26話 氷山の一角は霞んで見えない?

 昼を過ぎたころ…一人でギルドに立ち寄ると、フエムと【大賢者】様が帰還していた。洞窟のあった方からは、煙が立ち上っていた。


 丸1日洞窟に潜っていたのが原因か、フエムがやつれていたのを見て、少し笑ってしまったのは誰にも内緒だ。


「よ、よう坊主…【大賢者】を呼んでくれてありがとうな。」


 声には覇気がなく、目は虚ろだ。その様子は、


「あの後洞窟で何があったのですか?」


 純粋に気になったから訊いてみる。


「いや~、あの幻像狐、『我々』って言ってただろ?んで、戦い始めたら奥から仲間がうじゃうじゃ出てきやがって、正直負けそうだったな…」


 フエムが負けそうだったというくらいなのだから、幻像狐たちはよほど強かったのだろう。


「【大賢者】さんが来てからは随分倒すのが楽になったけどよ、ずっと沸いて出てくるもんだから。最後は土砂の下敷きにならんように山の一部のごと洞窟を吹き飛ばしてきて、今に至るぜ。」


「だから煙が上がってるんですね。」


「ああ…疲れたからおれは今日はもう帰るぞ…」


 猫背になりながら、フエムはギルドを後にした。


「お疲れ様です。」


 僕がギルドに来た理由は、フエムの生存確認が大きかったので、今日はもう帰ろうかと悩んでいると、ふと一枚の依頼用紙が目に留まった。



Eランク『畑荒らしを見つけて』



 そして、依頼用紙を


 ギルドを出て、町を一周回って、もう一度ギルドに入ると、異変があった。



Cランク『畑荒らしを見つけて』



…もしかして、ラミィの言っていたことは本当なのだろうか。


「すみません、あの『畑荒らしを見つけて』という依頼なんですけど、さっきはEランクだったのですけど、なぜランクが上がっているんですか?」


 受付嬢に訊ねる。今朝のラミィの話が正しければ、僕のいるときだけ、高ランクの依頼が僕のランクに合わせられていることになる。しかし実際は僕以外にもEランクの冒険者はいるから、僕以外がその依頼を受ける可能性だってある。


「実は先ほどその依頼主の方から訂正があったので。その影響を我がギルドが鑑みてランクの変更を致しました。」


「依頼主から訂正があることってよくあるんですか?」


「そんなことはないですよ。」


 つまり、今回は偶然意図的でないということなのだろう…


「そうですか、ありがとうございます。」


 …いや、偶然たまたまであって欲しいと願う。

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