第10話 イキっても許してね


「でぇいやぁあ……ッ!!」


「はぁぁあ!!」


「……赤き灯火よ集まりて其の物を焼き尽くさん、火炎の散弾フレイムボール!!!」


 迷いなく飛んでいく火球は確かに相手の装備に傷を付けていく。


「成績は残せる所で残さなきゃね、目覚めの光ライト・オブ・ウェイク


 ……身体強化………クリスさんは強化職に向いているらしいです。あーウィンクしないで。背筋ゾクゾクしちゃうので、あ、変な意味じゃなくてですね。




 あ、急に話が進んでいて申し訳ないです。


 あのあと、担任に「色々と大丈夫?」と聴取を受けたり。新入生全員で、校外学習ですかーって思うくらい、列になって大移動して会場入り。控室を出て深呼吸してるだけで「ふざけてんじゃないわよ」とトキさんにブチギレられて胸倉掴まれたりするわ。


 色々とややこしいの立て続けで、なんとかかわしていたらいつの間にかここまで進んでいました。

 今はもう第一回戦が始まってみんな勇猛果敢の四文字が似合うくらいに燃えています。


 私は…………っ……分かっているくせに。


 嫌われないように努力してるんですよ!!!


「はぁ……」


 で、今に至るわけです。


 皆の戦い方を見て何が得意なのかを見極めている。

 ……とはいうものの。引っ込め、と言わんばかりの圧が色んなところから来て心苦しく見守っていたのです。私。


 最初はこちらが優勢だった。私の出番なんか無くてもですよ。




 でも、ある瞬間で、状況は一変した。




 相手の魔法使いウィザードは水系魔法を使っていた。

 一方、イリスさんは火炎系であり相性は最悪。それに身軽な暗殺者アサシンもいた為、すぐに背後を取られてしまった。


「っ……!」


「い、今回復しますからっ、」


 ……だめだこりゃ。な展開。あっちまだピンピンしてますが。……もう、動かないとですよね!?


 流石に不味い。と、私の足は皆さんの前へと動いて、それぞれに治療魔法を掛ける。


「女神カルティアナの神聖なる加護を、戦人の血肉を癒やしたまえ。女神の口付けヴィーナス・キッス!」


「「!!」」


「凄い速さで、き、傷が、治ってく……!?」


「疲れも、血も出てない……?」


「ユリィ…………?」


 はいはい……そういう展開になるのはお見通しでしたよ。気持ちいいのは確かですけど。

 いろんな転生主人公を漫画で見てきたけど、確かにこれは元気出るわけです。


「我の怒りは天の怒り。我に反する愚か者に……正義の鉄槌を! 雷神の矛ケラウノス!!」


「っ!? 水流の壁ウォーターウォールッッ!!」


 手を振りかざすと不自然に淀んだ雲から一筋の落雷が水の壁に当たり、逆に相手チーム全体に電流が駆け巡る。


 ……やっぱ水には電気ですよね。


「………あ、ぎゃ、逆転勝利! チームビルードルの勝利です!!」


 大きな声が客席にも全体にも広がり歓喜に包まれる。


「「「っあ…………」」」


 …………なーに鳩が豆鉄砲を食ったような顔してるのでしょうね、本番はこれからなのに。


「……………あ、そうです……女神様の口付けヴィーナス・キッス


 やはり唱えると相手チームの傷が癒える。


「ゔ、……な、君が?」


「……………………そう、です……」


 ……やばっ!! なんか直ぐに終わらせたい一心で普通にやってたけど恥ずかし!!! 黒歴史確定じゃないですか。


「ありがとう!」


「い、いえ……」


「じゃあ……僕らの分まで頑張って!」


「あ、はい」


 手を振られたので、反射で振り返すと後ろから圧が迫りくる。


「ユリィー!!」


「ビルードルさん! 大丈夫でしたか?」


「大丈夫に決まってる、それより、凄いぞユリィ!! 皆驚いて何も言えなかった!」


「ぁ………そ、そう……」


 別に凄い事じゃ……


「「……」」


「……おい、そろそろ謝ったらどうなんだ。あんなにバカにしてたのに助けられたんだぞ?」


「……けどさーまだ勝ったとは言えないじゃん?」


「はぁ?」


「そ、そうですわよ! まだ決勝にも行ってないのに!」


「ま、まだわからないというか………………」


「……なるほど」


「なるほどじゃない! でも――……そうかよ。行こうユリィ」


「あー…………………はい、分かりました。なら次の試合。私だけで出ましょう!」


「「……は?」」


「あれですよ? 一応チーム戦なので端に寄っていて下さい」


「はッ!? なんで」


「皆が認めたくないんです。決勝は皆で出たいですが、次が決勝じゃないのなら一人でも良いでしょう? そこで試せば良い。」


「……ハッ、良いじゃない。ただし……負けたら、分かるわよね?」


「ええ――貴女でも扱えない上級魔法を私は扱って見せますから、その節穴貴族のおめめ・・・で見ててくださいね。


………………最弱魔法しか使えない魔法使いウィザードのくせにって罵りますよ」


「なッ!!?」


「ッ……もぅ罵っとるじゃろぅが!!!!」


 私は後ろが気になりつつも、そのまま闘技場を出てチームの控え室に向かった。


 その道中で考えてみた。が、



 ……あれ? 私今なんと? もろ素とはいえ、アドレナリン出すぎじゃないですか?

 こ、これじゃ、まるでイキリ主人公じゃないですかぁぁあ!!


 という結論にいたり、私は次の試合まで考えるのをやめた。

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