第4話 珍妙な少女と魔帝の邪眼【後編】


 私は夕暮れ時にTHE・異世界な見渡す限りレンガの街並みを歩いていた。

 腰には昼間使った剣。

 今や


〝刃こぼれが得意科目になっているのでは?〟


 と思うほど毎日刃こぼれしている剣。


 使用する人間の腕が悪いだけなんですけどね。

 キミは悪くないです。私が初めて自分で選んだ剣マイ・ソード、エクスカリバーよ。


 私はこの剣にエクスカリバーという名をつけた。なかなか愛着が湧いて刃こぼれが酷くて刀身が折れたときは思わずイリィ師匠に賠償金を迫ったほどだ。

 そんなエクスカリバーの鞘に手を当てる。


 実は私。

 さっきから考えては落ち込み、また考えては落ち込むの繰り返しだったのです。


「……どうやったら……」


 師匠には、せめて入学前に一度だけでも勝っておきたかった。


 そう思いながら、私は刃こぼれした剣を眺めながら歩いていた。

 目的地は勿論、鍛冶屋。この国の鍛冶屋が育てる剣は扱いやすくて優れたものが多い。


「おっ! ユリィちゃん、今日も負けちまったかい」


「ご主人…………はは………せめて入学前には一勝したかったです……」


「はっはぁ! しょうがねぇ! イリィさんは強えんだから!」


 この店のご主人は剣を育てるのが本当に上手だ。

 何故〝育てる〟と言うのかについては、


〝普通の鍛冶師なら自分の子供のように剣を磨く。それだけじゃねえが、簡単にいやぁそういうことよ〟


 と、教えていただいた。


 そう言って剣を受け取り店の中へ入っていくご主人。

 私は店前に飾られた武器や防具を見る。


 情熱を注ぐ人が育てるとやはり剣たちも良くなるらしい。


「……」


 それとは別に一つ、店の奥で散る火花を見ながら私は思い出す。

 女神カルティアナ様からされたお話を。







『太古の昔、今や私の受け持つ異世界で、派生属性というものが生まれる前。原初の七大属性である火、水、土、風、闇、光、無が世界に舞い降りて始まりの幕を上げた時代の話。』


(そんな昔のお話なのですね)


(というか、異世界は元の世界よりもだいぶ前から創り上げられていたということ?)


『それぞれには〝始まりの場所〟というのがあります。

 火属性ならば太陽の神ヘーリオスの足元が始まりの場所。

 水属性は水の神オケアノスの水浴び場。


 などなど……そんな中。闇属性は始まりの場所、〝冥王ハデスの深淵〟に留まることなく溢れ出し。生命を蝕んでいきました。』


『そのような暴走を止め、均衡を保つため。ひいては見境なしの者たちを纏めあげ、操るために造られたのがこの魔眼……


 魔帝の魔眼、〝クトゥルー・ラ・アイ〟なのです!!!』


(なんか、後半につれテンション上がってませんか……?)

「……にしても厄介なものを纏め上げてくれる優れもの、なのに邪眼なんですね」


『…………まあ、

 魔をまとめるものもまた魔ということじゃないんでしょうか』







「……」


 自然と左眼に手を添えた。


 意外にも単純明快。

 きっと、私のそばに置いておく鉱石が変色したり属性を持ってしまったり、その鉱石を魔物たちが大好きになったりする意味不明な現象の理由はこの瞳なのだと推測できる。


 私のレベルが追いついていないから、人知れずじくじくとと暴走しているのだろう。


「貴方も気の毒ですね」


 世界を守る。


 闇が全てを呑み込まないため。


 そんな、偉大なる信念の下に造られた神器だと言うのに


「……レベルが伴わないと魔力が独り歩き…………」


 カルティアナ様のお話によると、異能ギフトというものには〝与えられた者と共にレベルが上がるギフトもの〟と、


〝元からレベルが固定されそれ以上もそれ以下にも変動しないギフトもの〟があるらしいそう。


「……」


 私は、自分の性癖好みの魔物に囲まれて暮らしたい。


 私自身のレベルが魔物より勝っていなくとも、この魔眼で契約をすれば従えることだって出来る。


 しかし、それはすべての決定権が魔眼にあるというのと同じ。

 胡座をかくこともできるだろう。が、努力を怠れば何を魔物に命令するか分からない。


 ……確かに一目惚れした魔物達との暮らしは手に入れたい。


 でも、私だって人間だ。

 誰かを犠牲にしたり傷付けたりしてまでも幸せをもぎ取りたいなんては思わない。


 誰かを救って、次第には英雄と呼ばれる異世界ライフなんてのは望んでいない。


 ただひっそりと誰も傷付けず、幸せに余生を過ごしたい。

 この異世界で、それくらいは許されても良いんじゃないかと思うのです。

 

「……せめて制御できるようにはならないと…………」


 ………………第一夢見が悪い。


 私は剣の磨かれる音を聞きながらそう思った。


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