第25話 そろそろ...強くなるフラグありますか?

魔王城 書庫


時の流れは早いもので私がエルメキアに召喚されてから1ヶ月が過ぎようとしていた。あっという間に感じるけど、内容は濃いものだな。と実感をする。


正直、魔王と言う立場に相応しいのかは分からないけど暮らし自体は悪くない。それに幹部の皆は優しいし、城の魔物は慕ってくれてる。...でも私の気分は何故か晴れない。


「まぁ...理由は知ってるんだけどねぇ。」


そう呟き、手元の歴史書に視線を戻す。適当に何冊か持ってきては読んでを繰り返して何順しただろう。今日だけで数十冊は読んでる気がする。でも、これが解決にはならないと理解している。


「はぁ~...。」


何回目のため息だろうか、読み終える度に吐いてる気がする。何かしないと気が済まない。だけども何かする度に気が落ちてしまう。何たる負のループだろうか...。


「はぁ...本当に駄目だなぁ。私...」


「何かお困りなのかな?魔王様?」


「うぇ!?ノワールさん!何時からそこに居たんですか?」


「君が書庫に来てから居たよ?まぁ、君自身は何か考えて気付かなかったみたいだけど...。」


突然の声掛けに驚いたけど確かに書庫ここ彼女ノワールさんの管轄だから不思議じゃない。私はそんなに悩んでた訳か...となれば独り言も聞かれてた?それは普通に恥ずかしい。


「それで?何時間も本を読んでは唸ってた魔王様は何を悩んでるのかな?」


「別に悩みとかでは無いと思うんです。ただ...」


「ただ?」


「普通の人間である私が魔王になること。それが皆さんの期待に応えられるのかな?とか考えちゃいまして。本当に下らない事なんですけどね。」


喋り終わった後に気付く、認められてるかは別として彼女ノワールさんも私の配下であり、その人に弱音を吐くなんて凄く格好悪いんじゃないか?下手したら説教される?


ポンッ!ナデナデ...


「えっ?」


しかし、私の予想とは裏腹に返ってきたのは頭を撫でられる肉癢ゆい感触。そして優しい笑顔でノワールさんは言葉を続ける。


「あまり気負い過ぎないことだよ。魔王様...何も出来てないは間違いだ。君は十分に期待に応えてる。現に幹部の3人娘を筆頭に信頼を得ているじゃないか。」


勿論、私もね。とパチッとウィンクをする。ノワールさん。なんだろう望んでた物では無いけど、心が満たされる気がする。私はこう言う言葉が欲しかったのかな?


「あらあら~?ノワールさぁん?雫様を泣かせるとはいただけませんねぇ?」


撫でられる余韻に浸る私の耳にそんな声が聞こえてきた。声の方向は真上?慌てて視線を向ける。どんな仕掛けだろうか。天井から蝙蝠の様にぶら下がる側近様リリュスさんが居た。


「覗き見とは褒められた趣味じゃないよ?リリュス。それとも変質者の自覚でも芽生えたのかな?」


「クスクス...別に覗き見をしたい訳では無いんですよ?


ニィィッと上がる口角、うん。これは確信犯だな。やっぱり魔王城内では内緒の隠し事とかは出来ないんだろう。


「まぁ、冗談はさておき雫様?」


「は、はい!」


「少しお話がありますので宜しいでしょうか?」


「うん。分かったよ...?」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ガチャ。


「どうぞ雫様。適当な場所に座ってください。今、飲み物と茶菓子を用意しますから。」


「うん。ありがとう!」


身近な椅子に腰掛けて、部屋の中を見渡す。洋風な感じ?で統一された部屋は中々にお洒落って感じがする。


「ここがリリュスさんの部屋なの?」


「そうですけど...何か変でしたか?」


「いや、何かイメージと違うなって思って。大人っぽいね。」


「クスッ。どんな想像をしてらしたんですか?雫様を招いた時に恥をかくのは嫌ですから。...どうぞ。」


コトッ!


リリュスさんが紅茶とケーキをテーブルに置いた。紅茶はアールグレイ、ケーキはフルーツがたくさん乗ったタルト風の少し豪華な感じ。凄く美味しそうだ。


「これ...タルトですか?もしかしてリリュスさんの手作りだったりしますか?」


「趣味程度のレベルですので味は保証出来ませんよ?雫様の好物だと聞きましたので...。」


「そうなんです!私はタルトがすっごく大好きで...」


途中まで言って口を噤む。あれ?私って何が好きとか言ったっけ?確か言ってないよね...深く考えるのは止めとこう。うん、美味しい。


「それで話なのですが、雫様がどうしたいのかと言う本心をお聞きしたくて...。」


「えっ?」


「他の配下の手前だと話しづらいこともあるでしょう?だから私の部屋に招いたわけです。」


彼女なりの気遣いだろうか。私の本心を...と言われても直ぐには思い浮かばない。でも戦ってくれる皆を見て感じたことはある。


「私は...皆の力になりたい!...只の人間である私はそんな役に立たないと思うよ?だけどー」


スッと口に指を当てられて、言葉を止められる。リリュスさんは理解している。と言うように頷いた。


「雫様を守れるのが喜びであり仕事なのですが本心を尊重しましょう。危険の無い安全な方法を...。」


リリュスさんはそう言って語り出す。私に出来るやり方で役に立てる方法を...。それは実に衝撃的だった。

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