第12話 キマイラ・テロ




「いでよ、混合魔獣こんごうまじゅう……憎悪・王獣キマイラ・レオン!!」




「「はぁ!?」」


 ……いまなんて!? キマイラですってっ!?


 私達のリアクションと同時に観客席から悲鳴が湧き上がる。


『ガルラァァァウウウウ!!!』


 魔獣の咆哮が響き渡る。禍々しく重厚感を纏った魔力が辺りに充満する。


「皆息とめて!! なんの混合魔獣キメラか知らないけど、毒かも!」


 リリフィーさんの悲鳴にも似た呼び掛けに、闘技場に残っていた生徒は皆口をふさぐ。

  誰かが理性的な言葉を発するよりも先に、阿鼻叫喚の嵐に包まれる。


――ガシャン!


「ちょっと!?」


「何やってッ」


 コロシアム場内の生徒よりも、建物内の生徒の安全が取られたらしく。一斉に鉄製の扉が落とされた。


「あ、あわ………」


 私は失礼にも、リリフィーさんのチームメイトである召喚士テイマーの顔を見た。しかし、彼女の目と私の目が合うことはなかった。私が顔を向けたことに気づいていないというより、混合魔獣が現れた衝撃で何もわからないようだった。


 この様子からすると、メンバーのテイマーさんが召喚したわけではないと言える。


 …………今はとにかく、リリフィーにゃさんたちをどうにかしなくてはならないみたいですし。


「……」


「ゆ、ユリィちゃん?」


 よし。投げよう。


「え、あの。ちょっと!?」


「はぁぁぁあ!」


 チームメンバー5人まとめて肩に抱える。

 脚を上げ、美しいフォームを決める。


「ちょ、待て待て待て待て!!」


「舌噛みますよ!」


「話を聞けよユリィさんん゛ッッ!」


「なんですかうるさいですっ」




「魔力結界! 魔力結界!!」




「えっ? ―――……ハイっ!?」







「魔力結界って……でも、破れるんじゃ」


「無理だ、何層にも練り込まれた高純度の魔力量だし、なにより分厚すぎる!!」


「こんなの、まるで」


「………テロ……」


 待ってください、テロだとして、そもそもどうしてこの大会で? もっと有権者が集う大会が開かれていたりするのに、どうして


「ユリィさん!!」


「!?」


 キメラの咆哮が響き目の前を分厚くショベルのような爪が私の顔の前で風を切る。呼び声に合わせて後退た事が功を奏し、傷はなかった。

 心から自分の反射神経を褒めてあげたい。


 というか、そもそも、この混合魔獣もんだいじを召喚した時のあの声は何処から、




「安心しなさい。


 毒ではないからね。ただ悪臭はすると思うが」




 まただ。


 私含め、皆声がどこから聞こえているのか分からなかった。ただ本能的に背中を合わせ、陣営を作った。そして、見当もつかないまま、声のする方、全方位を目で追う。


 見つけた。


 怪しげな色をした魔力スチームの中にうっすらと黒のシルエットが現われる。おそらく今後、〝彼〟と表記するに値する体躯の持ち主だろう。それ以外に動作の進展はなかったところで、シルエット………〝彼〟は語り始めた。


「突然押しかけてしまい申し訳がない。ただ、これも必要なことだと理解してほしい。」


「あのねぇ! あたしたちちょぉ疲れてるんですけど!

 こんな混合魔獣けしかけて! どーゆー頭してんのよ!」


 私はリリフィーさんのその言葉に、正直目玉が飛び出た。飛び出そうになったんじゃない。飛び出た。もう時すでに遅し。


 ……………いやいやいやいや!

 圧倒的強キャラ感のある重厚感イケボイスの絶対的大ボスに向かって何言っとんじゃこの女ぁぁぁあ!!!


「死にます!! 死んじゃいますから!! なんでそんな事言うんですか?! 謝って!! 今すぐ謝って!!」


「うわわっ! もぉ〜〜! 疲れてるんだからしょうがないでしょーー!!」


「絶対強キャラでしょ! 見てくださいよ! 姿の見えない登場シーンで煙の中からシルエットだけが見える登場の仕方するのは黒幕かラスボス以外いないんです!!」


 目ん玉飛び出しながら私はリリフィーさん、いやリリフィーの肩をこれでもかと揺すり倒した。

 そんな修羅場のそのまた修羅場をガッツリ見ていたんだろう。


「それは悪いとは思わないよ「思わないんかい!!」

 ………ただ、キミたちが見たシルエットが、キミの物語の黒幕、またはラスボスだったらいいと……私も思う。


 では、サヨウナラ」


『ウガァァ………』


 パチン、小気味よく指が鳴らされ、見えていたシルエットは霞のように溶けて消えた。

 そして、待っていた、とばかりに混合魔獣はヘドロのようなヨダレを垂らしてゆっくりとそのツギハギだらけの前足を進め始めた。


「こんな事言いたくないが、俺たちは君を仕留めるために全力を投じたから魔力もないしろくに走れすらない!」


 未だに全員を抱える私に対して異を叫ぶリリフィーチームのメンバーの人。叫んだのにガッシリと私の肩を掴んで離すつもりがないように感じた。


「大丈夫です、誰も見捨てないので!!」


「そーゆー問題じゃない!!!」


 いくらなんでも見捨てるなんてこと夢見が悪すぎる。と考えたのかどうかは知らない。ただ、そんな無茶を決意してしまうほどに私の脳内を巡る思考はぐちゃぐちゃに絡み合い、混乱していた。この先の展開も、もっと愚かな考えを口走るだろうが、許してほしいと思う。


「抱えて走るんだぞ!? こ、こんな」


 確かに傍からみれば巫山戯た態勢だ。ガチムチでもない私の両肩に二人が乗り、その上にまた二人乗っているのだから。


 固有スキルを使って、さらに魔力切れを起こしてしまった以上、ズィラさんの召喚だってできない。


 私にできることはただけるだけ。

 誰かの助けを待って、ただ惨めに、足が壊れるまで、あがき続ける。


「不可能だ!!!」


 そんな……無情な……やめてくださいよ。

 …………ほんとにもう泣きそうなんですから。



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