第9話 再会

 杏南あんながサンドパイパースジュニアのチームメイトといっしょにバスに乗ると、杏南の学校のチアリーディング部の子たちもいっしょに乗ってきた。

 何しに行くの、ときくと、今度の親善試合のハーフタイムショーでチアリーディングを披露するのだという。なんでうちの学校の部が、ときくと、同じクラスの子が「あんたがいるからに決まってるじゃん!」と言って、笑った。

 なんか、プレッシャーだ。

 ずっと山のなかの高速道路を通って、下のほうに海が見えてきてきれいだな、と思ったら、バスは高速道路を下りてその海岸のほうに向かった。

 「蒲沢かんざわ市街」と書いた標識のとおりに進まず、途中で曲がって目的地に着いた。つまり、「市街」からは少しはずれたところにある体育館が会場らしい。

 体育館の前でバスから降りる。

 バスの外には出迎えの人たちがいた。コーチや運営の人たちを出迎えている歳上の人たちは、やっぱり相手チームの関係者なのだろう。メンバーのなかにも、ここのチームのメンバーと関係のある人たちや子たちがいるらしい。だれを、というわけではなく、遠征してきたチーム全体を歓迎するために来ている人たちもいた。そのなかに、中学生らしい、紺色の吊りスカートの制服の子が何人もいたけれど。

 「杏南あんな

と声をかけられたので足を止める。

 地味な制服の子と、黄色い開襟シャツに濃いベージュのキュロットスカートの子が並んでいる。

 白の半袖シャツに紺色の地味な制服を着た、背が低い、いや、背の高さが杏南と同じくらいの子が、電話をかけてきた喜多きた日和ひなだろう。

 「ああ、日和、初めまして」

と、大ざっぱに頭を下げる。

 そして。

 「杏南」

 弱々しい声をかけた、日和よりも体が大きい子。

 黄色のシャツの子。

 「すすき?」

 「うん」

 その弱々しい返事に、痛い、苦い感覚が、杏南の胸のところから杏南の全身に走った。

 たしかに、あの日の薄が大きくなれば、こんな感じになるだろう。

 しかし、あのスキー部の子に教えてもらって動画で見た、前のシーズンの競技のときの薄とはかけ離れていた。

 いや。

 「あの日の薄」からもかけ離れていた。

 目を逸らせてこっちを斜め見しているところはたしかに薄なのだが。

 そのとき浮かべていた気弱なスマイルはない。

 愛想笑いもしていない。

 こんなところに連れ出された、という苦痛感だけがにじみ出ている顔の表情。

 苦痛感というより、あえて言えば「敗北感」。

 それに、この体。

 たしかに、体積はこんなものだろう。世間的に言えば痩せているほうになると思う。

 しかし、競技を撮った動画で見た薄の身体は、筋肉が機敏に動くのが見て取れるような、筋肉質の身体だった。

 それが、いまは、その筋肉の部分が脂肪で置き換わっている。

 次のシーズンに競技に出場するどころではない。ふだんの体育の授業ですら、すぐに息が上がってしまうのではないだろうか。

 杏南は団体行動しなければならない。だからずっと日和と薄の相手をしているわけにもいかない。

 「あとでね」

と声をかけるのがせいいっぱいだった。

 その声に、日和は、機敏な機械のような体の動きで手を振ってこたえてくれた。

 でも、黄色い開襟シャツの薄は、杏南を見てもいなかった。

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