第20話 食べ物の力は最強です?

フェルク 大通り東の市場


ドゴォォン!!バゴォォン!!


轟音が響き、巨大な瓦礫が宙を舞う。恐らく住民が住んでいた家や店だったのであろう。だが今は投げ手達の投擲物に過ぎないのだ。


「中々にやるではないかぁ!そこらの雑魚とは違うわけであるな。実に愉快だぁ!」


「おまえ...うっとうしいの...さっさと...くたばれなの。」


しかし派手な戦闘とは裏腹に相対する者達の温度差は歴然である。片方の帝国中将レミアスは嬉しそうに、対する片方...シュリカは鬱陶しげに吐き捨てた。


「そう言うな。退屈な任務だとは思ったが、お前の様な骨がある魔物がいるなら楽しみたいではないか。お前も考えは同じだろう?」


「おまえ...頭の中まで...筋肉なの?ボクは...はやく...しずく様に...ごうりゅうするの。だからさっさと...。」


「むっ?」


「どけッ...!」


ズドォォォン!!


再び轟音が鳴り響き、両者の拳が激突する。その威力は衝撃で軽い地響きが起きる程の物である。レミアスは満足げに頷く。


「やはり悪くない!だが我輩にも役目はあるのでな。早々に決着をつけさせて貰うぞ!筋肉増強ビルドアップ!!」


ギシギシ...。と金色の鎧が悲鳴をあげていく。恐らくだが、それは肉体強化の技能スキルなのだろうか...2回りほど大きくなったレミアスは自慢気に叫んだ。


「宣言通りだ!楽に殺してやろう!マッスルゥゥ...!!」


振りかぶった拳はシュリカの反撃となる拳に阻まれてる。しかし勢いまでは殺せない。縮んだ筋肉がミシミシと唸りをあげる。


「これって...!」


「バスタァァ~!!」


何かを察したシュリカは回避に移ろうとするが遅かった。レミアスの豪腕が爆発的な威力を放つ。


ヒュン!!ドッゴォッン!...ガラガラガラッ!!


弾き飛ばされたシュリカは数百メートル飛んでいき、3件ほどの民家を貫いた後にようやく止まった。


「ふはははっ!どうだぁ魔物よぉ!これが我輩の実力だぁぁ!!」


吠えたレミアスの声が通りに木霊し、瓦礫に埋もれたシュリカが怠そうに舌を鳴らす。不満の原因は相手にではなく、只の軽い八つ当たりなのだろう。


グウゥゥゥ~。


「はぁ...おなか...すいたなぁ。こうなるなら...たべとけば...よかったよ。」


どんな強者にも弱点はある。それは魔獣ベヒモスと呼ばれる彼女シュリカも同じであり食事を原動力にしてる彼女シュリカにとって空腹は何よりの天敵なのだ。


ガサガサ...コロンッ!


「これは...!」


何気なくポケットをまさぐったシュリカ。見つけたのは雫に貰った一つのお菓子。ポケットに残ってた等の理由ではあるが、シュリカにとっては宝物。


「しずく様...。いただきます...。あむっ...」

 

食べ物の重みは量でも質でも無い。受け取った愛情がいかに大切であるかなのだ。小さなお菓子はシュリカの全身を漲らせた。


「むぅ...?魔物よ。まだ生きておったか?」


ポージングを決めていたレミアスは微かな気配を感じ、シュリカの飛んでいった方向に目を向ける。先程までとは違う気配に口元は微かに微笑んでいた。


「満たされた食欲を転換...破壊の力に至れ!!凶獣化ビースト・モードォ!!」


破壊獣...それは魔獣ベヒモスと呼ばれる種族に与えられた二つ名であり。満腹感を得た時に数分だけ許される覚醒に近いものなのだ。


ビュンッ!!


「潰れろ!巨大アトミック...」


レミアスの頭上に駆けたシュリカ。掲げた片足を2回り、3回り...と部分的に巨大化させる。


「何だとッ!?」


肉球スタァァンプ!!」


ズドォォォン!!


シュリカにとっては只の踏みつけ攻撃だが...受ける側によっては巨大な足が降ってくるのだ。その心情は計り知れない。


「初見では脅威だが、隙が大きくなっただけではないか!恐るるに足らん!デカイ図体は的になるぞぉ~!」


踏みつけを躱したレミアスは飛び上がり無防備である、シュリカの上半身に攻撃を仕掛けようとする。


「そんなことない。満腹のボクは最強なんだ!装硬化メタルスキン。」


ガキィィィン!!


レミアスの繰り出した拳はシュリカの硬く変化した皮膚に阻まれ、ビリビリ...と痺れている。しかし彼はその笑みを変えない。まみえし好敵手に興奮しているのだ。


「遊び疲れた...お前はもう終われ!轟咆哮ハウリングノイズ!」


「ぬぅ!?」


レミアスは身体に違和感を覚える。シュリカの叫びに萎縮した...。のではなく自らに掛けた技能スキルの効果が消えたのだ。と言うのが正しいだろう。


「我輩の技能スキルを解除したか...仕方ないか、一旦退いておくとしよう。」


レミアスが去った後、シュリカは一息ついて未だ戦闘の狼煙が上がる西を見つめるのだった。


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フェルク 大通り西の繁華街


「許せ...お前が魔物で私が人間である以上。これは致し方無いことだ。」


手にした蛇腹状の剣が貫く先、俯いたシャーロットを見据えた帝国の将である女性は静かに呟く。


「.....」


シャーロットは返答をしない。ただ滴り落ちる赤い液体が答えなのだろう。剣の先は真っ直ぐに彼女の胸を貫通している。


トクン...トクン...と微かな鼓動を奏でる心臓。小さく燃える炎は風前の灯か...それとも。

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