35話 鉱山の麓の町

 鉱山のふもとの町に着く、そこの住宅街は緩やかな坂の上に建てられていて、どの家も平屋で黄土色の木製の壁と瓦屋根と統一感が見られる。


 馬車から降りた僕らは御者に一言礼を言い、本日泊まる宿に向けて歩きだした。


 街道を歩いて幾らかの店を冷やかしているうちに、観光客向けに榮花晶えいかしょうを使った装飾品を扱う店と出会った。


 榮花晶とは、ここの鉱山(名前は忘れた)でのみ取れる鉱石で、発光作用があり、しばしば光源として重宝される。また、微弱ながらも"魔力"が含まれていることもわかっているが、こちらは活用するほどには含まれていない……と店の内部の立て看板に書かれていた。


「……」


 勘定場の後ろにいる、店主と思われる人は榮花晶をためつすがめつしていて僕らが入ってきたことには気づいていない。


 他に客もおらず、二人も乗り気だったので、少しだけ店内を回ることにした。


  榮花晶の輝く指輪、鎖の細部まで榮花晶をあしらった頸飾ネックレスなど、榮花晶を使った装飾品がこれでもかというほど多種多様に陳列している。


「ねぇ、トミイク……」


 不意に、リンネが僕の袖を2回引っ張る。


「その、……あれが欲しいんだけド……」


 後半に成るにつれて小さくなる声からは、リンネの願いが聞こえた。


 リンネの指の先には、小さな榮花晶を二本の金の針金で挟んだようなデザインのc型カフがあった。


 特に値段が高いわけでもないし、折角初めての土地に来たのだから、土産を買うことに抵抗はない。


「ん?全然いいよ」


 というか、僕はテイマーなのだからむしろ(従魔達によって稼げる状況だし)、僕があれこれ買いたいとお願いする立場なのでは?と思う。


「リンネさん選びますねー」


 リンネに対してラミィが反応する。ちょっと含みのある言い方だった気がするが気のせいだろう。


 カフを買ったあと、僕らは特に他の店に立ち寄ることも無く宿に着いた。


 荷物を置き、二人は宿に残して今回の依頼主であるこの町の町長のもとへ向かう。予定通り到着したことの報告と、明日の予定の打ち合わせだ。


 町長はこの町の最も高いところ……つまり坑口の近くに家がある。特に豪華というわけでも広大というわけでもない。しかしながら、この町のどこからでもその家は見える。


 僕の推測でしかないが、おそらく坑内に異常があったときに真っ先に知らせられるようにしているのだろう。


 家に着くと、軒下に何人かの大柄な男たちが立っていた。


「こんにちは、町長さんの家はここですか?」


 多分あっているだろうけど、念には念を入れて訪ねる。町長の家というよりは町長になった人が住む家と言ったほうが正しいだろうか、歴代の町長はみなこの家に引っ越すと小耳に挟んでいた。


「ああ、お前も調査の為に来た冒険者か?」


 軒下の男のうちの一人が答える。


「はい、明日の打ち合わせをするために伺いました」


「そうか……中に入れ。町長が説明してくださる」


 おそらく鉱山で働いていた者達なのだろう、空気が重苦しい。まぁそれもそうか、仕事場に化物が入り込んだのだから。


「わかりました」


 言われるがままに、僕は町長の家に入る。


 ……重苦しい空気の原因がいるとも知らず。




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