第12話 15秒の突破劇
前方からは
なんとか攻撃は防いではいますけど………
あのヒーラー役を受けている聖女様が魔力回復をしている限り、きっと消耗戦が永遠と続く。
「っと……、」
司祭者の得意魔法で宙に浮く時間を見る。最初は《30:00》だった時間が今では《03:27》まで進んでいる。
私自身、見事に攻撃をかわし、一つの罠にも引っ掛からずに見事な攻防を続けているつもりだった。しかし。時間を掛けすぎたのか、観客席からはブーイング。相手チームからは、ただ逃げ回っていた私に怪訝な顔をする者も出始めた。
調子に乗りすぎたとは思っていない、けれど、勝ちへの決定打を打つタイミングが難しすぎてズルズルと引きずってしまった。
〝観客をわかせてこその
ぶっちゃけると、イキっていた割に壁際に追い詰められた私は、打開策が見つからずに危機的状況だったのです。
『兎なら遠くまで行けるんだろうけどね……ユリィはただ走って逃亡しようだなんて、面白みのないことを考えるのか?』
肩に乗るズィーさんがポツリと、でもたしかに私に向けて呟いた。
そうだ。
その手があった! と心のなかでポンッ。と手を叩く。
その言葉は私の無駄に空回りしていた思考に喝を入れたようであり、今まで考えていたものが吹き飛び、〝ここは異世界なんだ〟と思い出させてくれた。それと同時に、自分の想像力のなさに落胆した。
全く、何を私は。異世界に来てまで、逃亡方法が、ただ走るだけだなんて生真面目なことを。
そうして。私はかつての同居人の真似事を、一か八かで試してみることにした。
但し〝アレ〟を使うとNPが有り得ないくらい減るからそれ以降の魔法は使えなくなる。しかし。私の見立てでは、そこら辺の問題は力技でゴリ押しすればなんとかなる。
そうして、静かな戦場に、詠唱が走る。
「
特定魔人固有スキル。
特定の
故に、私のような平凡なる人間が完全に扱えるわけではない。かつての友に鼓舞された末に英雄が敵地を脱するために編み出した真似事、の真似事なのです。
「!?」
私の全身の魔力が足へと集まる。相手チームの手が届かないくらい。そして魔力吸収魔法のもっと上へ、そのまた更に上へと続く逃げ道が、丸く青い結界が足場のように現われる。
踏みしめれば、透き通っていて深い青に淡く光る魔法陣はまるで水が魔法陣のように集められたのかとでも言うのか、水面を荒立てる。だが、発動中の魔力と魔法陣は一蓮托生で、魔法陣に練り込まれた魔力と同じ魔力が足に宿っているからか。安定して歩みを進めることができた。
彼らの頭上を、左右、右左、と走り抜ける。
爽快感とともに襲って来たのは、自分の中からぐんぐんと魔力が溶けるように抜けていく感覚。
やっぱりゴリゴリ減ってる!!!! というか……1回でNPが全損してる、かなりの大誤算かもしれない。
「とにかく……………………体が重いっ!!」
私の身体は、着地すると同時に地面へ伏せた。
魔力切れ、回復アイテムの使用を禁止されてるこの大会で、もう手数は無い。
だからこその
「……えれ?」
私は拍子抜けしたような声を発した。何を隠そう、私は一つ、思い違いをしていた。
まだ正式ではないけど、きっとこの職業になるよねって師匠が仰っしゃられた擬似職業、
指先から魔力の糸を出し状況に応じて硬度の変化が可能。武器としても使えれば相手を操ることにも特化した特殊職業。
そう。
〝魔力の糸〟を使って。
「あのーズィーさん? 申し訳ないのですが魔力を………」
『ああ。了解した。……あとは一人でお行き』
未だ肩に乗っていたズィーさんに申し訳なかったが懇願すると、なんともドライな感じで魔力を預けて、泡となって消えてしまった。
もうちょっと愛想よくしてほしいなぁ……と思いながらも立ち上がる。
自分自身に付与をし魔獣が腹を見せている間に、ズィーさんが造った足場を駆け、盾に囲まれた
「! ………へ?!」
壁に足をつけて真ん中を狙い殴るとガラスが割れる様に盾が砕ける。
「
「………ぁ……」
「暫く眠っていてください」
目に片手を
「《》」
私だけが立っている。
「しょ、勝利チーム! ユリィーチーム!!!」
歓声が巻き起こり、その嵐に私は包まれた。方向感覚が失われるほどの黄色い声に酔いしれたかった。
「ユリィー!! やったな!!」
ビルードルさんが全力で走って、目の前で息切れを見せたあとに完璧なグッドを見せてくれたことで少し広角が上がってしまった。
「「「……」」」
その後ろには、あの感じが悪かったチームメイトが、まあそうだよね、という感じで申し訳無さそうにしていた。
最初に歩み寄ってきたのはトキさんだった。
「ユリィさん、私、その」
「………私は謝って欲しいわけじゃないです。」
私は意地悪にも、先手を打ってしまった。
「でも!」
「今後の学園生活が私にとって平穏であればそれでいいんです。ただ、それだけなんです」
「……そう………」
皆が黙りこくってしまったそのすぐ後、ビミョーな空気をかき消すようにビルードルさんはため息を吐く。
「ユリィ、コイツらから謝りたいってのが伝わったのかだけ聞かせてほしい」
そう聞かれると、もちろんはい。と答えた。
こんなに申し訳無さそうにして伝わらないから頭下げろ、というほど意地汚くはない。
「だよな、……でさコイツら、お前と仲良くしたいんだよ」
「……………………はへぇ〜〜〜〜〜????」
へんな、声を上げながら頰を両手で抱えそっぽ向いて暫く考える。
え? 私と? もともと興味があったとは思えないけれど? あー利用価値を見出しちゃった系ですか? 見出しちゃいましたですか?
『深読み厳禁』
なら…………単に仲良くなりたくなった、と。
なんだか懐かしい感覚が戻ってきた。私も生前はそんな時期あったなあっという感覚。
「よろしくお願いします」
「やっぱそうだよな…………………ええ!!?」
「えっ!?」
「い、いいの?!」
「はい、パシりとか、そ~言うのは無理ですが。人間とおしゃべりとかしたい時もありますし、よろしくお願いします」
という挨拶でこの会話は一段落し、ビルードルさん達は一足先に闘技場を後にした。
一方、残された私は、ようやく立ち上がったリリフィーさんたちが目に映り、ところへ駆け寄った。
「やっばぁ……何が起こったかわからなかったんですけど〜〜、ホントすごいよぉ、ユリィちゃ」
私への称賛の言葉が終わるのを待たずして惨劇は訪れた。
「いでよ! 混合魔獣!
「「――え?」」
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