第6話 随分と上品な救世主


「おーいこっち〜!」


「あっ! 良かったぁ〜クラス一緒が良いね〜」


「だりぃ〜……!」


「しょうがないだろ? ここを卒業しないと資格が貰えないんだからよ」


 アルホゥート国立アルホゥート冒険者専攻学園。


 世界中稀に見る冒険者のみの専門学園。その力の入れ具合は伊達ではない。


 この世界には階級というものがあります。

 それは騎士や傭兵、冒険者など。魔物を討伐、魔物と対立する職に就く者には必要不可欠な、所謂討伐許可証みたいなものなのです。


 そして、冒険者は、基本的、いや絶対的に。

 社会的に認められるには、その〝階級〟を取得しなければならないのです。


 まあ……簡単に表すとですね。







 新米冒険者。一番下? なら上しかないね。顔を上げなよ


 滑石タルク


 もっといけるさ


 木銅ウッドカッパー


 まあダンジョン行っても良いんじゃない?


 カッパー


 国からの依頼も頼めるね。


 方解石カルサイト


 あ。大型魔獣が暴れてる。ほらほら自身持って胸張って行っておいでよ。


 シルバー


 英雄の道へ片足突っ込む勇気はあるかい?


 ゴールド


 人型モンスターなら一撃ワンパンよゆーでしょ。


 燐灰石アパタイト


 一国の騎士団長とタメ張ってみる?


 尖晶石スピネル


 一家に一人いたら安全圏シェルターも同然。


 神銀ミスリル


 やだ旦那。伝説一個残してんじゃないの?


