第8話 私の特異能
「どうするんですか」
『ニャア』
「ニャア、じゃないぃ……」
癒やされますけどぉ……。
「まぁ、眷属にはこだわりたいよな、分かるぜ?」
「はい……そうなんで、す……?」
どんどん重なる嫌な予感にそろそろめまいがしてきそうになる。
「よっ! ユリィ・パペッツィア! ……だよな?」
「んなっ……!?」
名前を一文字も違えずに呼ばれた。
「ちょっと良いか?」
「……わっ!?」
手を引かれ学園の旧校舎の方へ連れて行かれる。近くの中庭に着くと私は自然と段差に腰を落ち着けた。
「……」
ビルードル・ブロンズさん、だったような。その人は中庭から校舎を見張ってから提案してきた。
「ここなら人目も少ないし見えないよな?
「……」
ふと。
〝きっと何かの縁だろう〟と。
私は思った。
「はい」
今までに無かった思考がどんどん湧き上がってくる。
何かが始まる。
なら、始まりの切符を手にしたって良いじゃないか。
「ネコも文句は……『ニャア』……なさそうだしな!」
まっすぐにこちらを見つめてくる。
と、手のひらに額を合わせてくる。
……コイツ、可愛い!?
「あ、ほらよ」
ビルードルさんから紙を渡された。
開けば、詠唱する言葉がつらつらと並べられていた。
「クッ……
『地より
……わあっ」
ネコを上下にサンドする形で魔法陣が形成され、閉じていくと無事
それに一息ついたけれど、
このネコさんにはもう少し頑張って貰わなくてはならない。
「………………後は、」
「!?」
『……』
「よし……
『闇の
願わくば
『!! ……………ニャァア!!!』
急に流れ込んできた膨大な魔力の量に驚いたのか。目を見開き、今まで聞いたことのない鳴き声を出すネコさん。
先程とは似た形状の、今度は赤黒い魔法陣がネコさんをすり抜けながらサンドして消える。見開いた左眼に私と同じ紋章が刻印された。
「よし……ありがとうございます、頑張りましたね〜!」
「ちょ、ちょ、ちょっ!!」
「はいっ?」
ガッ、と肩を掴まれると、眼前には安らかな闇ではなく驚きに興奮した凛々しい顔が広がる。
え、え、なになに、なんですの?! 怖いんですけど!!!
「今何したんだよ!!
「あ、あ〜〜……」
「教えてくれ! いや教えてもらったら脳が保たない気がするけどこの際関係ない!! だがそれでもいい!」
「ぅ、ぅあ〜〜〜……」
『ニャン』
「! わ、悪い!! ……ごめん……熱くなった……悪い」
ネコさんの一鳴きで冷静さを取り戻したのか、ハッ、と息をしたビルードルさんは私の肩から手を放した。
二人で改めて腰を落として座る。
「いえいえ、別に」
ビルードルさんは暫く間が空いてから、気まずそうに聞いてきた。
「その契約、ユリィの……」
「はい、私の能力なんです」
「……だよなぁ……」
「この左眼、
「能力にはそんな効果もあるのか?」
「さぁ……でも、
この瞳が在る限り、全ての闇霊は私に服従する」
「なぁ。ユリィ」
「はい?」
「チーム戦、俺と一緒に組もう!!」
「…………………………へ?」
「じゃ! 今日は良いもの見せてもらった!」
ハンドサインをしたあと、猛ダッシュして去ったビルードルさん。
そしてそのまま置いてかれる私とネコさん。
『…………ユリィ』
「!?」
『僕の主、ユリィ……君だ』
「ぁ、ぅ」
『ユリィ』
「はいぃ………!!」
『……何に怯えているんだ?』
「い、いや、ネ、ネコが……しゃべっ」
いやいや私が知り得る知識の中で「ネコは喋らない、鳴くのだ」というレッテルが、両面テープの上から金属板で固定されて剥がれないのですが??
『ここは異世界だ、こんなネコなんて腐る程いるさ。まあ、僕は「ズィー」だ「ズィー」……覚えてくれるね? 主様』
「ぁ………ふーん……」
『なぜそんな顔を?』
……もういい……そう、ここは異世界なのだから、うん。……兎に角、
「ズィー……さん……」
『?』
「ズィーさんですね!」
『わっ』
ずぃ、と顔を近付ける。大きくなった金の瞳の中でハイライトが泳ぐ。
『え、あ、うん別にさん付けなくても』
「助けてもらったので! あのままじゃ私、
『……うん、そっか、分かった、ズィーさんで』
「はいっ!よろしくお願いします!ズィーさんっ」
そして一通り終えた後で。
私は寮に戻り、寝る前にズィーさんにクシを通した。
……が、まだ逢って一日ということもあり。
吸うこと。そしてモフること。
それらに耐えた私はある一種の英雄と思い、その日は終わった。
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