第8話 約束

 「瑞城ずいじょう女子高校はひどい学校だ、すすきの才能をスポイルした、って言われても、しかたないと思う」

と、喜多きた日和ひなは言った。

 卑屈でも、痛々しい表情でもなかった。顔を上げて、たんたんと事実を説明している。そんな感じだった。

 「いや、そんなことを言うつもりはないけど」

 だから、杏南あんなも、やはり事実を説明するように答えた。

 「けど」に続けて、言う。

 「でも、どうして、手紙を送っただけのわたしに、わざわざ連絡してきてくれたの?」

 「わが生徒会では、生徒宛に来た手紙はまず生徒会で開封して内容を確かめています」……というような答えが返ってくるのかと思った。

 まして、薄は有名人だ。

 誹謗中傷、いたずらやいやがらせの手紙も多いだろう。

 でも、喜多日和は答えた。

 「言ったでしょ? わたし、週に二回か三回は薄の様子を見に行ってる、って」

 「うん」

 杏南は答える。

 さっき、この日和が「週に一回ぐらい」と言っていたのも思い出す。

 どちらでもいい。でも、「二回か三回」がほんとうだと、杏南は思った。

 日和が続ける。

 「そのとき、赤羽杏南さんから手紙来てるよ、って言ったら、薄、ぼろっ、と涙をこぼして、いまじゃ杏南がたった一人の友だち、って言ったんだ」

 そして、少しだけ笑う。

 「そう言ってから、慌てて、「あ、杏南と日和がたった二人」とつけ足して訂正した、っていうのが、薄らしいところだけど」

 「いや」

 杏南はとまどう。

 たしかに、薄ならそう言うだろう。

 でも。

 たった一人か、この喜多日和という子とたった二人か。

 「だって、わたし、小学校のときに会ったきり、ぜんぜん薄とは連絡とってないのに、それでも、そんな特別な友だちだなんて」

 「だから、会ってあげてほしい。お願い」

 画面の向こうから、喜多日和は杏南の顔をじっと見据えて、言った。

 「たぶん、いまの薄は、会ってもすごくそっけない反応しかしないと思う。でも」

と喜多日和がまじめな顔で言うので、杏南は

「いやいや。あの子、いつもそうだから。慣れてるから気にしない」

と言って遮る。

 「小学校のときに会ったきり」の子がなんでそんなことを言えるんだ、と、自分で思うけど。

 喜多日和もたぶんそう思っただろうけど、そこを衝いては来なかった。

 「じゃあ、プラチナレディースジュニアとの試合の前、いちど、薄連れてあいさつ行くね」

 喜多日和は、そこでふふっと笑った。

 「サンドパイパーズジュニアで、ほかの体の大きい選手はいいからこいつだけは必死でマークしろ、と言われてる杏南さんが声かければ、薄にだってインパクトあると思うから」

 「あ」

 その反応のままかたまっている杏南に「じゃあね」と声をかけて、喜多日和は通話を終了した。

 なんで知ってる、喜多日和……?

 ……というと、調べたからだろう。

 瑞城女子高校生徒会というのは、そこまで用意周到に調べて対応する集団なのだ。

 少なくとも、そこでスポーツ担当の役職についている喜多日和という子は、そうだ。

 怖がる必要はないけど、そのことは覚えておこう、と杏南は思った。

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