第9話 ヒーローみたいで


 それは二日目の朝。


 うう〜〜ん。

 なぜでしょう。なぜでしょう?


「どうしてこうも私は人に嫌われてしまうのでしょうぅぅ……」


「……」


 顔を腕に埋めて小さく呻く。消え入る私の声。

 机に座るズィーさんは無言で私の頭を撫でてくれている。淡いピンクの肉球でぽむぽむ、と。


 が、私の気持ちはどんどん沈んでいく。


 ………いっつもそう。

 今現在の原因は私の準備不足だったとしても、


「ねぇ……」


「……やっぱりさ……」


「やばぁ〜〜……」


 この嫌われ具合は尋常ではありません……!!


 もうこれは準備不足とかのベクトルではないでしょう。

 なんだ? なんでだ? 何が悪かった??


「ちょっとユリィさん」


 色々と失敗はした。しましたよ!! けどここまで!?

 意味ガワカラナイヨ!!


「……ユリィさん」


 ほんと昔から人に嫌われる才能だけはピカイチなんですから私ぃ!!


「ユリィさん!!!」


――バンッ!


「ひぃぃい……!!?」


 机が叩かれ、耳元での凄まじい音と振動で、反射的に背筋がピンとする。

 目の前で私を見下している瞳と目があった。

 机に乗っていたズィーさんが消える。


「なっ、逃げっ!?」


「騒がしいんだけど。少し黙って来なさいよ」


 いそいそと教卓の方へと向かう。


「見た? あれ………来週のチーム戦のメンバーよ」


 よく見れば、黒板に書かれている紙にはトキさん、サナトくん、ビルードルくん、イリスさん、クリスくん、私の名前があった。


 イリスさん……あのお嬢様みたいな人だ。

 どうして寄りにもよって個性の強い中になぜ私がぁ……?!


「で、でもどうして……私に?」


「みんな使い魔の強化や能力を高めるための訓練をするの」


 横から声が入ってきた。

 偉そうな声の主はあの金髪にピンクの眼を輝かせるフリル姿のお嬢様。……イリスさんだった。


「私達の特異能ギフトは実戦で役に立つけれど貴方は契約テイムしか出来ないでしょう?

頑張る、と言っても僅か一週間で役に立つ魔法を使いこなすとは思えないわ」


「あ、はい……」


「攻撃が一人居ないだけで結構落ちるものなんだよ、こういうのってさ」


 続いてクリーム色の瞳の持ち主、クリスさんが緩く入ってきた。


「あのネコちゃんだって、ホントは君の眷属じゃないって噂だけど?」


「えっ……?」


 そりゃ直後までそうでしたけど。

 …………ちゃんと契約しましたし!? その日の内にですけど。


「つまり、貴女は人一倍「以上」努力しなさい。足引っ張らないで」


「そうなのだわ!」


「頑張ってね〜得意分野「オバケ契約テイム」のユリィさ〜ん、」


 ………は? 何ですか? あの言い草……めちゃんこに腹立つのですが??


 ――「……カルティアナさん」


『は〜い、ユリィさん見てましたよ〜てか凄い陰キャなんですね、意外です〜』


 ――「ぶっ飛ばしますよ。諸悪の根源より先に。」


『……すみませんでした……それで、どうします? 私に任されても良いんですよ!? 恩がありますので!! お身体の方、強化が必要なら』


 ――「……いや。大丈夫です。……来週のチーム戦ってどんなのですか?」


『はい!! 毎年開催のお祭りなんです! 特に一年生は魔術を使える方が少ないので使い魔の力を借りるんです!!! 二年生と三年生は他の国の学園の方と、勝ったチームはバッジを貰えるんですよ!』


 ――「バッジ……?」


『はい……! 以前までは先輩女神のリリィ先輩を模していたのですが最近では私になっているんです……』


 ――「……??」


『先輩は自ら人間界に降り立って諸悪の根源討伐にそちらの世界へ……』


 ――「じゃあもう倒している筈では??」


『それが、




 先輩は討伐より先に魔帝と駆け落ちしたらしく……』




 ――「………………ふむ……」


『それが魔帝の配下であった魔王達からの誤解を招く&反感を買ってしまい……私は勇者を送り出しては失敗している。の繰り返しでして……』


「……………」



 何やってんだッッ先輩女神様ぁ……!!! 




 ここまで来たらカルティアナさんが可哀想ですよ!!

 というか「失敗している」!?


 死んだと言うことでOKです!?


 もうそれ先輩女神様と状況説明能力じょうきょうせつめいのうりょく赤ちゃん魔帝様を真っ先に探し出して張っ倒した方が宜しいのでは……?


 ――「……そうですか、有り難うございました……それではまた」


『? ……はい……! では頑張って下さい___!』


 カルティアナさんからの御告げが切れる。


「……………リリィ女神様……」


「リリィ女神? 何の女神だ……?」


「いえ………!?」


 え、ビルードルさん!?


「すっごい真顔だったから」


「いや、何でも」


「ふーん、……なぁ、さっきのどうだった」


「……え?」


「さっきの三人のだよ」


「あ、あぁ……」


 聞いてたんですね……。


「すんごいイラッとしてたなって」


「………私も人の子だってことです」


「黄昏れるな!!

 ……でも、あんなコト言われて良い気持ちになるやつなんて居ないしな」


「……大丈夫です……私足引っ張らない様にしますから、」


「! ……そうだな! まぁなんかあったら俺が全員守るしな!」


 そう言って清々しい程に笑うビルードルさん。

 ……ヒーローみたいな人だなぁ、


 でもその笑顔は周りの殺意を集めるだけなのですよ…………。

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