見放さないで
岩田へいきち
見放さないで
寛(ヒロシ)、見はなさないで」
バドミントンの強豪校へ進学して、2年生になっている樹菜(ジュナ)がぼくの腰に後ろから抱きついた。
樹菜が1年生の夏休み前から樹菜を一流選手にするために家政夫として自分が世話したアパートに入り込んでいたぼくだったが、妹の梨美菜(リミナ)もこの強豪校への進学が決まり、ママも併せて樹菜と一緒に住むということで、ぼくは、要なしになった。
もう直ぐ妹とママが現れるという3月末日ぼくは、昨日からまとめておいた自分の荷物を大きめのキャリーバッグに詰めてママたちが到着するのを待っていた。
「いや、それは無理だろう。ママも梨美菜も一緒でもう1人増えるとしたらぼくじゃなくてパパだろう?」
「パパ? パパは、ママより料理下手だし、無理」
なんだ、料理か。ロマンチックなことを一瞬でも考えたぼくがちょっと恥ずかしい。
「ママは、料理上手だろ? また以前みたいに4人で食べればいいじゃないか」
「う〜ん、ママも微妙。寛の料理が食べたい。だから樹菜を見放さないで」
そうなのか。そう言えば、中学生の頃、ハンバーガーショップやクルクル寿司とかしょっちゅう外食行ってたな。実は、ママは料理苦手?
ピンポーン
「あっ、ママたちだ」
「樹菜久しぶり。お世話になります」
「梨美菜久しぶり。ママは?」
「荷物取りに行った」
「あっ、寛さん、お世話になります。梨美菜です。へえ、意外と広いじゃん。3人暮らせそうだね」
可愛い。なんだ、この可愛いさは? 樹菜も充分可愛いが、また違うタイプの可愛いさだ。
ママは、小さい頃から見ていて、可愛いかったのは知っているが、妹は、SNSで加工された映像を チラチラと見るだけで、直接会ったのは初めてだ。
「こんにちは、可愛いね」
あっ、素直に言ってしまった。言った後に、樹菜の方を見たが樹菜は微笑んでいた。
ドアが再びあいて
「寛さん、いつもお世話になってます。すみません、遅くなって。来る途中ベッドを買ってきたので遅くなってしまいました。来週届くそうです。スペース有りますよね? あれ、寛さんどっか出かけるんですか? 海外旅行? 寛さん、休み無かったからゆっくりして来てください。その間、私が2人を見ておきますから。いつまでですか?」
「その間って? 」
「いやだ、私も仕事があるから1カ月も2カ月もってのはダメですよ。主人と交代で見ても最大限2週間。もっと長いの?」
「えっ、いや、ぼくは追い出されるのかと思ってました。だから荷物を昨日からまとめてて、樹菜にも別れを告げて」
「樹菜、別れてないもん」
樹菜が天使のように見えた。
「寛さん、梨美菜が卒業するまでお願いします。この子らも懐いてるし」
「懐いてるって、梨美菜は、今日初めて会ったばかりですし、お母さんは、一緒に住まないんですか?」
「ほら、私も主人も仕事あるから。寛さんはもう退職してるんでしょ? ぴったしじゃないですか」
ぴったし?
「でも、家族だし」
「そんな堅いこと言わない。ヒロシよろしくね」
梨美菜、可愛いけどいきなりタメ口で呼び捨てかい? また樹菜を見たが微笑んでるだけだった。まあ、可愛いから良いか。
この子とも一緒に住むことになるのか。大丈夫か? 仕事は、2倍になるな。
「分かりました。一度、家に帰ってから話しあってきます」
「はい、必ず帰って来て下さいね。樹菜も梨美菜も待ってるし。樹菜のこと好きなんでしょ?」
お見通しかい?
「寛、樹菜を見放さないで」
「寛、梨美菜もね〜」
「寛、私たちを見放さないで〜」
「ママ〜」
終わり
見放さないで 岩田へいきち @iwatahei
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます