27話 塩を送る
宿に戻る途中、そこそこ大きな通りの真ん中で野次馬が
「誰か、解毒剤を持ってこい!」
「呼吸が弱ってるぞ!早くしろ!」
「新しい回復薬はどこだ!」
群衆の中心には冒険者と思われる人が一人倒れていて、右脚には大きな切り傷がある(人々の隙間から見える)。その傷口は
現場は騒然としていた。
ただ、僕は解毒する呪文も道具もないので、少しでも救援に来る人が通りやすくするために帰ろう。
そう思い歩き出した瞬間、後方からこんな声が聞こえた。
「この町にはもう解毒薬がないんだよ!」
解毒薬の主な材料として、解毒球根が挙げられる。しかし、それが取れない今は解毒薬は作れない。そんな状況で、他人に解毒薬を渡しに行く人がどれだけいるだろうか?
そして先程の発言は恐らく商店や冒険者ギルドに解毒薬が無いということ。
助からないと思ったのか、群衆は次第に散っていった。
しかし僕は動かなかった…いや、動けなかった。
倒れていたのはゴブリンの集落を消滅させたあの冒険者たちのリーダーであった。
僕には少し前に購入した解毒薬がある、それを使えば救える。しかし相手はどちらかと言うと敵だ。いや、仇だからこそリンネ自身の手で討つために生かさないといけないのだろうか………
「解毒薬です、良ければ使って下さい。」
解毒薬を渡す。
「いいのか!」
同じパーティーのメンバーと思われる人物が驚きと少しの疑念の混ざったような表情で確認してきた。時間がないのに確認なんてするなよ。
「同業者が困っているなら助けるのが普通ですよね?」
とは言ったが、理由はもちろん他にもある。例の件のとき、メンバーの一人が『上からの命令』と言っていた。つまり黒幕と繋がっていると考えていいだろう。ならばここで恩を売っておいて損はないと思う。それに、(こちらが勝手に敵対視しているだけで)向こうはこちらのことを知らないのだから勝手に敵視して見殺しにするのも気が引けたのだ。
「恩に着るよ。」
そう言って薬を受け取った冒険者は薬を開け、倒れている仲間の傷口にふりかける。
すると、紫色になって爛れていた傷口が、みるみる普通の傷口へと変わっていく。
顔色も良くなっていた。
別のメンバーが頭を下げる。
「ありがとう、良ければ名前を教えてくれないか?」
その表情は安堵に溢れ、晴れやかであった。
「いえいえ、名乗るほどの者ではありません。」
そう言って、僕は少しの群衆を掻き分けて立ち去った。
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