるのはすご~くありがたいですけど! ですけど!


 転生者は異なる世界からこの世界に降り立った希望、いわば平和の兆しなんです。だから〟


 だから?


〝転生者は誰もが勇者になる気質を持ってるんですってば!〟


「…………。


 だからどうしろとね?」


 転生者と希望の光がイコールで繋がっていて。希望の光が勇者とイコールで。………なら転生者イコール勇者だと。


〝勇者が一人欠けた年に開催される祭り。

 それすなわち選別祭せんべつさい

 炎、水、土、風、闇、光の計七つ。原初の七大属性を司る各勇者を決めるお祭りは、転生者のみ参加が認められるのです。それ即ち




 過去の勇者による未来の勇者のための現在の勇者の祭り〟




 私と同じような年齢、私より年老いた人、そして幼子まで。多くの人が場内へ飛び込み、闘いと栄誉の舞台へその身を落とす。

 そんな映像がいつの間にか脳内に流れていた。


〝ほんとうはもっともーっと、ユリィさんにふかーく関係するお祭りや大会は沢山ありますけど〟


 女神カルティアナが良い終えたタイミングでスゥ、と頬を突っつきするりと首を撫でたからっ風に、わずかに身を震わせる。

 これから冬に突入する合図と言わんばかりの肌寒さに、今日は、


 戯夜祭ハロウィーン開催の前夜祭当日だった


 のだと思い出す。

 今思い出せばギルドや村だけじゃなく、国内の家屋や店の殆どがオレンジと紫の配色が可愛らしい装飾品で飾られていた。

 

 国全体の行事を忘れる? そんなことありえない。


 と思われるでしょうけど、眼の前にやらなければならない事がたくさんあり。それが重要であればあるほど、気を取られて、祭りの宣伝に耳を傾ける価値は途端に無くなってしまうのですよ。


〝くわしいお話は戯夜祭が終わった後にしましょう、お互い楽しみましょうね、ユリィさん!〟


 お互いって……ほんとに嵐のようだ。


 助けてくれるのかと思いきや、現状とはまったく別の話をし始め、挙げ句の果てには戯夜祭の話題で締めくくるとは。

 転生を終えて、幼少期も過ごして、学園生活を越えてきたのに、ちっとも変わらないのが彼女の凄いところ。


「こっちだ!」


 脳内から、女神カルティアナの存在が完全に消えたタイミングで、村の門をくぐって来たのは私が懇願して撤退してもらった騎士様方。


 私は自身のねじ曲がった性癖故に、鎧の騎士様をみたら少しは身体が楽になった。


 筆頭の騎士の鎧は、後方に控えさせている騎士より白く輝き装飾が美しく光っている。その騎士様は馬から降りて私を見つけるなり走って来た。


「ユリィ、聞こえていますかユリィ! 私です、ヴィルーべリネールです」


「聞こえてます。私は大丈夫ですから、ヴィルーべリネール様」


 私の両肩をしっかりと手で掴む女騎士。

 ヴィルーべリネール騎士隊長だった。


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