第3話 ルルとMr.ブラックさん 3
私の名前はルル、ブラックさんと謎の高額討伐依頼にやってきた普通の新人ギルド職員だ。
「いま私は、お化けが出ると噂の古い古城に来ています。 あっ、古いお城だから古城でしたね、ゴメンゴ! 頭痛が痛いみたいになってましたぁ……」
私は恐怖を紛らわせるため1人で実況しながらすすんでいると……
城内には幽霊どころか魔物も動く気配も何もない。 少し肩透かしを食らった気分で奥の部屋へ……
「わぁ、なんか王様の座る様な大きな椅子がありますねぇ! おや? なんだか玉座の後ろの壁だけ色が違うような…… こんな所に隠し部屋とかあったらベタ過ぎますよねぇ!」
実況者気分で色の違い壁を押して寄りかかってみると。
ガシャガシャガシャーンッ!!
崩れた!? 崩れた先になんか隠し部屋の様な空間が!?
薄暗い室内だけれど魔力灯なのかうっすらと壁側から明るい光が漏れローブを着た人物が見える。
「あっ!! いや違いますよ! 私が壊したんじゃないですよ!! 寄りかかったら崩れたんです! 私も被害者なんです! 帰りたい!」
私が両手と首をブンブン振りながら必死に弁解しているとローブを着た人物がこちらを振り返る──
痩せ細った…… いや骨だ…… 骸骨! スケルトン? いや…… なんか違う…… ぽっかり空いた眼球の無い眼窩から赤い光点が見える。
冒険者でも無いたかだか一ギルド職員だけれど子供の頃から聞かされた英雄譚に登場していた……
スケルトンとの違いは眼窩の光……
死霊の王……リッチ……
確か私の知っている限り討伐されたのは遥か昔に一度だけ…… その時代の英雄が集まってようやく倒したって記録があった。
現代に現れたら確実に討伐難度SS……いや、SSSクラス…… 災厄の魔物だ……
終わった…… 終わったわ…… 短い人生だったわ…… ほら、今にも私を殺すための魔法を使おうとしてる…… 骨の指先に炎が揺らめいて……
「いーーーやあああああぁぁ!!!!」
まだ死ねない! まだ死ねない! 幼い弟達を残していけない! まだ目の覚める様な恋だってしてない! こんな所で死んでたまるかっ!
私の魂の咆哮でちょっとビクッとなったリッチは急に駆け出した私に狙いを定められず部屋の壁に魔法が直撃した──
「ぎぃやあああぁ! 何あれ? 何あれ?」
炎の魔法が当たった箇所は石造りの壁が吹き飛び燃えない筈の石が燃えて溶けている……
魔法ってあんな威力なの!? こわっ!
「クックックッ、我の完璧な隠蔽魔法を看破し、この隠し部屋を見つけただけでなく、まさか獣の如き雄叫びで不意を突き、我が魔法を逸らすとは…… なかなかやるな」
イヤイヤ知りません!? 何もやってません!! だからそんな眼で見な…………
「ひっ……」
あの眼窩に灯る赤い光を見たら急に身体に力が入らなくなってきた……
力が抜けその場にへたり込む。 心臓の鼓動が早くすぐ耳元で鳴っているかのようにうるさく感じる…… そして手足の感覚がだんだんとなくなっていくのが分かる……
「クックックッ、久しぶりの来客だ、本当はもう少し遊びたかったんだがな。 逃げられると面倒だから『死霊のオーラ』を使わせて貰ったよ。 お前がいま感じているのは途轍もない恐怖だ。 そして我が身体から放たれる冷気により四肢が麻痺していっているはすだ」
駄目だ…… やっぱりここで死ぬんだ…… お姉ちゃんがんばれなかったよ……
「だが安心するといい。 お前の先輩を紹介してやろう──『クリエイトアンデット』」
リッチが左手に持つオーブを掲げると地面からうぞうぞと4体ものスケルトンが這い出てくる……
「クックックッ、お前の死体は我が下僕として永劫に仕えさせてやろう。 行け、その女を殺すのぶぁふぁっつぁー!」
リッチが私にスケルトンをけしかけようとした所で勢いよく天井が崩れてきた。
「おっと、遅くなって悪いな」
「ブラックさん……」
天井が落ちてきたせいか辺りは砂埃が舞い視界が塞がれる。
リッチが見えなくなったせいか、今まで恐怖により鈍化していた思考がハッキリとしていく。
手足はまだ麻痺していて動かない──
「き、貴様アァ!! 口に砂埃が入ったじゃないかー! 『死霊のオーラ』で動かなくなってしまえ!!」
「いけない! ブラックさん!! 目を開けちゃ駄目!!」
あぁ!! 砂埃が晴れ、私の視界に飛び込んできたのはリッチと向かい合うブラックさん……
いけない! 目を見ちゃって……る? ……いや、見てない! あれは瞼に描いてある目だぁぁあ!?
