第2話 新人女神様と転生準備


 私の体が快速列車に粉砕されて、一体どれくらい経ったのだろう。


「ん、んん? ……ん?」


 驚いた。


 可能性が無きに等しいと思いながらも「助かったのか」と、期待しながら目を開ければ、宇宙みたいに周りがキラキラとして沢山の星や月が見えた。


 何でしょう。ここ。


 ……というか天国です?


 我ながら、天国に行けるとは思っていないのですが。もし天国なのだとしたら、私。


 なんか、美女達や仏さま達がキャッキャウフフ〜、ってしてるとこを想像してたのですけど。

 案外静かなものなのでしょうか?


「あ」


 ちらちら、と先程から目の端に映っていたそれ。正面を向けば、前に見える玉座が違和感の正体だと分かる。

 どうしてこんな所に金で装飾された玉座が? と思って暫くふらふらと歩いていると




『目が覚めましたか。』




 と、ハープの音色のように上品で軽やかな声が響く。

 顔を上げればなんと、いかにも金髪碧眼美人! といった風格の女性が顕現けんげんしていた。


 ブロンドより少し明るい金髪が純白に輝くマーメイドドレスによって映えている。


「…………………………あの……。




出てくるの遅くないですか?」




『へ!?』


「それって、多分、私の意識が覚めた直前に語り掛けてくるものですよね?」


『はい? ぁ、う……はわわ……っ』


「それにもうちょっとだけ雰囲気を神々しくしてみては? 折角周りが暗い雰囲気と言うかあまり目立たない感じなので」


『ひぃぃ……!』


「それと……って、へぇ?」


『ひぅぅ……』


 ………………………………な、泣いてるだと!?


 目の端に涙をため肩が縮こまってる女神様(?)


 ガッツリとは言えないがわく罪悪感。


「あっ…………ごめんなさい、責めたわけではなくて! な、泣かないで下さい!!」


 思わず頭を撫でて宥める。

 いや触れれたんですか。大丈夫です? これ触れてもいいやつです??


『だ、大丈夫です……私、この前も来た人に言われて……頑張ってはいるんですよ………? でも、つい最近女神になった私が偉そうに人の人生を決めるなんて……』


 この人、ホントに女神です? すんごいしょんぼりしてますけど


「あの……良ければアドバイスしましょうか?」


『!! ……良いんですか?』


 それから私は暫しの時間を女神らしき女性と過ごし、謎のレッスンを始めた。

 自信の付け方、登場の仕方から話し方、女神らしい態度まで自分の今まで見てきた異世界ものに登場する女神のイメージを教えた。







 一通り教え終えれば、やってみますと鼻息を強くふんす! とする女神らしき女性。


『……で、では』


 特にどことは言い難いが、色んなところに油断していた私は、まさしく「度肝を抜かれ」た。


『よく来ましたね。』


 まるで自分に語り掛けられているようだった。それを確かに憶えている。


『新たなる旅人、桜縁鬼さえきの百合霞ゆりかわたくしは『旅』と『運命』の女神〝カルティアナ〟』


 あまりの神々しさに包まれた。


『天へくのも、新たなる運命を切り拓くのもあなた次第。あなたは貴方という人生の旅人。愛しき世界の冒険者。


 あなたが私の愛しい世界で旅する旅人ならば、私は風を連れて雲をきる鳥。』


 アドバイス通りの神々しさを通り越していた。まるでもともと備わっていたような。もともとそうしていたような。

 胸を張り、凛々しく透き通る声で発せられる言葉にすら魅了されそうだった。


「ぁ…………そんなに立派な女神だったんですか!?」


『ぅえ……っそんなに、ですか……』


「うん……………………………………………………」


 あれ〜〜。何だったんでしょう。あの時間。

 なんだろう。この茶番でしたよ感。


『と、とりあえず、ありがとうございましたです百合霞さん!!』


 吹っ切れたのか、自信が付いたのか、顔をしっかりと見える様に上げ、私を見る女神カルティアナ様。


『…………あっ!』


 なにやら目を大きく見張ったカルティアナ様が、ただの空気に手をかざすと、これまた不思議。宇宙を砂として中に閉じ込めたような砂時計が姿を表し中に浮遊する。


 落ち行く砂が、明らかに、落ち終えた砂よりも少なくなっている。


『…………時間がなくなってしまったので、急ぎますね。』


 時間制限があるのか、と興味深くなったところで女神が真剣な顔になるのが見えて、そちらに意識を戻す。


『まず、この度は尊い命を投げ出し、犠牲にしての命の救済。お悔やみ申し上げます。

 ……百合霞さん。友人を庇って亡くなってしまったあなたには、二つの選択肢が与えられます。』


「……」


『それは、このまま正式に死に、あの世、つまり天国へ行くか。


 異世界に転生し新しい人生を歩むか。


 この2つに1つです』


「あ、天国では無かったんですね。ここ」


『皆さんお聞きになられるんですよそれ、そうです。ここは昇天か転生かの分かれ道みたいな場所なんです!


