第28話 絶対に切れない糸ですか?
魔王城 カミラの研究室
「そうか...それで3人の訓練を見学してたのか。合点がいったよ。にしてもアイツの発言も可笑しいものだな。」
「魔法の才能を持ってるカミラさんからしたら可能だと思いますか?私が魔力の流れを変えること。」
「ふむ...そうだな。魔法と言っても1つの分類に括れない物、身近な便利さから、奇跡のような可能性すらも出来るかもしれない。私はそう思うかな。」
「奇跡...だとすれば途方も無さそうですね。」
シャーロット達と別れた私は用事があったのも兼ねてカミラさんの研究室を訪れていた。まぁ用事と言うのは建前で色々な意見を聞きたかったのだ。
「そんなに落胆する必要は無いさ。魔力の高さは私も理解しているし。誰かの為に成ろうとする努力は決して君を裏切らないよ。はっきり言える。」
「カミラさん...。」
窓越しに外を見つめる彼女。それは経験からなのか深く追求してはいけない気がした。
ザパァッッ!
「クーキがオモイでやがるぞ。ミリーはシンミリがキレーです!タノシーのがイイです!」
「あっ!ミリーちゃん起こしちゃった?...ってか外に出るときは何か羽織るとかしようね?色々気まずいから...。」
「キマジー...ですか?シズクがいうのなら。ソーします!」
「はい!偉いです!」
ニヘッと微笑みながらぎこちなく敬礼っぽいポーズをビシッと取るミリー。最初に比べると大分マシになったものだ。少し誇らしい。
「魔王様に預けて正解だな。完璧とは言い難いが言葉遣いや礼儀など形になってきたな。」
「私は対して教えてませんよ?見よう見まねで覚えたミリーちゃんが優秀なんだと思います。まぁ手伝いとかは苦手みたいですけど。」
「作られたばかりのミリーは言ってしまえば、未熟な子供で知能や運動能力は徐々に育っていく筈だ。大変かもしれないが宜しく頼むよ?」
「タノム~!」
あはは...軽はずみで引き受ける仕事じゃなかったかな?でも、今は皆との好感度をあげなきゃだし。悪いことでは無いよね?
コンコンッ!!ガチャ!
「カミラ入るぞ?すまない!我の武器の調子が悪くてな。再びの調整を頼みたいのだが...これは魔王殿も居たのか...邪魔をしたか?」
「大丈夫だよ!ベルカさん。私の用事はあらかた終わったところだから。どうぞ~。」
「調子が悪いとは...数日前に直したばかりだろ?お前は訓練のし過ぎだ!この脳筋女が!」
「主人の為に強くならねば!これは騎士としての運命なのだ!」
本当にベルカさんとカミラさんは付き合いが長いんだろうな。余計な言葉を交わさないし。文句を言いながらも直してあげてる。信頼なんだろうなぁ。
「時に魔王殿!風の噂で聞いたのだが...我等の為に修行をしているようだな?我にも声掛けすれば良いのに水くさいことを。」
「ごめんなさい。今日から始めたばかりの事なので色々と試行錯誤の状態なので...いずれはベルカさんともお話はするつもりだったんですけどね。」
「魔王様、無理に合わせなくていいぞ。どうせ脳筋のことだ。1に鍛練!2に鍛練!3と4も鍛練だ!...等と言うだけだ。」
「そんなことは...無いと思うぞ?魔王に相応しい方法を...考えてみせるさ。」
「あはは。本当にお二人は互いを理解してますね。もう知り合って結構長いんでしょうか?嫌じゃなければ聞きたいな~。とか思ったり?なのですが。」
私の言葉に顔を見合わせた2人、そしてカミラさんが少し悩んだ表情をした後、何かを決めたように頷いて喋り出す。
「そうだな。私とベルカの付き合いは長い...大体100年ぐらいかな?数えるのが面倒になってからは覚えてないな。」
「100年ですか...。それじゃカミラさん達も結構、長寿?な種族の魔物なんですか?」
「いや、それは違うぞ魔王殿。我とカミラ...種族で言えば
「え...。」
ベルカさんの発言を聞いて言葉が詰まる私。それを見たカミラさんは呆れたようにため息を吐いた。
「ベルカ!率直過ぎるだろ?魔王様も人間であると言うことを考えて発言したのか?」
「...はっ!」
「全く...後は私が説明をするから黙っていろ。」
カミラさんが言うと、ベルカさんは頷いて一歩後ろに身を引いた。そしてカミラさんは私に向き直る。
「すまないな魔王様。貴女にとっては受け入れがたい衝撃だったかもしれない。もう少し考えるべきだった。」
「いえ!気にしないでください!ちょっと驚きはしましたけど...大丈夫です!えっと...元人間と言うのを詳しく聞いてもいいですか?」
「あぁ、私とベルカは元々は帝国の騎士と魔法使いだった。100年以上前だが人間と魔物の大きな戦争があってね。その時に私達は先代...つまりは貴女の前の魔王と戦って殺されたのさ。」
カミラさんは昔話を語るようにゆっくりと話してくれる。それをベルカさんは目を瞑って静かに聞いている。私も黙って
「しかし...死んだ筈の私達を待っていたのは魔物として生まれ変わった自身の姿。先代の魔王は欲したんだ。人に止めるには惜しい能力を...悔しさ、怒り、悲しみはあったけど直ぐに考えるのを止めたんだ。それは人の感情だからね。」
「それじゃ!カミラさん達は...ッ!!」
「ありがとう...魔王殿。貴女は本当に優しいんだな。...それだけで十分だ。」
言葉が出なくなり震える私の肩をベルカさんはそっと擦ってくれた。
「未練が無いと言えば嘘になるんだろうね。だけど恨む相手であろう先代の魔王はもう居ないんだ。なので魔王...いや、雨宮雫。貴女が見出だしてくれ。」
「私が...?」
「どんな魔王になり、どんな未来を作るかは...貴女の意志だ。優しい魔王殿が決めたなら我とカミラは満足である。」
2人の真っ直ぐな信頼は強い糸。どんなに細くても頑丈な糸は絶対に切れないと言う意志を持ってる。
「む~?ムツカシイけど。ミリーもマンゾクゥ!」
ピョンピョンと跳ねるミリーちゃんを見て私達は笑うのだった。
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