第2話 冒険者登録手続きの受難【後編】
あれから三年。
私は無事学園を卒業し、正式に冒険者資格を取った。………まあ地獄の受験勉強や試験は無かったのですが。
私自身は特に変わることもなく日陰者のまま卒業。
素で生きていくのが私の目標なので問題はありませんが。
でも唯一。変わったと言うなら、
「ユリィ!」
「またいるんですか、」
「またって何、おはようは?」
「おはようございます。リリフィー」
私が優勝し、制服にバッヂを付け始めて三年間。
ずっとリリフィーと一緒に登校したりして親友とも言える関係になったのです。
私が素のまま気軽に話せるようになった三人目の人だ。使い魔を除いて。
「なんか……まあ良いや。早くしないと。職業に迷ってたユリィのおかげで予定より二日遅れなんだからね!」
「初日は混むでしょうし、長く待たせたくなかっただけです」
リリフィーにゃはぶりっ子からツンデレキャラみたいな話し方になってる? まあ、三年もあれば変わるもんですよ。色々あったんですから。
それに、私の職業なんて大体、予想が付く。
「きゃーユリィイケメ〜ん、リリフィーにゃ腰振っちゃうわ〜!」
「びっくりした……大声でそんなこと言わない」
腕を組み擦り寄るリリフィー。
「やめて、ホントに。マジで。苦しいです。主に絵面が」
「はいはい。好きに言えば? ……というかホントに早く行くわよ!」
「!? わっ!!」
組んでいた腕をそのまま引かれ無理やり走らされる。
◇
走り込んでギルド内に着くと、中には
さすがは王都のギルド。とても充実している気がする。
朝から多くの人で賑わっているし。
「やっぱちょっと混んでるわね」
「しょうがないですよ、並んで待ちましょう」
列に並んでいる間、初めてのギルド内に少し興奮しながら周りを見る。と、大きな掲示板に何やら依頼を貼っている国の騎士様が居る。
「……! 貴方は………新人冒険者様ですか?」
「ひぇ………はい……そ、それって、」
私が余程、じっ、と見つめていたらしく、その騎士様は愛想よく話してくれた。
「これですか?
……実は、王国の近くの森の中に墓地がありますよね。
その墓地にて何か怪しげな影を確認したと国に報告が来まして、中にはその影の正体を
………もし首なし騎士だった場合、国が動かなくてはなりませんので、正体を冒険者様方に確認して来て欲しいと。引き受けていただける冒険者様を探して…………」
墓地…………それなら首なし騎士の可能性もありますけど、もしやこれは、チャンスなのでは?
そう考えた私は欲望に抗うことなく尋ねた。
「そ……その紙、貰えたりとかって………できますか?」
「ええ勿論です。
ん?
………貴方は登録手続きをさらに来られた方ですか?
チラシの方は差し上げますが危険だと思われますので、興味を持たれたのならば、手続きをした後でまた御声掛けをしてください」
「は、はい」
な、なんともNPCですかと思うくらいの見事な返し。
一応、と渡された紙に目が釘付けになったが手付きが先だと、唇を噛んで、紙を丁寧に、震えながらしまい込む。
肩に乗ったズィーさんがその一部始終を目撃していた。
『そんなにかい』
「当たり前ですよ!」
「ユリィ!!」
貰った紙をバッグに入れたところでリリフィーに声を掛けられる。
「わたし達の番よ」
「ああ、分かりました」
受付嬢の方に呼ばれ席に座る。
「! ………まあ、一ヶ月前に卒業された新米冒険者様ですか」
大人のお姉さんの雰囲気をすごく漂わせて微笑む受付嬢さん。例に
「はい♡ 冒険者活動が今から楽しみで仕方がないんですよね〜!」
良かった………受け答えはリリフィーがしてくれる………ラッキー。救われた。
「ではここにお名前と、こちらに表記されている通りに記入して下さい、」
ワクワクしながら二人共ペンを走らせる。
日本で言うと市の登録手続みたいな感じですかね……。使い魔の名前記入がありましたが……
「ズィー………で良いんですよね」
『ああ』
軽い会話をすると「話せる使い魔なんて珍しいですね!」と微笑まれた。
「ええと……はい、ありがとう御座います、次はこの水晶玉で魔力、ステータス、職業を測りますね」
席を立ち、リリフィーから水晶玉に手を翳す。
「魔力もステータスも申し分ないですね………職業は、
まあ、珍しい!
