第32話 貴女なんて大嫌い!!
「ゲホッ!ゲホッ!リリュスさん...私...ゲホッ!」
「無理に喋らないでください!雫様。何処を損傷しているか分かりませんので、どうか安静に...。」
リリュスさんはそう言って自身が持ってきた上着を私に羽織らせて、近くの椅子に座らせると直ぐにペペの方に向き直った。
「さてと...理由を聞く気はありません。主人を襲った。お前の罪...その死を持って償いなさい!」
「あらあら...クソ女。何故、お怒りなのかしら?城に蔓延る人間と言う害虫を始末しようとした、ペペは寧ろー」
「黙りなさい!!」
ドシュ...!!
「...ッ!!」
ペペの言葉を待つことなく、リリュスさんの手刀がペペの胸元を貫き、脱力した彼女が床に落ちる音がした。...生々しい光景を恐れた私は堪らずに視線を反らす。
「あぁ...その有無を言わせぬ容赦の無さ。流石は筆頭を務める実力なのは認めざるを得ないかしら。でもぉ...未知の相手には警戒をしなくては駄目だと思うかしら?」
「貴女...一体、何者ですか?」
驚いた様子の声を聞いた私は再び2人の方に視線を戻す。すると...何が起きたのだろう?確かに数秒前、ペペの胸元を貫いた筈のリリュスさんの腕は何故か空を切っていた。...と言うよりは。
初めからペペの身体は存在していなかったかのように彼女の首から下が無くなっていた。
「何者か...と聞かれれば解答に困ってしまうかしら?私が有利な状況なのに...わざわざ不利を生む真似はしないでしょう?」
「確かに...一理ありますね。これは困りました。」
「本当に腹立たしいかしら。クソ女...。まぁ、だけど...お前を引き離したなら、ペペの目的は完遂かしら。忘れては駄目よ?私達は2つで1つ...。」
「何を...ッ!?」
勝ち誇った様な笑みを浮かべた
ズズズッ...。ヒュン!!
「...雫様ッ!!」
「さようなら。偽善たっぷりのご主人様...。」
「ルル...?」
ドシュ!!
鈍い音がして目の前に赤い液体が飛び散る。...これは血液?...誰の?リリュスさん...じゃない。彼女は目を見開いて此方を見ている。信じられないと言った表情だ。
あぁ...そうか。ペペには妹が居て...彼女は様子を伺っていた。私の影に潜んで...つまり、これは私の血で...私は...刺されたんだ。
薄れゆく意識の中、微かに捉えた彼女の顔はとても悲しそうだった。
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「...ちゃん!..ずくちゃん!」
何...?すごい耳元で叫ばれてる気がする。...私、眠いんだから。もう少し寝かせてよ。
「雫ちゃん!!早く起きなさい!!」
「...は、はい!起きてます!リリュスさん!」
ようやく自分が呼ばれてると気づき慌てて飛び起きる。目の前に居たのは私の大事な友達...よっちゃんこと紬愛香だった。
「も~雫ちゃん。まだ寝惚けてるの?私はリリュスさんって名前じゃないよ?」
「え?あれ?よっちゃん...?何で私...あれ?」
「本当に大丈夫?具合悪いなら保健室に連れてってあげようか?」
心配した表情で私のおでこに手を当てる
「よっちゃん...駄目だよ?私を口実にサボるのは...。」
「ふぇ!?ち、違うよ雫ちゃん!私は単純に心配を...はい。少しはサボろうと思ってました。」
言い訳しようとしたが、私の視線に耐えきれずに白状する。うん...素直で宜しい。
「ところで雫ちゃん...何か魘されてたみたいだけど。怖い夢でも見たの?」
「また話を反らして...。私が見てたのは...あれ?夢なのかな?妙にリアルで...それに」
「...??」
よっちゃんを見てると、何か忘れてる気がするのは何故だろう。大事なことだった気が...。
『ご主人様...。』
ふと、脳裏に浮かんだのは寂しげな瞳をする、メイド服の少女...そうだ。忘れちゃいけない。私はまだ休めない!
「思い出せないの...?だとしたら重要なことじゃないんだよ。無理にー」
ガタンッ!!
「ごめん!よっちゃん。私、行かなくちゃ!」
「へっ?行くって何処に?もうすぐ授業だよ?」
「えっと...詳しくは分かってない。でも行かなきゃ駄目な気がするの!伝えなきゃ。」
「言ってること無茶苦茶だね。...でも、きっと雫ちゃんにしか出来ないことなんだね。だから...行ってらっしゃい!」
トンッ!
親友に背中を押され、私の意識は再び落ちていく。
「ありがとう!よっちゃん...貴女も必ず助けるから。」
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「んぅ...ここは...?」
目を開けると...そこは知らない天井だった。...何てのは冗談...でもないか見慣れたのは最近だし。...どうやら私は死なずに済んだらしい。根拠は無いけど。
「ここは私の部屋だよね。...夢オチって訳でも無いだろうし...いや、実はあり得たりする?あ...。」
念のため、傷口の確認を...と思ったが。右手に違和感を感じ視線を送ると、そこには私の手を握りながら寝息をたてる、リリュスさんの姿があった。
(もしかして...ずっと側に居てくれたのかな?)
何とか左手を動かして、彼女の頭に乗せる。すると
「あ~。魔王様?取り込み中の所...申し訳ないのだが、そろそろ此方に気づいてくれないか?」
「全くじゃ!!治療したのは妾だと言うのに...2人の世界に入るでないわ!!」
ビクッ!!
驚きながら、リリュスさんの居る窓際から反対の入口方面に視線を向けると気まずそうに頬を搔くカミラさんと頬を膨らませたシャーロットが居た。
「...えっと、何時から居ましたか?」
「...最初から?」
あぁ...別の意味で死にたい。
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