 ……で、ここに来る皆さんはだいたい異世界転生をお選びになるのですがどうします?』


「……………………


 いや、あれは私の不注意と身勝手でしたから。」


 私は内に秘めていた持論を語った。


「ロクに話も聞かずに死のうとする人の邪魔をするなんてこと、してはいけなかった。だから大人しく天国へ行き。墓場で眠っていたほうが」


『私の受け持つ異世界では、多くの悪が日々モンスター達を操り世界を危機に晒しています。』


 …………ん? 私の持論………。


 女神にはそんなこと関係なかったらしく、話の途中で語り掛けて来た。

 

『それらの悪は、あなたが思う魔王なんかとは比べ物にはならないでしょう』


「えっ」


 漫画やゲームで培って来た想像の魔王よりも強い?

 私が想像する魔王って、勇者の攻撃が一切入らず、最後には勇者の頭蓋骨でお酒飲んでるイメージなのに?


 いやいや、この子、話聞いてたかなぁ。


 戸惑っている私をさて置いて。眼の前の女神様は胸に手を当て、深刻な顔を浮かべる。


『今まで多くの旅人に道を与え切り拓く力を与えてきました』


 意味深な発言に私の推理脳が働く。


「あの。与えたということは、」


『…………はい。世界の守護者私たちは、世界に過度な干渉をしてはいけないというルールがあります。運命の女神である以上、選択を咎めるなんてことはできない。……多くの旅人を見送ってきた。その間に楽園を目指し悪に挑み、打ち破られた冒険者ゆうしゃの名は一人たりとも、一度たりとも忘れません。


 …………きっと、彼らが私を恨むのを忘れなかったように。』


「……」


『いいえ、いいんです。彼らには、私を恨む権利があります。』


 泣きたいのだろうか、眉間に力を込め口を震わせている。されど泣いてはいけない。とでも言うように口を固く縛り、私を見た。


『旅人、冒険者として悪を倒し、世界を……いいえ。世界だけではありません。


 これから旅する旅人たちの未来を、救って欲しいんです』


 その声色や表情に同情し、共感してしまえばそれまでで。もう私の気持ちは、転生一本になっていた。 


「でも、ただの人間には難しいと思うんですけど……」


『ですから、この中から1つ選んで貰って、それを付与してから送っているんです!! お願いします!』


 生気の蘇った表情の女神様。

 腕を伸ばし。手を空中で大きくスライドさせると武器錬成、使い魔召喚、魔力自動回復、など名前の印された沢山のカードらしき物が出てくる。

 絵が動いているというところにも驚いた。


 ………………凄い量。


『こ、この中で1つだけ、選んで貰って付与させて貰ってから転生させて頂く形になってるんです! ……って聞いてます?』


 数ある一般的に見れば魅力的なカードの中。私はとあるカードに目を奪われていた。


「女神様。……あれはどんな能力なんでしょうか」


『へ? ……あ、あれですか、あれは……よっと、』


 カードを手繰り寄せて読み始める女神カルティアナ。


『えーと……闇霊絶対服従契約ゴースト・アブソルート・テイム。ああ。これは、自分のレベル以下の闇・暗黒属性系統のモンスターからの攻撃が一切効かずに特別な契約を結ぶことが出来るんです。


 例えば、高いレベルの方が所有者なのであれば


「首なし騎士、デュラハン・ナイトと契約して共に闘える」


 みたいなもので。よーするに〝魔帝まてい魔眼まがん〟と呼ばれてるアイテムでっ……ゆ、百合霞さん?』


――カチ


 私の脳内モードが切り替わる音がした。


「はわわわ〜〜っ♡


 それ、それにします! 絶対にそれにします!!」


『!? わ、わかりました、分かりましたから!! 落ち着いて下さいぃいっ……!』


 とても顔が熱い……興奮しすぎたでしょうか! いいえ、当然でしょう!? だってだってだって!

 首なし騎士デュラハン・ナイトなんて


 私がいっっっっちばんッッッ、大好きなモンスターッッッ……!!


「あはぁ……♡」


 私は当然の如くテンション爆上がり。


 傍から見たら当たり前のように引くような下品な顔を晒している私を見て、苦笑気味の女神様の顔。


 しかし、またもや苦虫を噛み潰したような顔へと変わる。


『でも、一つ注意点があります』


「注意点……?」


『百合霞さん。魔帝の魔眼これは、




 過去に実在した邪神が造りたもうた〝本物の神器〟なんです。』


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