第12話 幼なじみは勇者でした!?
魔王の城 東の塔入り口付近
ドサッ!バタンッ!
「クソッ!何て強さだ!数では
額から血を流し、肩で息をする。恐らくは帝国の近衛騎士に当たる人物だろう。数は10人くらい居り傷の大小あれど全員が負傷している。
相対するのは銀色の鎧に身を包んだ、魔王軍の将である
「失望した...。多少は腕の立つ騎士が居ると思っていたが、所詮は脆弱な木偶の坊に過ぎぬと言う訳か!貴殿らはそれでも武人か!」
しかし見た目は良くても中身が残念。女性でありながら脳まで戦闘に染まりきった彼女は1度、自分の世界に入ると妄想が止まらなくなる。
「せめてもの情けだ!我が剣の錆びになることを光栄に思え!」
東の塔には狂人に斬られた近衛騎士の悲鳴だけが空しく木霊していた。
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魔王の城 西の塔入り口付近
「覚悟ぉぉ!!」
「ぎゃあああ...!!」
「おい!味方同士で争うな!あの女の仕業か?一体、何をしたんだ?」
同胞同士で剣を交える帝国の騎士達を魔王軍の参謀カミラは愉快そうに見物していた。無論ながら混乱の原因は彼女の魔法によるものである。
「ふふふ...生憎と私は争いが苦手でね。だが魔法も戦術のうち、卑怯だとかは言ってくれるなよ?」
「やはり人間と言う生物は良い。魔法に無抵抗でリリュスには判断の処置は命じられてないので、
舌舐りしながら此方を見てくる存在に騎士達は言い知れぬ恐怖を感じ身を震わせた。後に彼等がどうなったかは知るよしもない。
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魔王の城 正面玄関に続く階段
『以上が東西の塔の現状かな?』
「苦戦していると言う報告があがるよりは幾分、安心でしょう。ご苦労様です。ノワール」
『御安いご用だよ。にしても連中は随分と正面に戦力を割いたね。階段まで侵入されるとは...』
ドシュ...!
不愉快ですね。と言いながらも死角から現れた騎士の胸を的確に貫くリリュスさん。最初の方こそ驚いていたけど人の慣れとは恐ろしく。5人目を過ぎた辺りから当たり前に変わってしまった。
ヒュッ...ドガッ!
「もう!鬱陶しい。団体のお相手は流石の私でも疲れるかしら!」
ガシッ!...ゴキンッ!
「まったくです!でも行儀の悪いお客様は躾がいがございますわね。」
驚いたのはもう1つ、双子のメイドが普通に強かった。ペペは蹴り技、ルルは関節技...誰かに教わったのか我流なのか、聞いたら「メイドの嗜みです!」とだけ言われた。まぁ...腐っても魔物の端くれと言うわけですね。
『リリュス聞こえるかい?反応の正体はやはり勇者みたいだね。予想通りかな?』
「それは確定していた事項です。明らかにすべきは誰であるかと言うだけでしょう。」
長かった階段を抜け、ようやく正面玄関が見えてきた。ペペとルルが先頭に出て、入り口の扉に手を掛ける。
ガチャッ!
外に出た私達を待っていたのは帝国の騎士50人程と歴史の教科書とかでヨーロッパの貴族がしているような髪型のおじさん、それと...私が今会いたかった人。
「よっちゃん...!」
私の横でリリュスさんが微かに苦虫を潰したような顔をしている。どうやら思い描く最悪のシナリオが完成したのかもしれない。
「久しぶりだな。愚かなる魔王の代弁者よ!今日こそは残党どもに引導を渡す時だ。何故ならー」
「喧しいですよ。人の皮を被った豚畜生がブヒブヒ鳴いても理解できませんよ。それが私の召喚に介入して呼んだ新しい勇者様ですか?」
貴族っぽいおじさんの言葉を遮ってリリュスさんが言った。おじさんは少しムッとした表情を浮かべたが、咳払いをして満足そうな表情に戻った。
「勇者...?よっちゃんが?...よっちゃん!!私だよ雫..雨宮雫!覚えてる?」
「......」
私の問い掛けによっちゃんはチラッとこちらを見る。その目は虚ろで..いや、生気が無いと言うのか。心ここに有らずと言った感じだった。
「ん~?何だその小娘は?この女を知っているのか?無駄だぞ...こいつには隷属の命を掛けている!言葉なぞ届くものか。」
「相も変わらず人間は下衆ですね。反吐が出てしまいそうです。それと口を慎みなさい雫様こそ新たなる魔王です!」
「魔王だと?フンッ!冗談ならもう少し上手く言ってみろ...だが」
おじさんがスッと手を上げる。よっちゃんがそれを合図に剣を構えた。
「雫様?私の後ろから離れないでくださいね。」
リリュスさんもそう言って戦闘態勢に入った。
どうやら夜はまだ終わらないようだ。
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