第21話 輪廻転火!蘇る不死鳥

ズプッ...シュルルル!...ドサッ!


「こちらアレイン...魔物の討伐は完了した。作戦の状況はどうだ?...全く。通信には直ぐに応じろと告げたんだがな。」


返答の来ない通信機に若干の苛立ちを見せた紅の女騎士アレインは傍らに倒れた少女の遺体に視線を向けた。


「魔物とは言え人の形をしていると後味が悪い...これは慣れないものだな。」


戦闘をした相手にも目を閉じて両手を合わせるアレイン。魔物相手でも礼儀を忘れないのが彼女の優しさなのだろう。


しかし、そんな彼女アレインを嘲笑うかのように微かに動いた少女の遺体。胸の傷から小さな炎がゆっくりと広がる。


ボォォォ...シュウゥゥ!!


「発火した?いや、この炎はまさか...。」


何かに気づいた様子のアレインは慌てて剣を鞘から抜き、炎に包まれようとしている少女の遺体に斬りかかった。


しかし...剣が触れようとした瞬間、炎は全てを拒絶するかのように強烈な熱風を放ちアレイン諸共に周囲の物を吹き飛ばした。


「ぐぅッ...!!」


数メートル程飛ばされ建物に衝突したアレインは痛みで苦悶の声を漏らす。しかしバッと顔を上げて炎の方に視線を向ける。


「いやはや...油断したのぅ。身体を貫かれたのは久しぶりじゃ。褒めてやるぞ...三流種族。」


パチパチ...と火花を散らす炎の中から死んだ筈の少女の声が聞こえてユラリ...と起き上がるシルエットが浮かび上がる。


「そうか、魔王軍に属した魔物。普通では無いと思ってはいたが、不死鳥フェニックスとはな。」


剣を支えにして静かに立ち上がったアレインが呟く。内心は厄介な相手に出くわしたと思っている。


「ほぅ?流石に気付きはしたか。じゃが...ヒントは与えたのだから当然じゃな。」


パチンッ!


炎の中の少女もといシャーロットが鉄扇を鳴らすと勢いよく燃え盛った炎が一瞬にして鎮火した。その風貌は戦闘が始まる前と変わらず、大きな傷口も汚れた衣服も元通りだ。


「...排除が目的ではあったが切り替えよう。作戦遂行まで足止めをするのが妥当か。来い!不死鳥よ!」


少しは驚いた表情をしたものの、アレインは剣を右手に構え目の前の相手に向き直る。その様子を見たシャーロットは満足そうに頷く。


「微かに感じた気配...やはり主様にも虫ケラを飛ばしたか。じゃが、リビィが付いておるなら問題なかろう。妾は遊ばせて貰おうか。炎魂カルマ!」


パサッ!バッ!


シャーロットが鉄扇を開くと周囲に小さな火の玉が浮かぶ。それは上下左右にユラユラと動き一つ一つに命が籠っているようにも見える。


「何百年振りに傷を付けた貴様には褒美として妾の力...その片鱗を見せてやろう。光栄に思うのじゃぞ?」


不適に微笑む少女シャーロットは周囲の火の玉を一つ指に乗せると、ソレをアレインに向けて放った。


(見た目は初級魔法の火球ファイアボールと変わらないが、警戒に越したことはないな。防壁プロテクション!)


自らに防御魔法を掛けた彼女アレインはゆっくり近づく火の玉に落ち着いて構えを取る。


三流種族ニンゲンの魔法と似ている...その油断は命取りになるぞ?爆炎球ヘル・ブレイズ...」


パチンッ!


「ッ~!!!」


シャーロットが指を鳴らした瞬間、火の玉を起点にして一帯が軽い真空状態になり、そして巨大な爆発へと変わった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

数分後


ヒュウゥゥ...!


瓦礫の山と化した繁華街の通り。静寂に包まれる中、シャーロットは眉を動かすことなく、その風景を見つめている。


ガラガラッ...!


「生きておるようじゃのう。まぁ加減したゆえ当然か。」


瓦礫の中、傷だらけになりながら辛うじて立ち上がったアレインをカラカラと笑いながら見下ろす少女シャーロット。その様子は新しいオモチャを貰った子供のようだ。


(アレが加減だと?防御魔法を掛けていて、このダメージ...下手すれば即死だぞ。)


自らの背筋に冷たい汗が伝うのを感じる。今の彼女アレインは立っているのも奇跡と言わんばかりの重傷なのだ。


これが魔王軍に属する魔物の力なのか。アレインは今までに戦ってきた存在がどれほど弱かったのかと実感させられる。


「さてと妾も退屈は好かぬ。貴様も本気で掛かってくるがよい。」


「はぁ...はぁ...。万事休すか...。」


シャーロットの嬉しそうな発言とは対照に満身創痍でろくな発言も出来ないアレイン。だが、これでいい。勇者が魔王を倒してくれるだろう。


「...イン..聞こえ...!アレイン!応答しろ!」


「...ッ。レミアスか...?どうした?」

 

こちらの状況等はお構い無しか...と思いつつも、アレインはレミアスが繋いでくるなど珍しいと感じ返答をした。


しかし...その珍しい事態が最悪を告げるのだ。


「作戦は失敗だ!魔王の討伐に向かった勇者が殺された!詳しい詳細はあとで話すが...無事であるなら離脱してくれ!」


「何だと...?」


脳内が一瞬で真っ白になる。あり得ない...異世界の強者だろう?と思ったが目の前に立つ少女フェニックスがこの力なのだから現実的なのだろうと納得してしまう自分が居ることに気づいた。


「すまないな不死鳥フェニックスよ。これ以上、私が足止めするのは不可能のようだ。だが決着はいずれつける。」


「むん?せっかく妾の興が乗ったのじゃ。逃がすと思うか?」


「逃げられるさ。転送石!」


パキィィン!


アレインが懐から取り出し地面に投げた石。それが魔方陣のような紋様を写し出すと彼女の姿を一瞬にして消した。


魔法道具マジックアイテムか...小癪な真似を。」


パチンッ!


周りの炎を鎮火し、不完全燃焼の様子であるシャーロットはクルッと踵を返し、その場を後にするのであった。

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