第3話 珍妙な少女と魔帝の邪眼【前編】
私を招き入れてくれた温かいお家。
あの時から私は何不自由なく育てられた。
私の今の名前は「ユリィ・パペッツィア」となっている。
前世と同じ黒髪。…………少し艶が良くなった気がする。
元から両眼が金色だったが、左眼がなんだか赤黒い、奇妙な色になってしまった。
私は血紅色と思ったけど、師匠曰く、グリムゾンカラーというものらしい。そこら辺の境目は別に興味がないけれど。
「わぁ……♡ 男の子なの? 女の子なの? 複雑ねぇ♡」
私の体については師匠が服や贈り物に悩む姿を度々目撃してきた。
「ま♡ 稽古の内容に変わりは無いのだけれどね♡」
毎度送り付けられる言葉に絶望したのも忘れない。
師匠は「イリィ様」と呼ばれていた。
昔は王様直属の凄腕パーティーの白魔法士だか魔法使いだかなんだかんだで。今は宮廷魔法士を務めておられる方。
そんな方に育てられることになった。ある程度育った時。
私は意外と、いや。ほんとうに凄い方に拾われたのだと理解した。
あとは、あの旅と運命の女神様が
『ユリィさんには特別もう一つプレゼントさせて頂きました! ……あ、呼んでもらえれば全然
って語り掛けて来たんですよ。………有り難う女神様!!!
個人的に、前世の常識を持ったまま異世界で生活するというのは難しい、と思った矢先のこと。これから会話出来るって、情報供給としてもすんごく便利なのです。…………話し相手がいなくても。
「ユリィ〜〜♡ 稽古の時間よ〜」
「はい、師匠」
私はイリィさんに育てられる過程で、自然と弟子になっていたらしい。
個人的には異世界というなれない環境で生きていくのに立派な魔法使いから教えを
イリィさんは王様直属の凄腕パーティーだったということもあり、レベル90の白魔術師。
外見は、全てが白。髪も肌も、瞳も。
他にも噂……半ば、伝説の絶えない
「何をしているのかしら〜?♡ 腕立て増やすわよ〜〜♡」
「今行きます!!!!」
外に出て剣を持つ。
師匠との稽古は、漫画で見てきたものとは違っていた。
始めは魔法を撃つだの弾くだの基礎的な部分。筋トレも欠かさず腕立て、腹筋1000回。
そして最後に、師匠の場合は一項目ある。
それは、私は毎日一回。一人前として認められるチャンスを貰えることだ。
簡単に言えば、師匠に挑む事ができる。
「はぁあっ……!!」
地面を蹴った瞬間の砂煙に紛れ身を晦ます。
「
風が砂煙を払い除けられる。
だが、私はもう師匠の間合いに入っていた。
次々と飛んでくる火球を、剣に水属性を付与し素早く
今日も今日とて剣の刃溢れが酷い。
「ッ、」
剣を放り投げ、自身の得意戦法に切り替える。
師匠までもう少し……いけると思った。
「
私の指先から伸びる糸。系十本が枝分かれしながら折り重なる。そのまま師匠を包み、凄まじい音と炎を上げ爆発する。
この糸は私の武器。
良くわからないが、手芸を教わっていた時に何故か指先に魔力を込めると伸びた。
ある日、鋼のような硬度を持ったのでそれ以来、武器として使っている。
応用を利かせ、特定の魔力を込めれば、大抵何でも出来そうなので愛用している。
そしてこの
台風の目じゃあるまいし、致命傷は間違いなし!
今日こそ師匠を倒せる、と言う期待に胸が高鳴っていたのは束の間。
砂煙が払い除けられたそこには、シールドを張っていた師匠。慎ましく立つ師匠が居た。師匠の周りの地面が
そして次の瞬間には首に人差し指をトン、と置かれ動けなくなる。
瞬間移動でもしたのかと思う速さで師匠は私に近付いたのだ。
「名付けて、〝台風の目〟作戦♡」
「意味がわかりません!!!!」
結果、また私の敗けとなってしまった。
「今日も私の勝ちですねぇ♡」
「っ……………な、んで……なんで今日も勝てないのです!!? 間合いも、タイミングもしっかり!!!」
「ふふ♡ レベルの問題ですよ。ユリィは恐らく同年齢の子供達より遥かに強いですし♡」
「……」
私は自分のレベルが判っていない。
私のレベルは一体何なのでしょう。この勝敗の結果から、師匠より低いのは判明している。
しかし、師匠は
「はぁ……」
「まぁ! 学園卒業前に私に勝てば良いのです♡」
「わー、ありがとうございますー」
当たり前のように棒読みで返す。
ほんとうに、結構すっごいザックリしてますよこの人。
「……学園かぁ」
……そうでした。明日はこの街にある学園、アルホゥート学園の入学式。
……え? 名前がお菓子クサい?
あー、あれ美味しいですよね。私一番好きなお菓子ですし。
でもこの異世界ではあのお菓子はないので、普通に国の名前になっちゃったり? みたいなです。
って事で明日からは遂に学園生活!!
「はぁあ……」
正直のところ、一番来てほしくない日です。
私は、日本に居た時は陽キャで過ごしていたけどこの世界では“素”で生きようと決めた。
そして私の素はバリバリ現役陰キャ。
師匠以外、一人の店員さんにも話仕掛けられない。
……終わっている。
お疲れ様です、明日の私。頑張れです、明日の私。
怯える私に今にも笑い転げそうに、肩をヒクつかせて師匠はおっしゃった。
「良かったですねぇ、ユリィにも……友達が、できっ……できますよ♡」
「……」
この人だけは絶対赦さない。
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