第3話 拾われた果実


「魔帝の邪眼……?」


『まあ、そのうちわかりますよ』


 笑顔のままそう返される。女神様は気を取り直して、とでも言うように


『では!


旅と運命の女神、カルティアナの名にいて運命の旅人に神聖なる異能ギフトを』


 全身が神々しい光に包まれる。


「っ____


……?」


 何か変わってるって気はしないけれど、あの素晴らしいカードの効果が女神様の力によって付与されたらしい。


『はい、付与は終わったので、効果は転生後に現れますよ。それでは、桜縁鬼さえきの百合霞ゆりかさん。異世界生活、楽しんで来て下さい!


有り難う御座いました!!』


「へっ!? きゃぁあ!!!?」


 謎の空間に吸い込まれる。


 なんだか……不安と楽しみが入り混じって気持ち悪さすら感じる。……いや目が回るのも込みで、ですかね。


 だが、ほんとにワクワクしている自分がいる。


 私の異世界生活、どうなるのでしょ


『ああ! 忘れないでください。貴方が旅する異世界は、』


 ?




愛しき世界ライブ・アス・ライフですから』




「…………_______」


 それから私の意識は光りに包まれ、霞がかって消えた。







木々かみがみの祝福をけし果実みこ、貴方が貴方でいられる為の選択をすること。


木々かみがみは心より祈っています〟


 そう頭に響いて、私は目を開けた。

 その言葉、祝詞のりとによって自然と開けられたような気がした。


 それから葉の揺れぶつかる音が渡って、自分の寝ていた場所が森だと理解した。


「……ぁ………」


 「あれ」と声を出したつもりだった。


「ぁうっ!?」


 母音しか発せないことに気付いた。


「……」




 ______なぜ。




 慌てて周りを見渡していた視線を自身に戻し、お腹の方に目を向けた。


「……………………ぇ………?」


 視界に入ってきたのはまさかの布。まさかの御包おくるみだ。 手足は出せないが、だいぶ小さいのだと理解わかっった。


「ぅ〜〜う……!!」


 私は騒ぎ立て、四肢をジタバタさせてなんとか立ち上がろうとする。


 軽率だと気づいたのはその直後。

 こんな無防備で、魔法も使えそうにない赤子が世界観のわからない異世界の森で騒ぐ。


 自殺行為でしかない。


____ガサッ


「……っ」


 やっぱり不味かったのか、そうしていると足音が聞こえて、私は動きを止めて、まだ未熟かつ未発達であろう五感を働かせる。


 サクサク、と草を踏み歩く心地よい音。子守歌のように一定でなる杖の金具の触れ合う音。


「天のほころび世はくろく、夜のほころび世をあかく、愛しき貴方よ永久えいきゅうに。

永遠とわに私のほまれとなれ」


 おっとホントの子守歌。

 こんなの、こんな音、目が微睡まどろんでしまう。







 次に目を覚ましたのは、木の匂いが優しく香る木洩れ陽とは違った明るさをべる家の中だった。


「その子が?」


「ええ! かわいいでしょう?」


「まったく……ホイホイ拾って来るんですから……」


「これだから主殿の悪癖は……勘弁願いたい……」


 話し声が聞こえて意識が湧き上がった。

 眩しさに目を再び瞑り、少しずつ慣らす努力をする。


「………ぅ」


「あら〜〜〜! おはよう♡」


 眠りに着く前に聞こえてきた歌声の主が私を覗く。

 白銀の睫毛まつげが輝いて柔らかく細まる白い宝石を囲っている。


「あなたは今日からウチの子ね♡」


 カルティアナ彼女に次ぐ、本物の女神だと思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る