「何ィィィ!? 馬鹿な…… 『死霊のオーラ』のトリガーである我が瞳を見てもなんとも無いだと!?」
いや、見てないですよ!? あれ目じゃないですよ!? あれ落書きですよ!?
「コッチが親玉かぁー、先に2階から探してたらルルルーに先越されたな」
「何? 2階には
「ちっ! ならば、これでもくらえ! マジックアロー!!」
リッチの傍に光の矢が形成されブラックさんへと放たれる!
ヤバい! 目を閉じてたら避けられない!!
ヒョイッ
っと思ったけど簡単に避けた!?
あっ!? めっっっちゃ薄目開けてる!?
「なんだ、ただのリッチか。 目を開けちゃダメなんて言うからどんな名状し難いものが居るかと思ったら……」
「ククククッ、今のは小手調べだ! マジックアロー! 簡易詠唱、発動遅延! 5重詠唱! 質量3倍化! 威力最大化! 魔術強度上昇! ククククッ! 吹き飛べっ!!」
ひぃっ!? さっきの光の矢が極太になって5本!!
「黒刀
ブラックさんが腰の剣を抜いた? 何あれ!? 真っ黒い…… 剣?
ブラックさんに押し寄せる5本の大きな光の矢は、黒い剣のたった一薙ぎでなんの衝突音も残さず霧散した……
「ば、馬鹿なッ!? ひっ!? 魔法障壁多重展開!! そん……なっ……」
ブラックさんが黒い剣を片手にリッチへと駆けていく。 リッチが焦って光の壁みたいのを出してるけれどあれが魔法障壁なんだろう……
その魔法障壁は何の意味があったのか分からないほど、呆気なく切り裂かれそのままリッチも消滅していった。
恨み言も捨て台詞も、断末魔さえ残さずに。
「あれ? そういや外で待ってるんじゃなかったか?」
「ごわがっだんでず〜!! うわ〜ん!!」
私が大声で泣き出すと、ブラックさんはオロオロするばかりで、やっぱりあんなにおっかない魔物を瞬殺しちゃうような凄い人には全然見えなかった。
ひとしきり私が泣いて落ち着くまでの間、ブラックさんはずっと、面白くも無いネタで私を笑わせようとしてくれていて、ちょっとキモかった。
古城から帰る前になってブラックさんは忘れ物したみたいにリッチのいた隠し部屋を漁って3、40センチぐらいの高価そうな箱を持ってきていた。
「その箱、なんなんですか?」
「ん? これ? リッチの本体」
「えっ!?」
あの箱がリッチの本体とか意味がわからないけれど、生きて帰れて良かった……
空はまだ暗い。 古城の中の澱んだ空気から外の新鮮な空気に触れ清々しい気持ちになる。
古城に入ってから、どれくらい時間が経ったのかはわからないけれど………………馬車はいなかった。
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