 真鍮オリハルコン


 もう強さ測定不可能。

 ここまで極めたものいないんじゃね? まあ、両手で数えれるくらいはいるんすけどね。どこまで行くのさ。


 神をも殺せる




 不壊アダマンタイト




 この学園を無事卒業すれば、これらの十二階級のうち下から四階級目。


 〝方解石カルサイト級冒険者〟


 の資格を社会的に確実に認められる。簡単に言えば超絶安定設計の飛び級であるということ。


 確実に実力者を排出してきた、超絶のつく名門校なのです。

 パーティーに加わる資格もモンスターを討伐し報酬を得られる権利も取得できる。ただひたすらに魔法の訓練をし続けて、安定して冒険者になれる道。


 因みにこの異世界では、何を熟すにも階級が全て。階級が無ければただのニートなのです。







 ほんでどうしましょ。周りに陽キャしかいない。どうしましょう。

 変な汗が滲んでくる。

 なんとか人混みを掻き分け自分のクラスに入る。


 クラスの席は日本とは違って教卓を囲むように段々になっている。何方どちらかというと異世界にある学校の様な間取り。


 ………この世界も異世界でしたね。


「はぁ……、」


 机に突っ伏して深く溜め息を着く。


 何だか最近溜め息ばかり着いてる気がする、駄目ですね、幸せになれない。幸い外の景色が見える窓側の一番後ろでしたが……真ん中だったら、と想像しゾッとする。


 クラス内では皆仲良しグループになってこれからの学園生活について話し合っている。心から嬉しそうに見えた。


 いいなぁ……。なんて思ったことはないけれど★


 しかしどんな雰囲気ふんいきなのかは気になったりするもの。私は陽キャを演じていただけだから、人と心から話したことなど無い。師匠は省いて。

 ………でもそれこそ日本にいた時は、


 生きてきた中で誰一人と。と言っても過言ではない。


 前髪の隙間から見える人達の顔は皆、ワクワク感に襲われている。凄く目を輝かせてる。


「色んな人が居ますね……」


 軽装をしている人も居れば、金髪の髪をカールさせ派手に纏め上げてそれに合う可愛らしいフリルの服を来た貴族の様な人。


 前髪を上げ如何にも元気ハツラツとした背の高い人。冷たい目付きの基本的な制服を来た人。私の様に前髪で目を隠して本を読む人。


 それぞれ本当に個性が溢れているなぁ、と思う。


「おーい! 先生がきたぞー」


 廊下に近いタレ目のクリーム色の瞳の生徒が呼び掛けると皆ガタガタとイスを引いて座る。


 この風景は見慣れている……。


「……」


 コツコツとブーツを鳴らし入ってきては教卓に出席簿?らしき物を置くと、クラス全体を見る先生。


 その先生は勿論スーツでは無く、アルホゥート学園の象徴でもある金のドラゴンが二頭、剣を護っているワッペンが縫ってある魔導師の様な服を着ている。


 紺色の髪を下の方で結っていて前髪は長くはあるが真ん中で分け、顔が明るく見える。

 その優しそうな目付きに加え、目を細め、微笑んでから話を始めた。


 女子達はキャーキャーと小さく悶えている。


「今日から皆さんの担任を務めさせて貰う「クエラ・レアン」だよ。宜しく、得意分野は魔術かな、眷属はこの子!」


 肩の後ろから出てくる子犬と狐の中間くらいの水色の毛の子。

 グッ……普通に可愛いじゃないですか……


「もしかして〜もう魔術使っちゃってます〜?」


「女子メロメロなんですけど〜せんせー!」


「つ、使ってないよ〜……はは……じゃあ廊下側から名前、特異能ギフト、使い魔の紹介をお願いします!」




 ……ん゛使い魔!? 使い魔って入学してから授業で契約テイムするって…………あ。


______________

_______

___


「そう言えばユリィ?」


「何ですか? 師匠」


「今年から眷属は〝入学前〟に契約テイムするらしいの♡ 今度私と森に行く? そこの森なら可愛いのが沢山居るけれど♡」


___

_______

______________


「………は、」


 ……うぁぁあ!!!!


 …………そう言えばあの時はまだLv.が低かったしカッコイイ好みが契約テイム出来なかったからそのまま引き延ばし出たんでしたね………ど、どどうしよう!!?


 そう焦っている内に紹介はどんどん進んでいく。もう私の列まで来てる。


「じゃあー最後君!」


「_______ぁっ、私、です……か?!」


「そ。ほっぺまで隠れてる……ユリィさん? 御願いね」


「あ、ぅ……と、」


 どうしましょ! どうしましょ! どうしましょう!!!?


「どうしたのー?」


「自己紹介だよー自己紹介ー」


 どうしよう、陽キャモードになってやり過ごす!? いや、でも、ここでなったら……折角の〝素〟で暮らす目標が……。


「おーい。」


 ええい……しょうがない……!!!!


「………わ、私の名前は、ユリィ・パペッツィアです。特異能ギフトは、闇霊絶対服従契約ゴースト・アブソルート・テイム………です。……その、眷属は……」


「眷属は……?」


「え……と」


 あーーーもう!!! ここは素直に言いましょう……!


「その、まだレベルが低くて……」


「……契約テイム出来ていないと?」


 「まだレベルが低い。」これが唯一まぬがれることのできる理由。不思議な顔をしてうながしてくれる先生。


「はい……」


特異能力ギフト契約テイムって言ったのに〜?」

「しかもなんかごちゃごちゃしてたし、なんだけ?w」

「初級も眷属にしてないの〜?」

「そんぐらいLv.低いとか!?ww」


 「期待外れ。」とでも言いたいような声色で交わされる柔らかい罵声の中、静かに座った。


 「トキ」と名乗っていた和をモチーフにした様な服の人には冷たく見られ、「なんだ。」と一言。冷たく心に刺さった。


 「サナト」と言った同じ目を隠した人に目を向けるとジッと此方を見て何やらブツブツと呟いて居たけど直ぐに本で顔を隠された。


 こういうとき、本当に泣きそうになる。まあ、自業自得なんですけどね、

 はいはい。よくある展開ですね。と吹っ切れたら楽なんですけどね……。


 そうして座ろうとしたとき、


『ニャア』


「……?」


 始めから開いていたのかは知らないが、扉の隙間から頭を覗かせる黒ネコが見えた。


 ……あーそうそう、この世界にもネコはいます。でも「猫」ではなく「ネコ」と表記しないと伝わらないです。……どうでもいいですね。はい。


「ネコ!? かわいいんだけど〜!」

「……どこのネコかしら」


『ニャア』


 同じ音で鳴くとスッ、スッ、と段差を軽やかに上がり、助走なしで跳ぶと机に音もなく着地する。


「え、」


『……ニャア』


 そのまま私の前に来ると静かに腰を降ろした。体のラインが上品さを醸し出す。


『ニャア』


「きゃぁー!かわいい!!」

「めっちゃ癒やされるわぁ〜…」


 一体、どこの飼いネコちゃんですかァァァ!!!?


 ……そして、つい、こう焦ってしまったけれど、この世界でネコは飼うものではなく、愛でるものだという。

 誰の家のネコとか言う概念は無く、見つけたら兎に角愛でる。愛でる。愛でる。の一方通行。


 だから首輪なんて行動や人々の癒やしの邪魔をする物なんてのは勿論ある筈もないので、


『ニャア、』


「ちょ!?」


「ユリィさんに懐いてるね〜!」


 一方的にベッタリされると、


「分かった! そのネコ、ユリィさんの使い魔なんですね!?」


『ニャア』


「……えぇぇ"!!?」


「やっぱりいたんじゃん!めっちゃレベル低そうだけど……」


「でもビビったわー」


「……」


 こういう勘違いも起こるのです。


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