第11話 闘志を研ぎ澄ます

 「あれ、何者?」

 ハーフタイムの休憩中。

 杏南あんなの高校のチアリーディングチームの演技を横目で見ながら、杏南は同じ歳のチームメイトにきいてみた。

 「あれ」ってどれ、という反応が返ってくるかどうかも知りたかった。

 でも、

「あれは、反野そりの由江ゆえっていうやつ」

と、チームメイトは何の迷いもなく答えた。

 情報収集にあまり熱意を持っていない杏南と違って、そのチームメイトは情報通だ。今回も、相手の蒲沢かんざわプラチナレディーズの選手については、よく調べて、しかも頭に情報を要領よくインプットしている。

 杏南が気にするならこの子、と、即時に判断したのだろう。

 チームメイトは続ける。

 「まだ中学生だよ。さっき、杏南があいさつしてた子がいる瑞城ずいじょう女子ってところの中学校三年生だったはず」

 「はあ」

 瑞城という学校は中高一貫だったのか、というのもさることながら。

 あの「球体」。

 中学生なのに、高校生年齢のチームに入って活動しているのか。

 道理で、顔立ちがあどけない、と思うのと。

 その顔立ちの幼さまで武器にしてしまうほどの得体の知れなさに戦慄する、というのと。

 どちらだろう?

 自分でもよくわからない。

 中学生なら、杏南より三歳下だ。その中学生にこの世界の厳しさを教えてやろう、というのと。

 怪物だとしたら、その怪物ぶりにこちらがどこまで食らいついていけるか試してやろう、というのと。

 杏南はさっき湧いてきた闘志を研ぎ澄ます。

 それと同時に、杏南は思った。

 瑞城女子中学校がこういう子を育成できたのなら、すすきがその高校でトップクラスのスキー選手に成長したのも偶然ではないだろう。

 瑞城女子高校には、そういう選手を育成する仕組みがあるのか、そういう選手の才能を伸ばす雰囲気があるのか。

 だとしたら、薄にだって、再起のチャンスは十分にある。

 杏南は確信した。

 だが、薄に会う前に、杏南は後半の試合を乗り切らなければならない。

 薄について考えるモードから、その反野由江と対決するモードへ。

 杏南は、頭と体と心のすべてをすっぱりと切り換えた。

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