「ええ〜! やったあ!」
魔法使いと受付嬢が微笑むとリリフィーが手を叩いて喜ぶ。
リリフィーがどうしてこんなに喜んでいるのかと言うと、魔法使いの職につく人は適性属性というのが専門にそのまま映されるわけで、水属性が適性であり、魔法使いとしての素質を磨き上げた者ならば、通称
でも、何の変哲もない〝魔法使い〟というのは全ての属性が適性属性であり努力次第で此の世の全ての魔法を扱える事もできる、正に〝可能性の塊〟と言うやつなのです。
それだけでも喜べますがどうやら就職にも有利らしく
「どこへ行っても重宝される職業ですね。どの属性も器用に操ることができる魔法使いは少なくなってきていますから」
まあ冒険者になると決めている時点で就職もなにもないとは思いますけどね。
「では次、ユリィさん。お願いします」
リリフィーの番が終わり私の番になる。
魔力を込めすぎないよう気をつける。透き通った涼し気な色をした水晶玉に色が加えられていく。
私の色なのかは知らない。が紅から金に、金から紫に、そして最後はドスの効いた黒に変わった。
そして、絶対仕様にはないであろう〝
絶対ダメじゃないですか。 これ。
「!? ……ちょ、ちょっと待って下さい!!!」
ですよね。
だが、私の、「絶対大事になりたくない」「いーや割れないで??」といった願いとは裏腹に、手を引っ込めようとも、もう止まらない。受付嬢の静止も聞かずに罅は進み続け、
パリィンッッッ!!!
ド派手に弾ける様に割れてしまった。
案の定。餌に群がる鯉のように段々と人集りが出来る。
いやぁ〜やめてー………来ないでー……日本で読んでたチート漫画によくあるヤツでしょうー?
「オーナー! こ、これなのですが」
奥からドタバタ、と厳ついオーナーらしき人が駆けてくる。いやかなりマジで厳つい。スライムくらいなら圧で蒸発させられそうな冒険者がでてくる。
「………なるほどな。嬢ちゃん、怪我してねえか?」
「あ……いえ、その、すみません!!」
絆創膏を渡される。おわ。なかなかに可愛いピンクのやつだ。
「しかし、どうしましょう。………職業のみ見えた所で割れてしまい……反映されるでしょうか」
「されるらしいな」
オーナーが指を指す。
私の手続き用事にはかなり乱雑な機嫌の悪い字で何が書かれていた。
そも、ギルドの水晶玉が割れるなんて前代未聞なんだろう。ゾロゾロと冒険者達が集まっては話をしている。
私はただ縮こまっていた。
「……ユリィさん、良く聞いてくださいね? ……貴女の魔力は分かりませんでした。ステータスは恐らくですが………限界を超えています……職業は、
「魔力、測定不能」「ステータス、恐らく限界突破」と、なんか予想はできていたし、むしろ違ったら困っていたけれど「職業、傀儡師」と言う前代未聞がてんこ盛りなこの状況。
皆さん混乱してるけど、私が一番混乱してるし泣きたい。こんな注目浴びて? チート主人公のこういうの、見ていて愉しかったんですけど………ほんとに心が死んでしまいそうな気がする。
世界のチート主人公様方、誠に申し訳ございませんでした……。
「ユリィ〝にしては〟凄いじゃない! 傀儡師なんてもう無くなったってされてるあの職業だよ!! なんかそうだろうなっては思ってたけど! ……ユリィならぁ
やめて、その情報はオーバーキルというものです。もう私の精神力ライフはゼロなのです。
にしては、ってなんじゃい。にしては、って。
それに、何が凄いんですか?
「さすがユリィ!!」
「もう黙ってくださいぃいいい!!」
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