19話 絶望は一瞬で

「何を言ってるんだ?」


「依頼があってな…町に入り込んだ危険因子を駆除してくれって依頼がな」


 危険因子はおそらくラミィのことを指している…がテイムモンスターの討伐依頼などそもそもギルドが出させるわけがない。(魔法使いの杖を折ってくれと依頼しているようなもの)


「なあフエムさん。危険因子ってのは何なんだ?」


 だからこそ、ラミィに殺気を向けていると言う風に見えただけ…と思いたかった。


「その得体の知れないスライムだよ」


 やっとというべきか、今さらというべきか、フエムさんが狙っているのはラミィだという事実が確定した。しかし、彼に勝てるとは微塵も思わない、だからこそ、話し合いで上手くまとめなければラミィは…


(トミイクさん、リンネさん、巻き込まれないために逃げてください。)


「何を言って…」


(詳しい話は後でリンネさんに聞いてください。早く。)


 リンネの方を見ると、悔しがっているような、悲しんでいるような、そんな顔色だった。


 フエムさんが狙っているのはラミィだけだ、逃げれば助かる…けれどそんなこ…


「遅い」


 瞬きする間も無く、ラミィの体の4分の1ほどが消し飛ぶ。


 遅れて、熱風が迫ってくる、がそれさえもが冷 たく感じた…正確には温度は感じなかった。


 そこで起こっていることが、僕の目に写った、けれど、頭では理解できない…いや理解したくてもしてはいけないと無意識に感じているのかもしれない。


 冒険者になったあの日、『この世界は弱肉強食』と考えたことを思い出す。僕らは、今正しく"肉"に過ぎない存在だと、この空間が証明している。




…無意味だ、無駄に心の中で嘆いていても


 今はどうやってラミィを助けてフエムさんから逃げ切るかを考える事が最優先だ。


「リンネ」


「しょうがないわね!」


 フエムさんは油断しているのか、僕らには意識が殆ど向いていない。


 あらかじめ携帯していた爆弾をフエムさんとラミィの間の天井にぶつけ、洞窟を崩したと同時にリンネがラミィを抱えて直ぐに後退する。


 瓦礫を一刀両断して、フエムさんが現れる、が想定内だな。


 もう一つの爆弾をフエムさんに投げる。さすがはベテランと言うべきか、難なく躱してくる。それでいい。


 フエムさんの避けるであろう位置に、経皮毒の入ったビンを既に投げている。致死性は無いが、相手を麻痺させる毒だ。


 何故こんなに投擲武器があるのかと言うと、オーシャンウィーゼルとの戦いを経て、僕は攻撃というより妨害をしたほうがいい(テイマーはステータス的には弱いから)と思ったから、色々買っていたという経緯がある。(持って来るのは最小限だが)


 さて、投げたビンがフエムにそろそろ当たって割れる。その後すかさず投網を投げて後は全力で走って逃げるしかない。


…因みに持っているのはもうその投網と煙幕が一つだけだ。


 投げるために投網を掴みかけたとき、悲劇は起こった。


「ふん」


 フエムさんは、投げたビンを打ち返してきた。


 慌てて投網を投げて相殺するが、ビンの勢いを殺しただけでフエムさんは難なくかわしてくる。


 ここは洞窟の、中の一本道であるから、煙幕はそのまま使っても意味がない。


 使うなら、直接煙を眼球に…


「坊主、終わりだ。」


 既に背後から刃が近づいてきている。


 止める手段は無い

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