第13話 いきなり大ピンチ?ですが覚醒とかはありません!
満月が照らす魔王城の外、2つの影が何度も繰り返し衝突をしていた。響く音からは均衡しているように思えるが優越の差が出始めている。それは当人達が実感をしている。
「リリュスさん、ごめんなさい...私のせいで。」
「あらあら...気にしないでください。別に迷惑だなんて思いません。寧ろ雫様...もっと密着してくださいな。」
「えっと...こ、こうですか?」
私が強めにリリュスさんの腰を掴むと、彼女は恍惚とした表情を浮かべる。だが、軽い冗談とは裏腹に額を伝う汗と苦しそうな息づかいが疲労を語っていた。また、それは少し離れた所で先頭にしているペペとルルも同じである。
バキッ!...ドサッ!
「ふぅ...これで10人目...まったく。人間と言うのはどうして群れたがるのかしら?」
グキリッ!...バタンッ!
「ゔっ!!」
「ふふっ!弱者の人間が強者の魔物に優るため...必死に絞り出した戦法なのでしょう。」
囲んでいた50人の騎士はおよそ30人位まで減った。しかし戦力にはまだ余裕がありそうだ。現に脂ぎった貴族のおじさんは高みの見物で笑っている。
「ぐふふっ!無駄に粘るな。流石はしつこい魔物...虫けらのような生命力だ。しかし限界が近そうだな。ゆっくりと確実になぶってくれる。」
第二陣、第三陣...と近衛騎士が徐々にペペ達を囲むように包囲を狭めていく。先程の道中の疲労も貯まっているだろう。
「リリュスさん!ペペとルルが...限界が近づいているかも。」
「分かっています...が目前の勇者様が中々に隙を与えてくれないものでして...。」
「よっちゃん...」
彼女に少しでも意識があれば、恐らく私の言葉が届いてくれる筈なのにただの人間である私には何も出来やしない。守られてばかりで情けない。
ヒュン...!ドサッ...!!
「あうっ!離しなさいッ!汚らわしいッ!」
「ルル!?クソッ!離れろッ!人ごときが妹に触るなぁ!!」
騎士達の集団からペペとルルの叫び声が聞こえる。消耗しきった2人に限界が訪れてしまったようだ。駄目だよ!誰か...無力な私に代わって2人を助けて。
「その思い...貴殿の騎士が解決して見せるぞ!!でやぁぁぁ~!!」
ズドォォン!!!
「うわぁぁぁ!!」
そんな声が聞こえた思ったら近衛騎士達の中心に大きな砂ぼこりが上がった。衝撃に耐えきれぬ者がが何人か吹き飛ばされている。
「この声って!!ベルカさん?」
「はぁ...ようやく登場ですか。遅い!と言いたいところですが、でも及第点としておきましょう。」
「仕方ないだろう?あいつが騎士として...とかほざくから時間が掛かったんだ。まぁ間に合って何よりだ。」
「カミラさんも...!良かった!無事だったんですね。」
私の言葉にカミラさんはグッ!と親指を立てた。心なしか
「ぬぅ...!?援軍だと?だが、2匹増えたところで覆るものか!現に
「カミラ...すみません。雫様をお願いします。」
「あぁ任せたまえ。やり過ぎるなよ?」
「それは保証しかねますね。」
やれやれ。と言った表情のカミラさん。刹那...背筋が凍るような強い殺気?が私を包む。発生源はどす黒いオーラが見える気がするし、リリュスさんだろう。
「荷物?申し訳ないですが、そこの豚畜生。今、何を荷物と仰いましたか?まさかとは思いますが...雫様のことを言ってませんよね?」
「ぐふふっ!理解できないか?どう考えても荷物と言うのは.....ヒィッ!?」
言い掛ける途中でおじさんは気付いたのだろう。離れても感じる、リリュスさんの強い殺気に...月下に映された表情はそれは見事に青ざめているものだ。
「お、おい!勇者よ。何をしている!さっさと
「了承しました。対象を始末致します。」
標的を私からリリュスさんに変えた
「貴女の相手は今ではありませんので...今宵は帝国に帰ってくださいな?
ブゥゥゥン...!!ガシッ!
「...ッ!?」
巨大な黒い穴が空間を裂いて現れ、そこから伸びた2本の触手が
「な、何だと!?」
ザシュッ!!...ドサッ!
「ふぅ...終わったか。では次は勇者をー」
「ベルカ良いタイミングですね。ちょうどこちらも片付けたところです。勇者とまみえるのは次の機会にしてください。」
「むぅ~そうか。仕方ないな。では残るは...」
「ひぃぃ~!!」
リリュス、ベルカの目が同時に貴族のおじさんを捉える。うん...敵ながら御愁傷様です。もう蛇に睨まれた蛙みたいになってるもん。気の毒だ...。
「さてと本当ならば貴方をここで始末するのがけじめの取り方なのですけど...生憎ながら雫様は魔王となって初日の為、お疲れなのです。なので...」
ゴクリと生唾を飲む音がここまで聞こえてくる気がする。まぁ私と同じ弱い人間だろうし...命を握られるって怖いことだよね。凄く分かる。
「今回だけは殺さずに逃がしてやります。ですが次に雫様を侮辱されるのであれば...楽には死ねないと思ってくださいね?」
「ひぃぃ!!!ク、クソッ!覚えていろ~!!」
典型的な捨て台詞を残して貴族のおじさんは去っていった。こういう時の人って火事場力出てるよね~。本当に。
「さてと雫様。無事に片付きました。お怪我はありませんか?」
「う、うん!私は大丈夫だよ!みんなの方こそ大丈夫なのかな?...後、よっちゃんはどうしちゃったの?」
「
そっか...とりあえずはひと安心かな?なんだか安堵したら眠気が...。改めて私が魔王になっての初日!ようやく長い1日が終わりを告げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます