第34話 我が儘は貴女の特権です!

「うぅ...真っ暗で不気味。リリュスさん...本当にこの先にペペがいるの?」


「クスクスッ。雫様?あの時、私達に示した豪胆っぷりは何処に行かれたのですか?どのような貴女でも魅力的なのですが...。」


「ふふんっ!案ずるでないお前様!妾が居るのでな。宝船に乗ったつもりでおれ!」


「何で余まで...。」


生い茂る木々のせいで昼夜の区別が付かなくて自分の位置を見失いがちな事からと呼ばれる場所を私達一行は歩いていた。


まぁ...理由を遡ると私が致命傷を負って目覚めてからの続きになるのだけど。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「私にはペペとルルが本当に殺す気があったのかな?って思えてしまって。」


「お前様...寸分の狂いもなく心の臓を貫いた相手に対して気持ちの有無とは矛盾ではないか?」


「いや...それは当然なんだけど、私が言いたいのは...」


「本当に殺す意志があったならば暗殺など...あのようにあからさまな方法を取る必要は無かったのでは?と言いたいわけか...。」


その通り!見事に私の言葉を汲み取ってくれたカミラさんに心の中でグッと親指を立てる。


「ふむ...確かにわからない理屈では無いが訳として弱すぎる気もせぬか?確信が持てれば別じゃがのぅ...。」


「それはごもっともです...。」


「シャーロット、少し落ち着きなさいな。捲し立てられては雫様も発言をしづらいでしょう。それに明確な意思無く先程の強気は出せませんよ。」


リリュスさんがそう宥めるとシャーロットは口を噤み、次の私の言葉を待ってくれた。


「これだと言える根拠があるわけじゃないの。私は単純にペペとルルを信じたいだけ...人間の我が儘だよ。...ごめんなさい...。」


私のその発言に皆が沈黙する。その静寂を破り第一声を放ったのはカミラさんだった。


「時に直感は緻密に練られた考えをも凌駕する。よって間違った選択じゃない。魔王様の勘は少なからず的中してるんだ。」


「え?カミラさん...それは一体どういう意味ですか?」


「あくまでも半分だがな...確かに双子は殺す意思を持っていた。だが同様に半分...魔王様に何かを期待していたのも事実だよ。今回は悪い方に傾いてしまっただけ。」


まるで全てを見ていたかの様なカミラさんの言葉に私は思わずたじろいでしまう。


パンッ!!


「兎にも角にも雫様が絞り出した我が儘を叶えなくてはなりません。指針が見えたのならば迅速に...でございます。」


「へっ!?どうゆうことですか?リリュスさん!?理解が追いつきませんが~?」


手を引かれるままに私とリリュスさんは部屋を出ようとしたが...スッと出口の前を塞いだ人影に止められる。


「待ちなよ...夢魔ナイトメア。君が付いていながら魔王君は重傷を負ったわけだ。その失態をうやむやにする訳じゃないよね?」


その声の主を認識した瞬間、室内の空気が変わった気がした。完全に打ち解けたとは言えないけど分かる。彼女がそんな呼称よびかたをしたことない。


わたくし...夢魔ソレは嫌いだと言ったのを忘れましたか?ノワール...。」


「その程度で怒らないでよ。僕と君の仲だろう?大好きな魔王くんに嫌われるぜ?...寧ろ側に居る資格すらも危ういけど。」


書庫の主である、ノワールさんの言葉を聞いて。リリュスさんの視線が一層鋭くなる。もう止めて!魔王わたしの耐久はゼロだから!


って言うか何で皆さんは止めないの?私が知らないだけで結構な頻度で起きてることなのかな?


「...別に怒ってはいません。何時だってわたくしは冷静です。それに今回も雫様の我が儘の為に...」


嘘が下手すぎじゃない?何か私のせいみたいになってるし。


「....プッ!!あははっ!!まぁ今回はそうゆうことにしとこうか。失態の尻拭いじゃなく我が儘の為ね...うんうん。」


...此方ノワールさんも収まってるし、種族の違いと言う壁は大きいな。しばらく理解は出来ない気がする。


「とりあえず魔力を追跡したけど、ペペちゃんは迷いの森方面で反応が途切れている。彼女だけでは無いだろうし罠の可能性も...。」


「それも承知の上です。存外近くに居たことが救いですね。...さて、雫様の意見は如何でしょうか?」


「ふぇっ!?」


突然、話の矛先を振られ間抜けな返事をしてしまう。...意見と言われても私の答えは一つだ。


「私は...もう一度だけペペと話したい。今度は失敗じゃなく成功の半分を掴むために。」


「それでこその雫様です!迷い無き様で安心致しました。」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「そもそもリリュスが同行するのであれば他は必要ないだろう。よって余は城への帰還を所望する。」


「確かにわたくしだけで事足りるのは事実です。しかし雫様の側に仕える為に同じ失態は許されないと言う訳で万全を期しての編成なのです。」


「だから、それは余に関係ないだろう。あくまでもお前の責任だ。故にー。」


「そもそも貴様、主の窮地に眠りこけていたであろう。それだけで万死に値するぞ?他に理由が必要か?」


「ッ...。」


完璧な論破。リビィはぐうの音も出せずに黙ってしまう。あの場に居ないと思ったら、ずっと眠ってた訳か...うん。彼女らしい。


「お喋りは程程にしてくださいね?ペペがどんな思惑で導いたのかは不明ですが、既に敵の手中であることには違いないのですから。」


リリュスさんの言葉に身が引き締まる。あの行動がペペの本心か、それとも糸を引く第3者が居るのか...確かめる為に来たんだから。


「手中...か。リリュス、そんな発言をしたからには気付いて居るんだろうな?」


リビィの放った言葉に場の空気が変わる。もちろん私には理解できないんですが...。


「えぇ...えぇ。分かっておりますとも。随分と下品なヒトの香りが漂っています。」


周囲の木々が蠢き、複数の影が飛び出してくる。...分かっていたよ。決して楽な道じゃないってね。


「突っ切ります。離れないでくださいね。雫様!」


「はい!分かりました!」


私達は森の奥に向けて走り出すのだった。

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