第14話 とりあえずは悪役って認識で?

帝国の王城 謁見の間


魔王城の争いから数時間後、帝国のとある1室で無事に帰還した貴族の男が何人かの人物に問い詰められていた。


「勇者の一時離脱に数十名の騎士の損失、この度の損害はとても大きな物だぞ?分かっているのか少将殿...?」


「はっ!宰相殿...それは重々に承知しております。」


少将と呼ばれた貴族のおじさんは目前に座っている立派な白い髭を蓄えた初老の宰相と呼んだ男性にペコペコと頭を下げた。


「少将よ本当に分かっているのか!!この結果ならば我輩が言った方が良かったではないか!」


「不用意な発言は良さぬか中将...空想論では何とでも言えるだろう。」


続けて発言したのは少将の左側に腰を掛けた中将と呼ばれた無精髭を生やした筋肉質の男性、その隣に座る赤いストレートヘアーの目付きが鋭い女性。隣の男性より胸の星が多いことから恐らく大将なのだろう。


「魔王城には悪夢ナイトメアも居りますし、勇者1人ではやはり無謀だったのでしょうな。」


「フフッ...でしたら異界からの英雄召喚を迅速にしましょう。ひとまずは情報を得たのも成果ですわ。」


そう言ったのは中将達の対面に腰かけた人物。1人は聖職者の平服であるキャソックに似た衣装を纏った高齢の男性と漆黒のローブに身を包んだ魔女のような女性だ。素顔は隠れているため表情は見えない。


「あぁ...ゴホンッ!良いか諸君!」


咳払いと共に聞こえた低い声にその場の全員が姿勢を正し部屋の奥に腰掛ける人物に視線を向ける。権力者の象徴であろう王冠と羽織った赤いマントが彼の者の尊厳を現していた。


「それで少将よ。お主にはまだ報告したいことがある。と私には見えるのだが?」


「はっ!国王様。魔物どもの側に一見すると私らと変わらない人間の少女が居りまして、人質や奴隷など考える線はいくらでもあるのですが...」


「申してみよ。」


悪夢ナイトメアが言っていたのです。我らの新たなる魔王...だと。」


少将の言葉に一同がざわざわ...声を上げる。そして再び国王と呼ばれた男性が咳払いをした。


「魔王...か。真偽の程はいかにせよ覚醒の危険を考慮し早急に対処せねばなるまいな。魔道将!」


「はい...国王様。」


「英雄の起動を急げ、加護を付与でき次第、戦場に出して構わん。戦力が足りぬのならば外装を出しても良い。」


「畏まりましたわ。では迅速に...」


ローブの女性は軽く頭を下げると、ゆっくり部屋を退出した。他の者も順に席を立ち退出をするなか最後に中将の男と大将の女性だけが腰を掛けたままだった。


「英雄か...それで戦果を上げたとして本当にそれは我らの功績と言えるのだろうか?中将...。」


「ふんっ!勝利は勝利だろう。だが異界の力だけに頼るのは性分ではない!我輩は独自にやらせてもらうぞ。」


「せめて無茶だけはしてくれるなよ?」


2人は軽く頷き合うと部屋を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

魔王城 カミラの研究室


ピーッ!ピーッ!ピーッ!


波乱の魔王就任から次の日、私はリリュスさんに言われてカミラさんの部屋に出向いていた。今はMRIのような大きな機械での検査を終えたところだ。


「よし検査は以上だ。魔王様...ご苦労だったな。」


「最初は何をされるかと思いましたが健康診断みたいな感じなんですね。」


「診断か...まぁそうだな。魔王様の健康管理も私の重要な仕事なのさ。他の幹部も同じだが...」


シュルル...。ギュ!


検査着を脱いで普段着に着替える。ちょうど見ていたのか研究室の扉がコンコンッ!とノックされ双子のメイドが迎えに来た。


「終わったかしら?ご主人様?お迎えに来たかしら。」


「食事の用意が出来てるようですので食堂の方に向かいましょうか?」


「うん。わかったよ。カミラさんも行きましょう!」


「あぁ...すまない。私は結果を纏めてから向かうから気にせず行ってくれたまえ。」


なるほど。何処でも研究者と言う職種は食事を疎かにしちゃうんだなぁ。カミラさんに別れを告げ、私は研究室を後にした。


ギィッ...!


「ふぅ...リリュス居るんだろ?出てきていいぞ。」


「クヒヒッ!カミラご苦労様です。それで結果はどうでしたか?」


「うぅん...まぁ大方は予想通り、あくまでも魔王様は普通の人間だな。強いて言うなら魔力が高い気もするが...微妙だな。」


「そうですか。」


疑問には思っていたが、やはり...リリュスの召喚は介入を受けたことにより失敗したのではないのだろうか?そんなことを思ったカミラだったがリリュスの次の言葉は驚くものだった。


「さてと私も空腹ですし雫様との食事に向かいましょうか?次の仕事もありますし。」


「は?正気か...?お前はしっかりと理解しているのか?彼女はー」


「大丈夫ですよ。雫様には魔王としての才があります。今は信じておいてください。」


そう言われたら信じざるを得ないと言うものだ。リリュスには雫の隠れた力が見えているのだろう。成るように成ればいいと自らに言い聞かせるカミラだった。

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