36話 打ち合わせ

「全く!なんだこの体たらくは!」


 家に入るや否や、奥の部屋から怒号が聞こえてきた。外にいたときに聞こえなかったことを鑑みると、この家は防音性に優れているようだ。


 玄関に入ってすぐのところにいた同業者に、怒声の正体が村長と知らされたので、奥の部屋へと歩みを進める。会わないことには何も始まらないし。


 扉を叩き合図をすると中から返事が聞こえる。


「失礼します。冒険者ギルドから派遣されました、飼原富育トミイクです」


「ああ、君が……まあいい、そこに腰かけてくれ」


 町長に促されるままに、僕は席に着く。町長に罵声を浴びせられていた人はここぞとばかりに部屋から退出していた。


「見苦しいところを見せてしまってすまない、榮花晶えいかしょうが取れなければこの町は終わりだからな……気が立ってしまったんだ」


 今回の依頼に関係しているが、鉱山内部の魔物を倒すまでは採掘は再開出来ないそうだ。それで『榮花晶えいかしょうが取れない』と表現したのだろう。これはいわゆる僕らに対する町長なりの激励なのだろう。


「いえいえ、村長さんがそれだけこの町をっているということでしょう?」


「そう言ってくれるとありがたい……さて、明日のことについてだが、大まかな内容は冒険者ギルドに送った要項の通りだ」 


「はい、たしか、鉱山内部に現れた単独の魔物の討伐ですよね?」


「ああ、こちらでもすでに町の力自慢たちに討伐に向かわせたのだが……いかんせん歯が立たなくてな。そいつらから得た情報には、その魔物は人型で自在に榮花晶をあやつって戦うらしい」


「榮花晶をですか?」


 どういうことだ?それじゃ、ぽっと出というより、まるでみたいじゃないか。ここの鉱山では昔からこの町の住民が掘削し続けてきたのだから、これまで奇跡的にその魔物と出会わなかったということはないだろうから、恐らく違う場所から迷い込んだという予想は合っているのだろうけど……


 考えても答えに行きつかないと察した僕は、目の前の会話に意識を戻す。


「ああ、粉状にして飛ばしてきたり、地面から瞬時に鋭い榮花晶を生やしたりするらしい」


 なるほど、搦手からめてを多用してくるのか。どおりで入り口の屈強そうな男たちの表情が曇るわけだ。


「わかりました。他に何か情報はありますか?」


「そうだな……正確性はないが坑内の地図をやろう」


 地図か、しらみつぶしに探すときや帰還時に使えそうだな。


「ありがとうございます」


 それ以外にも、明日ともに討伐に向かう人の確認や、具体的な魔物の動きなど、細やかなやり取りをして明日に備えた。


──────────────────────────────────────


「明日は……頼んだぞ」


「はい!」


 そうして、僕は部屋から出て、宿屋に向かった。背筋は自然とこわばっていた。

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