第2話 葛藤と原宿と

 さて、前回は楽しそうに旅行の準備をしているように見えたかもしれないが、そこに至るまではかなり酷いものだった。

 なにせ、夫の気配を感じるだけで動悸がするレベルだったので、基本的には極力顔を合わせないようにして過ごしていた。食事も別々にしていたし、顔を合わせても挨拶もしなかった。


 この時は、本気で離婚を考えていた。

 私のメンタルまで巻き込んでいることに対して謝らない夫に腹も立てていたし、状況を打開するキーが何も見えなかったのだ。

 離婚 or die。そのくらい追い詰められていたし、Xでいろんな人を心配させてしまったのは、後者の可能性を色濃く匂わせてしまったからだろう。


 たかだか1泊2日。そこで自分の精神が、現状を変えられるほど変化するとは思えなかった。

 けれど、少しでも家から離れたかった。だから私はスーツケースを持ち出して、娘のパソコンまで詰め込んで出かけたのだ。


 2/9の朝、最寄り駅まで母に車で送って貰い、私と娘は電車に乗り込んだ。

 最初の目的地は原宿である。あまり遠くはない。

 電車の中で、浅草グルメをチェックしたり、「明日ここ行こう」とか観光の予定を立てながら過ごした。


 そして、原宿に到着後、竹下通りへ。

 わかっちゃいたけど、物凄い人口密度だ。外国人観光客も多いし、修学旅行っぽい学生もいる。

 スーツケース邪魔だなあ、と思いながら、「かわいい動物園」を目指して進む。


「そういえばね、この1本隣の通りに、パパとママが結婚式を挙げたレストランがあるんだよ。見てみる?」


 ごく当たり前のように、私は娘にそんなことを言っていた。

 そう、私と夫は原宿のブラームスの小径にある洋館を使ったレストランで、結婚式を挙げたのだ。

 あの時はさすがに朝早かったし、竹下通りもほとんど人がいなかった。……なんてことを思い出しながら「私、何考えてるんだろう」と自分でちょっと嫌になった。


 夫から離れたくて家出してるのに、なんで結婚式の思い出を話そうとしてるんだろう。

 でも、結婚式を挙げた場所が近くにあるんだから、娘に話して当然だろうか。


 自分でも葛藤していたら、娘のあっさりとした「見ない」という一言でその話は終わった。人混みの中を、前に一度見かけた「かわいい動物園」を目指して歩く。

 娘は人が多いところは苦手だが、竹下通りの独特のお店の感じなどは興味を惹かれたようで、楽しんでいるようだった。


 さて、「かわいい動物園」である。ここは、猫カフェのように入場料を払って動物とふれあえる場所だ。

 お目当てはフェネック。他にもミーアキャットやフェネック、ハリネズミ、フェレットがいる。受付で「カピバラもいますよ」と言われたが、私はカピバラの赤ちゃんを抱っこして指をちゅーちゅー吸われた経験があるので、今回はカピバラはパス。


 30分だけだったが、私たちは内心「可愛いいいいいい」と絶叫しつつ、実際は「可愛い……」と崩れ落ちつつ、普段は触る機会が無い動物たちと触れ合って大満足をした。

 フェネックは人慣れしすぎていてなで回しても全く起きないし、フェレットも抱っこした瞬間眠る。ミーアキャットは抱っこしたらセーターを掘ってくる。

 こういう施設は賛否両論わかれるかもしれないけど、物凄く気持ちが盛り上がったし癒やされた。もふもふは正義なのだ。



 原宿でかわいい動物園に行った後お昼を食べて、すぐ浅草へ。そんな予定を立てていたのだが、ゴスロリ好きの小6女児を連れて竹下通りを抜けるのは物凄く時間がかかると私は気づいていなかった。


 まず、かわいい動物園を出た瞬間、その1階下のロリータ服のお店に吸い込まれた。

 まあいいや。私も服を見るのは好きだし、娘が可愛い服を着るのを見るのも楽しい。

 お店のWEBショップをチェックし、とりあえずお財布の中身には限りがあるので髪飾りを買い、30分以上引っかかってから外へ。その途端、「りんご飴食べたい」と言われた。

 この子はどんだけりんご飴好きなのかね。私たちが今食べるべきは昼食であってりんご飴じゃないんだよ。

 そういう気持ちも少しあったが、この家出旅は娘のストレス解消のためでもあるのだ。食べたいなら食べましょう! ママはチーズハットグが食べたいよ!


 切り分けてもらったりんご飴をふたりで食べ、ちょっと移動してお店を覗き、レインボーなわたあめに娘が気を取られていたので「食べたかったら食べなさい。今日は何も言わないから」と背中を押し。


 やっぱり、可愛い物好きの娘と見る原宿は、それなりに楽しかった。難点は私たちの荷物が邪魔なことで、どうせ家からは1時間も掛からずに来られるんだし、また来ようねと言って原宿を後にした。


 この時点で予定の3時間オーバー。

 そして、昼食は食べ損ねた。

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