第17話 暗闇に腰を下ろす
一人の少女の勇気と一人の少女の力の下に事件は収束したとされた事件は
事件後、其の日の夜。
暗闇が黄金を蝕み光を失った国の闘技場に白の魔道士が一人、混合魔獣の爆散した跡を指でなぞり思いに耽っていた。
白の魔道士は暗闇でも目が見えているのだろうか。一点を見つめ冷たく放った。
「何故あのようなことを?」
問えば返る。会話を成立させた男の声。
「必要だったからとしかお答えできません」
黒の男は闘技場内へと降り立つと白の魔導師へと近づいた。後退りをする様子も見せず白の魔導師は口を開く。
「貴方のせいであの子はまた苦しむ」
「……それについては反論の余地もなく、申し訳ないと思っている……………
とはい言いません。この程度で後ろ髪を引かれるような人材は英雄の座には要らない」
男の見えぬ口から出た言葉は、あまりに極端でありながら世の理には適っていた。
かつてこの世で歴史に名を残した勇者は魔王の数ほどいるが、英雄となれば数世紀に一人いれば奇跡と言われていた。
「それはそうと……貴方、ほんとうに私にちょっかいを掛けるのが好きですね」
「カマを掛けるの間違いでしょう。
ああ早くその面剥がしてしまいたい……できない事が悔やまれる」
なんと不気味な光景。
黒の男が吐き出す言葉には殺意がこもっているが指の一本も動かさない。そのまますらすらと呪いの言葉を吐いている。
穏便に済ませる気はさらさらないのか、白の魔導師は微笑みながら杖を抱え口に手を
「……うふふ、今はボロ敗けどころか殺されちゃいますもんね♡ まったく……
私を殺す為に全力を投じた癖に力及ばず、無様に敗けて四肢を奪われた挙げ句には完璧に魔力が戻るまで魔法と魔術、両方の使用が不可能な体にされてしまって…………可愛そうに♡」
「……………」
「返す言葉もありませんか、さぞ悔しいでしょう」
「いいえ、驚いただけですよ。……まさかくどいほどに全て言うとは……なんとも経験豊富な白魔導士だとは思えず。今すぐに力が戻ったらいいのですがね。次こそは貴方を私のモノにできるのに」
「まあ♡ 私をものにして、次は?♡ ハッピー・エンドがお望みならば」
「はは、誰が。
世の中の醜悪を掻き集めて一塊に圧縮したような貴方と」
空気が変わる。白の魔導師は浅くため息を付いた後に杖で地面を軽く一突きした。
魔力で髪が舞い上がるが、深呼吸をするとそれはもとに戻り重力に従ってサラサラと今まで通り腰まで垂れた。
「ようやく歩み寄ってくれたと思ったのに……なんですかなんですか! 私の怒りの沸点を超えないように言葉を選ぶのが上手になっただけですか!」
「身分をわきまえているだけですよ」
「私は…………やはり、置いてくる巣を間違えてしまった」
「いえ、大正解でしたよ。センスのない貴方にしては」
「……おしゃべりの時間はここまでです。早く還りなさい。貴方はこの国に居てはいけない存在です。
もうすぐ騎士らが調査を行うために到着するでしょう」
「言われずとも出ていきますよ。
人間のような生物に
「あちらの方々によろしくお伝え下さい、誰でもいいから束縛スキルを取得なさいと」
「ご安心を。クタバルには、未だ、当分の時間を要するようだったと伝えますよ
サヨウナラ。私の
イリィは闇夜よりも深いトビラへ溶けるように身を消して行った男を見送ると深くため息を付き、ようやく到着した騎士たちへの労いの言葉を口にした。
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