28話 置き手紙
まだかな…そんな不安が募る。
今日は冒険者として活動をしていない日のため心身共に回復するはずの日だが、いざ宿に戻って見れば、こんな置き手紙がテーブルの上においてあった。
『少し、外に出ています。直ぐに戻ります』
あの二人には読み書きなんて教えてない…つまり、誘拐されたのか?
『心配だから探しに行っています。もし、戻ってきたなら心配しないで』
書けるなら読めるでしょ。これですれ違いは無いはず、と思い、置き手紙の上に同じく置き手紙を置いて部屋を出る。
この宿の個室は(部屋側から見て)引戸になっていて、扉はウォード錠で施錠されている。
…そういえば鍵をもっているのは僕なんだが。
ガチャ
廊下側から鍵を開ける音がする。反射的に扉から飛び退く。
扉は恐らくだが至って普通の速度で開いているだろう。しかし、今の僕からはとてもゆっくり開いているように見える。
得体の知れないという恐怖に支配された世界で、僕の思考は劇的に加速していた。
ノックをしなかったから管理人さんや客ではない、しかし、この部屋の鍵は管理人さんか、僕しか持っていない。鍵を使うには、管理人さんから盗むかあるいは…
そもそも赤の他人が入ってきたとして、目的はなんだろう。今朝、ラミィの話してくれた推理が本当だったとしたら、ギルドの関係者だろうか。そうだとしたら…
「(トミイクさん!戻ってきていたのですか)」
肩の力が抜けるのが嫌というほどわかる。
「あら、あまり切り詰めないほうが良いわよ?」
扉が開き、見慣れた顔ぶれに安堵する自分がいる。
「鍵もないのにどうやって開けたんだ?」
「(鍵穴に体を流し込んだあとに
この宿の安全性が心配になってきた。いやむしろ…この宿に限らずスライムが仲間にいるテイマーならほとんどの宿の鍵を開けられるだろう。
「それで、何をしてきたんだ?」
外に出る目的があるはずだ、わざわざ置き手紙をするくらいなのだから。
「復讐してきたのよ!」
リンネが答える。その顔はとても晴れ晴れしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます