第6話 泣きそうです。
やっぱり、心を踊らせながら眠りについても、来る明日に怯えながらねむりについても、朝がくるのは早く感じる。
「…………ふぁあ……、」
目に差す光と、
「ん……有り難うございます………お。
…………師匠〜」
口に何かを加えた
しっかりと。
特定の人物の魔力でしか開かないように封がされていたので師匠宛だと察する。
下に降りて行き、師匠に手紙を渡す。
「……ああ〜〜学園からね♡ …………そう……分かったわ。これは私が預かるわ。早く準備をしなさい、ここから学園は遠いから♡」
「? ……はい、」
中身は気になったけど、それを聞くのは野暮だと思い自分専用の制服を着る。
私の入学する学園の制服というのは、紋章・名前が縫われていて同じ材質であれば自分専用でも構わないらしい。
採寸がちゃんと合ってる……。
……………………まてまて。いつ採寸したのです?
採寸なんてした記憶がない。
しかし、中々に可愛くてセンスの良い服だと思う。
「似合ってるじゃないですかぁ♡ ……さすがは私の弟子ですねぇ♡」
私は最後に、前髪で目を覆い隠している前髪をさらっと整える。
「目元は隠してて良いのね?」
「あ。はい。コレで」
全部隠れてた方が落ち着くんです。私。
「忘れ物は無い?♡」
「……」
師匠のお言葉で、壁にかかっていたバッグを掴む私の手が止まる。
学園は寮生活を強いられている。三年間の寮生活。とどのつまり、もうこの家には、三年間の内に立ち入ることはあれどゆっくりと過ごす時間なんて極僅かだということ。
エルフやドワーフの御長寿モンスターが多く生きるこの世界では、たった三年。
されど三年。
やっぱり人の子である以上、誰かの弟子である以上
「ユリィ
初めてなのは同級生皆そうよ。第一印象はだいじ。通うなら通うなりに、全力でバッチリ決めて来なさい♡」
「わっ!?」
ドンッ、と背中を押され躓きそうになった。
「っとっと………」
私のマイナスな思考が止んだ。元気が湧いてきた気がする。
「行ってきます!」
「ええ♡」
バックを肩に下げ右の腰に当てる。
師匠の作った宝石の御守りを付け、輝く黒い指輪も忘れずに付けて。
ドアを開けて、王都の中央へ下り道を進んでいく。
「あらユリィちゃんおはよう!」
「ぁ、……おはよう、御座います」
「そうか……ユリィちゃんも学園生か……早いなぁ!」
「そ、うですかね……はは」
師匠は師匠だからですが幾ら仲のいい八百屋のおばちゃん達でも、少ししか話せない。
葉が光を通し、柔らかに輝く街路樹に挟まれた道を歩きながら考えた。
……こんなんじゃ学園生活も無理かもです……
自身のなさと焦りに呑み込まれている中で、唐突に蘇ってきた事があった。
「いいえ……そう。……全てを乗り越え」
私はそれを、ガッツポーズを決めながら本能のままに叫んだ。
「人外さんと、キャッキャウフフするんだもん!!!」
頑張れ私!!!!
「ユリィ?」
「ふぁ!? ………ぁあっ! ……騎士団長様!」
声を掛けられたと思えば、後ろに兵を連れ、馬に乗った騎士がいた。鎧の装飾はこの国を代表する騎士団長様。
「今日から学園に入学だそうだな、おめでとう」
馬から降りると私に、近付き頭を撫でる騎士団長様。
「あ、ぅ……あ!! ありがとうございます! ……騎士団長様も頑張ってくださいね、」
「勿論だ! ありがとう。……では私はこれで」
「はい、」
馬に戻ると手本のように華麗に跨がる。そのまま私の横を通り城への行進を続けていった。
…………画になるなぁ……。
そして私は坂を下っている途中に景色を見渡してみた。
「……………………アレか……」
私の通う学園が小さく目に入る。
特に近未来的な学園ではなく高校のようなものでもないけど、制服だって自分の決めた物だし……でも、ここから沢山の凄腕冒険者達が卒業して行ったのに変わりはない。
でも……王都に在るということはそれだけ沢山の人が居るわけで……
「はぁぁ……想像するだけで、泣きそう………でも、騎士団長様に応援をいただいたのなら」
__うん、あの一撫でだけでご飯食べなくても一ヶ月は死ぬほど頑張れる。
そうして私の脚は震えながら坂を降りて行く。
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