第6話 喜多日和の話

 「まずですね」

と、その喜多きた日和ひなが言う。

 喜多日和がしゃべりやすいように映像つき通話に切り替えたのに、喜多日和はあらたまった口調のままだ。

 「杉原すぎはらすすきなんですけど、あ、わたしにとっては友だちなので呼び捨てしますけど」

 「あ、わたしも同じ」

杏南あんながすばやく反応すると、喜多日和はすばやく口もとをゆるめて笑った。

 こうやって表情がわかるところは映像つきでしゃべっていてよかったと思う。

 日和が続ける。

 「今年の春先に、うちの学校のスキー部でちょっとした、いや、ちょっとはしないかな」

 日和は眉をひそめて見せた。

 そのまま続ける。

 「まあ、事件があって、それがきっかけで、薄は引きこもりになっちゃって」

 「あ」

と短く声が出た。

 「はい」

と喜多日和はその杏南の反応にも律儀にこたえて、うなずく。

 話を続ける。

 「それで、学校にも出て来なくなってしまって、もちろんスキー部も、事実上、休部状態で。ま、つまり、休部届も出さずに休んでる、ってことです。わたし、一週間に一回ぐらい、様子を見に行ってるんですけど、トレーニングもやってなくて、その」

 相手の喜多日和が言いよどむので、

「次のシーズンの出場は絶望的?」

と杏南が言ってやる。

 「そうです」

 喜多日和は表情をくもらせる。

 あの杉原薄が。

 信じられない……。

 ……かというと、その逆だ。

 あのサマーキャンプのときも、薄は、自分からはだれにも声をかけられなくて、孤立していた。

 媚びるような愛想笑い、相手の目をまっすぐに見ずに斜めに見てしまう癖、ささやくような聴き取りにくい声、早口……。

 それに、インタビュアーが何を求めているかを考えずに、自分が思いついたことを次から次へとしゃべってしまう「空気の読めなさ」。

 そんないろんな癖が、薄をみんなから遠ざけてしまう。

 薄のほうも、相手に自分から近づいて行くようなタイプではない。

 「引きこもり」なのかどうかはわからないけど、だれとも交わらずに孤立してしまいがち、というのはわかる。

 ちょっとした、か、ちょっとはしない、かはわからないけど、何か事件に関係してしまったら、それを処理できなくて引きこもってしまうことだってあるだろう。

 喜多日和は薄がそうなった事情も話してくれた。

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