第二節 愛しき世界の新米冒険者!
第1話 冒険者登録手続きの受難【前編】
アルホゥート王国、王都近郊の村、アルケー。
そこからまた更に外れにある広大な土地。そこには、アルケー村の村民が一家庭に一つは所有している畑が一面に広がり、その端から端までを生命力あふれる深緑で彩っていた。
そこに、農作業をしている祖母と、それを手伝いに来た孫娘がいた。孫娘の方は楽しげに土を顔につけながら人参やらジャガイモやらをカゴへ、その短い腕で必死に抱きかかえて運んでいる。
「おばあちゃん……なんか聞こえない?」
不安にかられた孫娘は祖母の傍に駆け寄り密着する。
「ん〜〜? 何が聞こえるんだい?」
「わかんない、でもほら、怖いのが来るよ」
孫娘に裾を引っ張られ、おままごとにでも付き合うかの様な動作で老婆は指さした先を見た。
孫娘が「あっち」そう言い祖母の顔を覗くと、祖母の白い顔からは更に色がなくなり汗を顎から首に掛けてダラダラと流していた。
やはり怖いものなのかと孫娘が尋ねるよりも先に祖母は孫娘の手を引き、常人とは思えない動悸を起こしながら走り始めた。いきなりのことに驚き、足がもつれた孫娘は
「待っておばあちゃん!!」
立ち上がるために祖母に投げかけたが、祖母は
「耳を塞ぎな!!!」
と言い自身の孫であるはずの少女を引きずりながら走る。
そんな光景を、正常だと理解するものなどこの世にいるはずも無く。すぐに近くの木陰で休憩していた冒険者に止められてしまった。
「何してるんだ婆さん!!」
「うるさい死にくなきゃアンタも走りな!!!」
「(なんだってんだ?)
わ、分かった………とりあえず村まで行く、乗ってくれ婆さん」
老婆の威圧に余っ程の事だろうと本能的に感じた冒険者は老婆の手から少女を離し、抱えた。老婆を背中に、少女を腕の中にしっかりと抱えた冒険者は老婆に急かされながら村まで急いだ。
老婆と少女のいた畑。そして途中の冒険者がいた木陰から村まで、そう長い道のりではなかった。が、一度転び、立ち上がることもできずに冒険者に抱えられるまで引きずられてきた孫娘の顔は、砂利で傷がつき、木の枝が刺さっていた。
村人たちが集まる。
もはや心臓が痛むのも無視して、鬼の形相を我が物にした老婆は半狂乱になりながら叫んだ。
「デュラハンじゃ!!!!!
温厚とは程遠い叫びに村人たちは慄き、正直者で有名な老婆の言葉の意味に思考が追いついた時には既に遅かった。
冒険者と村人たちの背後には、村の門に立つ騎士と馬の姿。
しかし異様なのは騎士には首がなかったことであり、定位置にないと思えばその首は、先の冒険者が少女を抱えていたのと同じく、左の腕に抱えられているところだった。
『汝ラニ、死ノ宣告ヲ』
平和な黄金の土地に影が落とされた。
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